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ギアフォートレス  作者: 佐乃上ヒュウガ
機械仕掛けの神
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第44話 威力偵察


 結局ダリア達を保護したその日にヴァンクールが攻撃を仕掛けてくることはなく、エアー7は補給と休息の為デイム駐屯基地へと帰還することになった。

 エアー7は燃料効率を最大にした巡航速度で24時間の連続飛行が可能だが、その主目的は哨戒でなく戦闘である。

 いたずらにクルーの体力を消耗しては本末転倒ということで、日中は基地での待機となった。


 そうして基地へと帰還して数時間が経った後、その知らせは届いた。


『哨戒機より連絡。敵機を確認。待機部隊は迎撃の準備に入れ』


 基地内放送を聞き、ユウリ達はエアー7に搭乗。詳細を確認すべくデイム駐屯基地の司令官、ヴィクトルに通信を繋げる。


「話は聞いた。出撃する。敵機の詳細と編成は?」

『予想以上に多い。ガルガンディア1、ギア運搬用の輸送機と思われる中型機2、それにフォートレス――カレス1。加えて護衛と思われる戦闘機が複数』

「アーディナル基地のほぼ全戦力です」


 報告を聞いたダリアが顔色を変える。

 第四世代を主力とした少数部隊で可能な限り首都へと接近、ムーンドロップを起動するというのがユウリ達ヴァンクール側の予想した敵の動きだった。


 この予想に沿って段階的な防衛線を敷いていたのだが、敵の動きはほぼ真逆だ。

 不意を突くという意味では成功したのかもしれないが、これ程の大部隊を動かせば最早宣戦布告と変わらない。


「ヴァンクールからの宣戦布告は?」

『ない。国境に接近中の部隊に関して問い合わせているが、向こうも混乱しているようだ。どうもイヤな感じがする』


 ユウリの問いにヴィクトルが応じる。それを聞いてアリシアが即座に提案した。


「経済連盟への抗議と連合国へ支援要請を。それだけ大胆なことしてるならもう宣戦布告でしょ」

『残念だが難しい』

「あの時と何も変わってないってのっ!?」


 ラーダッド解放戦線がテロを起こした時と対応が変わらない。

 激昂するアリシアだが、声色を変えることなくヴィクトルは続ける。


『言われるまでもなく既に連絡は済ませた。各国には事前に話も通していた。しかし状況が変わった。帝国が倭国に対し宣戦布告した』

「なっ……」


 あまりの事態にユウリを始め、クルーは皆言葉を失う。

 あのクライドでさえ信じられないといった表情を浮かべている。

 帝国は、一国で連合国と変わらぬ地域を支配している大国だ。寧ろ連合国や経済連盟といった共同体は帝国に対抗するために作られたといっても過言ではない。


 連合国や経済連盟の中にさえ帝国派の国家が存在しており、『大戦』時代に帝国の植民地となった国や当時の同盟国を含めれば途方もない規模になる。

 それらの国に対し、連合国と経済連盟は警戒の目を向けるだろう。

 当然の対応だ。当然の対応だが、その理屈で言えば帝国と蜜月関係を築いていたヴァンクールやそのヴァンクールから独立したラーダッドなど限りなく黒に近いグレーと言える。


 ラーダッドとクラナダの関係は良好だが、この状況で迂闊に増援を出すのは他国も難色を示すだろうし、世論も納得しないだろう。

 つまりはヴィクトルの言うとおり、増援は期待できない。


『宣戦布告のことは今は気にするな。そちらは他の者達が情報を収集している。当面の危機に対処することが我々の最優先事項だ』

「そうだな……。エレナ、準備は?」

「完了。いつでも出せるよ」

『当ては外れたが、こちらも敵の動きに対応して後方に戦力を集結させている。出撃の目的はあくまで威力偵察。敵部隊の動きの確認だ。くれぐれも深入りはするな』

「了解した。エレナ、頼む」

「了解。エアー7、発進する」


 ユウリの指示の元、エレナの操縦で滑走路を飛び出していくエアー7。しかしどうにも雲行きが怪しくなってきた。

 ダリアは真剣な表情でクライドに視線を送る。


「どう思います、クライド」

「知るか。完全にこっちの予想を飛び越えてやがる。そもそも目的が見えねぇ」


 ムーンドロップの実践投入と、その威力を誇示することで後の交渉を有利に進めるというのならまだ理解のできる話だった。

 しかし今の状況でムーンドロップを使用しては自軍への被害が大きすぎる。


「ムーンドロップを使用せず、正面から突破しようとしてるとか?」

「ラーダッドの頭がすげ替わる前ならともかく、今は無理だろうな。報告にあった数の倍は必要だろうよ」


