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第16話:獅子の寝室と一本の蜘蛛糸

「…見事なまでの、金色の鳥籠ね」


俺たちに与えられた豪華な客室で、セリアは窓の外を眺めながら皮肉たっぷりに言った。窓の外には、見張りの兵士が二人、ご丁寧に配置されている。ゲルハルト公爵は、俺たちを「休息」させるという名目で、完全に隔離するつもりらしかった。


「ああ、まったくだ。下手に動けば、すぐに公爵の耳に入るだろうな」


俺たちは、すぐに作戦会議を始めた。目的地は、王城の最上階にある国王の寝室。そこに至るまでの道のりは、困難を極めるだろう。


「廊下の警備兵は、私が何とかできるわ。問題は、魔法的な罠よ」


セリアが、記憶を頼りに城の見取り図を床に描きながら言う。

「ヴァレリウスが失脚したとはいえ、彼が敷設した王城の防衛システムは、今も公爵の管理下にあるはず。国王の寝室に続く通路には、少なくとも三つ、強力な魔法障壁が仕掛けられているわ。魔力を持つものが通過しようとすれば警報が鳴り、物理的に突破しようとすれば、迎撃術式が発動する」


Aランクの彼女でも、高位の魔術師が作り出した結界を、専門外の知識で破ることはできない。何か、結界そのものを無力化するか、あるいは、結界に気づかれずに通過する方法が必要だった。


俺は自分のスキルリストを隅から隅まで確認したが、魔法を直接どうこうできるような便利なスキルは一つもなかった。【指を鳴らすとカラスが鳴く】スキルで陽動はできても、結界を通り抜けることはできない。


「…何か、決定的な一手が必要ね」


セリアが悔しそうに呟く。まさにその時、俺の頭の中に、一日一度のチャンスを告げる音が響いた。


「本日もスキルガチャの時間でーす!」


頼む…! 今度ばかりは、本当に、使えるスキルを…!


【任意の二点間に、長さ10メートル以内の、一本だけ蜘蛛の糸を張ることができる。糸は魔力を持たず、葉っぱ一枚の重さにしか耐えられない】


「…………」


俺の顔から、表情が消えた。

蜘蛛の糸。葉っぱ一枚分の、強度。

俺の最後の希望は、儚く、そして無慈悲に断ち切られた。


「…ダメだったようね」


俺の様子を見て、セリアが力なく言った。彼女の瞳にも、諦めの色が浮かんでいる。だが、その時。俺の頭の中で、絶望の淵から、一つの突拍子もないアイデアが、泡のように浮かび上がってきた。


葉っぱ一枚分の、強度。

魔力を、持たない。


「…いや」俺は、顔を上げた。「セリアさん。これかもしれない」


「本気で言ってるの?」


「ああ。この結界は、魔力と、物理的な侵入者に反応するんだろう? なら、魔力もなくて、重さもほとんどない、ただの蜘蛛の糸なら、どうだ?」


俺の意図が分からず、セリアは首を傾げている。俺は、床に描かれた見取り図を指さした。


「結界の術式をよく見てくれ。警報のトリガーは、通路を横切る、目に見えない魔力の『線』に触れることだ。だが、その魔力の線を発している『魔道具』が、必ず壁か天井のどこかに埋め込まれているはずだ」


「ええ、それが普通だけど…」


「その魔道具に、直接何かをすればいい。例えば…」俺は懐から、以前ティンバーグの街で手に入れた、ただの石ころを取り出した。「こいつを結界の向こう側にある魔道具にぶつけて、物理的に破壊できたら?」


「無理よ。石を投げれば、その石が魔力の線に触れて、術式が発動するわ」


「ああ、普通に投げればな」俺は、にやりと笑った。「だが、この『蜘蛛の糸』を使えば、石を投げることなく、結界の向こう側へ運べるかもしれない」


それは、あまりにも繊細で、あまりにも馬鹿げた作戦だった。だが、この絶望的な状況を覆せる可能性があるとしたら、もはや、こういう馬鹿げた作戦に賭けるしかなかった。


俺とセリアは、顔を見合わせた。彼女の瞳に、再び闘志の光が宿る。


「…本当に、あなたは最高に面白い男ね。分かったわ。そのふざけた作戦、乗ってあげる」


俺たちは、城が深い眠りに落ちるのを待った。今夜、この一本の蜘蛛の糸が、俺たちの運命を左右することになる。

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