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第14話:英雄への褒賞と故郷からの凶報

アークライト王国の首都アズラへの帰還は、凱旋そのものだった。


都に鳴り響く歓喜の鐘の音。舞い散る花びら。そして、道行く人々からの、惜しみない賞賛と感謝の言葉。歌声を取り戻した大地は、ほんの数日で、目に見えてその生命力を取り戻していた。オアシスには水が満ち、枯れかけていた植物は再び青々と葉を茂らせ始めている。人々は俺たちを「歌を呼び覚ました聖人」と呼び、その熱狂は、俺とセリアが王宮にたどり着くまで続いた。


「【奇跡の調停者】殿、そして【銀閃の騎士】殿。この御恩は、我がアークライト王国、末代まで決して忘れませぬ」


謁見の間。アークライトの王は玉座から立ち上がると、自ら俺たちの前まで歩み寄り、最敬礼をもって俺たちを迎えた。


「褒賞として、望むものを何でも与えよう。国宝である『砂漠の宝石』か、王家に伝わる伝説の魔剣か。あるいは、この国の貴族として、一等の土地を与えることもできるぞ」


破格すぎる条件に、俺は思わず後ずさった。セリアも隣で困ったような顔をしている。俺は頭をかきながら、丁重に、しかしきっぱりとそれを断った。


「いえ、そんな大それたものは…。俺たちは、ただ、困っている人を助けたかっただけですから。それに、国を救ったのは俺のスキルじゃなく、蝶ですし」


俺の言葉に、王や大臣たちはきょとんとしている。やがて、王は腹の底から豪快に笑い出した。


「クハハハ! 面白いことを言う! 欲がなく、それでいて謙虚。それでこそ、奇跡を起こす者の器か! …よろしい。ならば、金品や地位ではない、我らの『友情の証』を受け取ってはくれまいか」


王が合図すると、侍従が恭しく、一つの小さな箱を運んできた。その中に収められていたのは、手のひらサイズの、滑らかな青い石だった。


「それは『共鳴石』。『太陽の船』の船内でのみ採れる、希少な鉱石です。二つで一対となっており、片方の石に魔力を注ぐと、もう片方の石が、どれだけ離れていても温かく光り輝くのです」


王はそう言うと、俺とセリアに一つずつ、その石を手渡した。

「一つはそなたたちに。そして、もう一つは我が王家が保管する。もし、そなたたちの国が危機に陥った時、あるいは、我らの助けが必要になった時、この石で知らせてほしい。アークライト王国は、全力を尽くしてそなたたちの力となろう」


それは、金銀財宝よりも遥かに重い、一つの国との絆の証だった。俺たちは、その申し出を、ありがたく受け取ることにした。


その夜に開かれた盛大な送別の宴。俺は、華やかな雰囲気に馴染めず、こっそりとテラスに出ると、静かに日課を済ませた。


「本日もスキルガチャの時間でーす!」


【10秒間だけ、自分が話す声を、目の前の相手と全く同じ声色にすることができる】


「……声真似、か」


外交の場で使えば、相手を混乱させることはできるかもしれないが、使いどころが極端に限られる、相変わらずのスキルだった。


宴が終わり、翌朝。俺たちは、故郷へと帰るための飛空艇に乗り込もうとしていた。ファハドをはじめ、多くの人々が見送りに来てくれている。


その、別れの挨拶を交わしていた、まさにその時だった。


空の彼方から、一羽の猛禽が、凄まじい速さで飛来してきた。それは、俺の祖国で使われている、王家直属の伝令鳥だった。伝令鳥は、俺の腕に一直線に着地すると、その足に括り付けられた、黒い蝋で封をされた通信筒を差し出した。


それは、緊急かつ、最高機密の知らせであることを示していた。


俺は、周りの訝しげな視線を感じながら、封を解いた。中から出てきた羊皮紙に書かれていたのは、暗号化された、ごく短い一文だった。


『―――王、倒れる。原因不明。至急帰還されたし』


俺の背筋を、冷たい汗が伝った。国王テオドールが、倒れた? あの、誰よりも頑健だったはずの王が?

ギデオンの事件は終わったはずだ。だが、ヴァレリウスが率いた派閥の残党は、まだ宮廷内に深く根を張っている。王の突然の病。それが、ただの偶然であるとは、到底思えなかった。


アークライト王国での歓喜と安堵は、一瞬にして吹き飛んだ。故郷で、新たな、そしてより深刻な戦いが、すでに始まっている。

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