 アリシアの問いに対してもクライドは即答する。

 ユウリも同意見だった。以前の懐古主義丸出しの首脳陣ならばともかく、ヴィクトル達革新党が与党となったことでその意思決定は迅速に行われるようになった。


 またヴィクトルの主導でギア部隊の戦力も増強されている。

 ヴァンクールが総力を挙げて、というのならともかくアーディナル基地の戦力だけでラーダッドの首都を制圧するのは無理がある。


「もし、貴方達がカレスで指揮していたとしても?」

「アリシアっ」

「無理だ」


 窘めようとするエレナに構わずクライドは答えた。忌々し気なその視線はアリシアでなく、ユウリへと向けられている。


「ヴァルキュリアの連中を俺がアサルトハウンドで指揮したとしても、ラーダッドの第四世代が阻んでくる。痛み分けが精々だ」

「痛み分け? 返り討ちの間違いだろ」

「ユウリまで。頼むからもうちょっと穏やかにさぁ」

「大丈夫でしょう、エレナ。クライドも、そちらの彼も私怨を優先するほど愚かではないでしょうから」

「あぁっ、もう。何で人が増えたら増えた分あたしの苦労が増えるのかなぁ。先輩はこっち側だと思ってたのに」

「……ねぇエレナ、私は向こう側なの?」


 自覚のないらしいアリシアがエレナに問いかけているが、実りのない話をあまり続ける余裕もない。

 現在確認されている戦力で敵が何をするつもりなのか、それがまったく予想できない為だった。




 確認されたヴァンクールの部隊は国境を越え、ライン地域へと入っていた。

 ガルガンディアと戦闘機が先陣を切り、後方にカレスと二機の輸送機が続く形で編隊を組んでいる。

 高度をそれほど高く取っていないことから、部隊の主力が航空戦力でなく中に格納しているギア部隊であると予想された。

 対するアリシア達ラーダッド側はエアー7と四機の戦闘機、地上に八機のハウンドと指揮官であるクライドが操るライトニングハウンドといった編成でこれを待ち受ける。


「(というか、普通に部隊指揮を任されるとか……これ絶対傭兵の仕事じゃないわよね)」


 エアー7は離れた地点から敵の動きを観測し、戦闘機はその護衛を務める。

 ラーディプトと戦闘を行った際と同様、部隊の全体指揮は広い索敵範囲を持つエアー7に搭乗しているアリシアが務める。

 さも当然と言うかのようにヴィクトルがこの人選を決定し、万象一致で可決された。


 聞いた話によると、アリシアが雇われるまではエレナがフォートレスの操縦と兼任してこの役割を果たすことが多かったのだとか。

 操縦、索敵、戦況の把握に敵の情報解析。エレナ一人でどれだけの役割をこなしてきたのだろうか。

 ミサイルはあまり撃ったことがない、という彼女の言葉に思わず納得してしまった。

 つまり彼女はそれ以上に重要な役割をこなしていたということだ。


『こちらA2。G1からG8、全機配置に付いた。言っておくが他の連中の面倒を見るつもりはないからな』

「こちらF1。A2、今求められているのは個人の技量でなく部隊としての統率の取れた作戦行動です。適切な対応を望みます」

『……クソがっ』


 窘められ毒づくクライドだが、一応指示には従うつもりらしい。

 クライドが八機のハウンドを統率し、エアー7のブリッジからダリアがクライドを経由して部隊への指示を出す。

 この人選はエレナからの提案だったが、二人の関係を考えると確かに適切と言えるだろう。


 攻撃を担当するのは地上のギア部隊とスカイブルー。

 地上のハウンド隊は狙撃用のスナイパーライフルを装備し、大戦の影響で廃墟と化したゴーストタウンに配置。身を隠し移動しながら上空の敵部隊に対し砲撃を行う。

 その隙にスカイブルーが敵機を攻撃するという手筈になっていた。


「敵機の進路に変更はなし。間もなく射程に入る」


 エレナの役割はフォートレスの操縦とスカイブルーへの指示。

 地上の状況をダリアが、空の状況をエレナが管理し、アリシアが全体の統制と司令部との通信を担当するという形である。


「了解。こちらF1。まもなく敵機が射程に入るわ。ギア部隊は全機、合図と共に攻撃を開始して。全機、くれぐれも引き際を間違えないように」

『ちょろちょろ動いてこっちの弾に当たるような真似すんなよ、サムライ野郎』

『一発二発の誤射程度なら効きやしない。自分の狙撃の腕の心配だけしてろ犬野郎』

「スカイブルーにはエネルギーシールドがあるから、遠慮なく連中に砲撃を食らわせてやりなさいってことね。それじゃあ――攻撃開始っ!」


 ユウリとクライドの言葉の応酬をアリシアがまとめ、合図を出す。

