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第11話:星々の楽譜と一粒の光

船との奇妙な対話は、それから数時間にわたって続いた。


俺が水滴で一つの図形を描き終えると、スクリーンに新たな図形が浮かび上がる。俺たちはそれを記憶し、また隣のスクリーンに描き出す。セリアの驚異的な記憶力がなければ、途中で投げ出していただろう。それは、まるで古代の神が作り出した、あまりにも複雑で、あまりにも根気のいる、セキュリティ認証のようだった。


そして、俺たちが十二番目の図形を完璧に描き終えた、その時。


操作盤のスクリーンが、まばゆい光を放った。これまでのような単一の図形ではない。スクリーンには、無数の光の線と点で構成された、あまりにも精緻な、巨大な模様が映し出されていた。それは、天の川をそのまま写し取ったかのような、星々の楽譜。あるいは、生命の設計図。


「…これが、『太陽の船』の歌の…正体…」


セリアが息を呑む。これが、国一つを生かす奇跡の歌の、本来の姿なのだ。だが、その完璧な楽譜の、ちょうど中心部分に、たった一つだけ、ぽっかりと穴が空いていた。そして、その空白の部分が、まるでエラー表示のように、不吉な赤い光でゆっくりと点滅している。


「…音符が、一つだけ抜け落ちている…?」


原因は、これか。歌という名の巨大なプログラムから、たった一つの重要なデータが欠落したために、システム全体が停止してしまっていたのだ。そして、スクリーンに浮かび上がった楽譜は、俺たちにその「失われた一音」を、その空白に埋めることを要求しているようだった。


「無茶よ…!」セリが声を上げた。「何の情報もないのに、この複雑な楽譜の、たった一つの音をどうやって見つけろって言うの!?」


彼女の言う通りだった。下手に間違った情報を入力すれば、今度こそこの船は、完全に沈黙してしまうかもしれない。完全なる、手詰まり。俺は、すがるような気持ちで、今日最後となる儀式を執り行った。


「本日もスキルガチャの時間でーす!」


脳内に響く声に、もはや何の感慨も湧かない。カプセルから出てきた、今日最後のスキルは。


【半径10メートル以内にある、一粒の塵を、3秒間だけ、淡い光で輝かせることができる】


「…………」


俺は、とうとうその場にへたり込んだ。

塵。一粒の、塵。

もう、言葉も出ない。


「ヒロト、しっかりして!」セリアが俺の肩を揺する。俺は、半分自暴自棄になりながら、スキルを発動してみた。どうせ何も起こらない。この船内は、古代の技術で完璧に清浄に保たれている。塵一つ、落ちているはずが…。


その時だった。


ドームの中央。弱々しく脈動する光の心臓の、ちょうど真ん前あたり。何もないはずの空間で、一つの小さな、本当に小さな光の点が、ふわり、と輝き始めたのだ。


それは、太陽の光に照らされた、ただの埃のようにも見えた。だが、違う。この船内は、無菌室のように清浄だ。あそこに、塵があるはずがない。


俺は、はっと息を呑んだ。

まさか。あれは、ただの塵じゃない。


船の歌が止まった時、その衝撃で楽譜から弾き出された、本来あるべき場所に戻れなくなった、『失われた一音』そのものだとしたら?


俺のスキルは、ランダムな塵を光らせるものではない。『指定した範囲にある、一粒の塵を』光らせるスキルだ。つまり、あの空間に存在する塵が、あれ一粒だけだったとしたら?


「…あった」


俺は、震える声で呟いた。

「セリアさん。あそこだ。失われた音が、あそこにある」


俺は、弱々しく光っては消える、その小さな小さな光の点を指さした。それは、この国を救うための、たった一つの希望。だが、どうやって、あの宙に浮く、肉眼で捉えることさえ困難な一粒の塵を捕まえ、操作盤まで運ぶというのか。


答えは、すぐそこに見えている。だが、その答えに手を伸ばす方法が、全く分からなかった。

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