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第18話:見つめる魔眼と一瞬の猫影

第一の結界を、蜘蛛の糸と石ころという、およそ王城の警備を担う魔術師たちが想像だにしなかったであろう方法で突破した俺たちは、さらに奥へと進んでいた。国王の寝室は、もう目前だ。


そして俺たちは、第二の結界の前にたどり着いた。

そこに広がっていたのは、踊り場のように少し開けた、円形の空間だった。そして、その中央には、バスケットボールほどの大きさの一つ目の魔眼――『監視者ウォッチャー』が、ゆっくりと浮遊していた。


「…最悪だわ」セリアが、柱の影からそっと覗き込み、顔を顰める。「あれは、物理的な干渉と魔力の流れ、両方を感知する自律型の監視魔術よ。音も、光も、空気の揺らぎさえも見逃さない。隠密ステルス系のスキルを持つ暗殺者でも、あれを突破するのは至難の業よ」


監視者の巨大な瞳孔が、まるでサーチライトのように、空間の隅々までを、ゆっくりと、しかし執拗になめ尽くすようにスキャンしていく。あれに捕捉されれば、一巻の終わりだ。


何か、陽動が必要だった。だが、音を立てれば、すぐさま警備兵が駆けつけてくるだろう。どうする? 俺たちが柱の影で息を潜めていた、その時。もはや空気を読むということを知らない電子音が、脳内で高らかに鳴り響いた。


「本日もスキルガチャの時間でーす!」


俺は、もはや何の感情も込めずに、ただ機械的にガチャを回した。


【見ている壁に、3秒間だけ、猫の完璧な影絵を映し出すことができる】


「…………」


猫。影絵。3秒間。

あまりのことに、俺は思考を放棄しそうになった。だが、その無意味な単語の羅列が、俺の脳の片隅で、一つの可能性と結びついた。


監視者は、音や魔力だけでなく、『動き』にも反応する。


「セリアさん」俺は小声で囁いた。「あの監視者が、向こう側を向いた瞬間、俺は部屋の入り口の壁に、猫の影を映し出す。ほんの数秒だが、奴の注意をそっちに引けるはずだ。その隙に、一気に駆け抜ける」


「…猫の、影?」

セリアは、俺が何を言っているのか分からない、といった顔をした。だが、彼女はすぐに、いつもの「どうせヒロトのことだから、何か考えがあるのだろう」という諦観と信頼の入り混じった表情で、こくりと頷いた。


俺たちは、息を殺してその時を待った。監視者の瞳が、ゆっくりと部屋の反対側へと旋回していく。今だ。


俺は、部屋の入り口付近の壁に意識を集中し、スキルを発動した!


次の瞬間。何もないはずの壁に、一匹の猫が、まるで壁を駆け抜けるかのような、俊敏な影絵が、音もなく現れ、そして消えた。

それは、魔力も持たず、実体もない、ただの光のトリック。だが、完璧な静寂と停滞の中で、その予期せぬ『動き』は、絶対的な異物だった。


監視者の巨大な瞳孔が、カッ、と見開かれる。そして、凄まじい速度で、影の現れた入り口の方向へと旋回した!


「今!」


そのコンマ数秒の隙を、セリアは見逃さなかった。彼女は俺の腕を掴むと、ほとんど地面を滑るかのような、驚異的な速さで円形の空間を駆け抜ける。俺の視界が、一瞬で横へと流れていった。


俺たちが、反対側の通路へと飛び込んだ直後。監視者は、異常なしと判断したのか、再び元のゆっくりとしたスキャンへと戻っていった。


「…はぁ…はぁ…。信じられない…。あれを、猫の影で出し抜くなんて…」


セリアが、興奮冷めやらぬ様子で息をつく。俺は、彼女に「次だ」と目配せした。


そして、俺たちはついに、最後の扉の前にたどり着いた。国王の寝室へと続く、重厚な樫の扉。だが、その扉には、鍵穴一つなかった。代わりに、扉全体に、銀色の糸で描かれたかのような、複雑な魔法陣が刻まれている。


「…第三の結界。『封印の扉』よ」セリアが、絶望的な声で言った。「これは、特定の魔力パターンを流し込まなければ、決して開かない。物理的な破壊は不可能。正真正銘、この城で最も強固な守りよ」


目の前には、ゴールがある。扉の向こうからは、国王のかすかな、しかし苦しげな寝息さえ聞こえてくるようだ。だが、そのゴールへと至る道は、完全に閉ざされていた。


俺は、自分のスキルリストを、最初から最後まで、必死でスクロールした。壁を通り抜けるスキルも、魔法の鍵を開けるスキルも、もちろん、そんな都合のいいものは、どこにもなかった。

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