 同時にスカイブルーもカタパルトから出撃し、雪がちらつく鉛色の空を駆けていくのだった。




 天候が良くなく視界が悪い。近距離戦を主とするスカイブルーにとっては都合が良いが、地上からの狙撃は精度が落ちて一長一短といったところか。

 未だ離れた距離にいる敵部隊を確認し、ユウリは状況を分析する。


「(さて、どう出てくる……?)」


 地上からの火線を避ける為左に大きく迂回しながら敵部隊との距離を詰めていく。

 主な敵が航空機になることからスカイブルーの武装はアサルトライフル二丁。左肩にはデコイを装備し、右肩のコンテナにはエネルギーブレードを格納している。


 第四世代ギアは戦闘機の天敵といえる。戦闘機の武装でエネルギーシールドを破るにはミサイルの直撃が必要で、当然ユウリもそれを承知しているからこそミサイルへの対策を用意する。

 また最高速度では戦闘機に及ばないものの、第四世代ギアにはエンジンの出力に物を言わせた瞬発力と、腕を用いているが故の射角の広さがある。


 過去に一度遭遇した、レーザー兵器とエネルギーシールドを搭載した戦闘機。あのような化け物でも出てこない限り戦闘機ではスカイブルーに太刀打ちできないだろう。

 かといってガルガンディアを出して対抗してくるようなら、攻撃をかいくぐり取り付いてエネルギーブレードを見舞うまで。残る対抗手段は―――。

 そう考えた矢先、エレナからの通信が入る。


『ユウリ、注意して。アサルトハウンドが出て来た』

「まぁ、そう来るだろうな」


 スカイブルーから転送された映像を見れば、カレスからアサルトハウンドが出撃しこちらへ向かってきている。

 また地上からの砲撃に対抗するつもりなのだろう、同時にギア部隊を降下させている。

 向こうの主力もあくまでギア。この点もまたユウリ達が想定した通り。


 第四世代ギアには第四世代ギアで対抗する。理に適っている。

 敵部隊に接近しようとするスカイブルーを阻むべく向かってくる機影は二。アサルトハウンド、そしてガンガンディア。

 前衛を務めるのはアサルトハウンド。ガルガンディアはアサルトハウンドのから一キロほど離れた距離を保ちながら接近してくる。


「……上等」


 アサルトハウンドの存在は想定の通り。問題は、向こうにクライドに代わるパイロットが居るかどうか。それもすぐに明らかになる。

 機影を肉眼で捉える。以前戦った時と同様の、灰色の装甲に覆われた鋭角なフォルムの機体。


「(仕掛けるっ!)」


 ガルガンディアから放たれた砲撃を最小限の動きで回避し、間合いを詰める。

 まずは前衛のアサルトハウンドを無力化する。そう考えた次の瞬間――。


『避けて、ユウリっ!』

「なにっ!」


 エレナの声に反射的に反応しサイドブースターを使用。大きく左に旋回する。

 そんなスカイブルーの装甲を、ガルガンディアの砲撃とタイミングをずらして放たれた二発の銃弾が掠めていく。

 一発目はガルガンディアのキャノン砲。続いて放たれた二発の銃弾もガルガンティアの方からだった。


「っ……」


 エアー7から転送された映像を見てユウリは顔を顰める。ガルガンディアの機体の腹の部分が開き、そこから狙撃銃を装備したハウンドがこちらへと狙いを定めている。

 二発の銃弾の正体はこれか。


『敵機接近、アサルトハウンド』

「このっ……」


 ユウリは機体を回頭させることなく、バックブースターで機体を後退。サイドブースターを用いて左右に機体を振りながら、二丁のアサルトライフルで迎撃を行う。

 交差して背後を取られればガルガンディアとアサルトハウンドに挟まれる形になり不利になる為だ。


 しかしスカイブルーの攻撃は、アサルトハウンドのエネルギーシールドに阻まれ有効打にはならない。

 とはいえそれは向こうからの攻撃も同様。見たところスカイブルーと同じく、アサルトハウンドも近中距離を意識した弾幕を張るタイプの武装を装備している様子だ。

 お互い回避行動を取りながらの撃ち合いでは直撃には至らず、有効打にはなり得ない。


 このような状況になると、通常は接近し一方的に銃弾を浴びせることが出来る背後を奪い合うドッグファイトになるのだが、ガルガンディアの存在が状況をややこしくしている。

 アサルトハウンドは何も単機でスカイブルーを攻撃する必要はなく、足止め役を務めればそれで十分なのだ。


 アサルトハウンドとスカイブルーが銃撃戦を繰り広げている間に、後方からガルガンディアが砲撃を行ってくる。

 機体を後退させながら、ユウリは状況を分析する。


 先ず最も威力が高いのはガルガンディアのキャノン砲。これは常に警戒し、必ず避ける。

 続いてハウンドからの狙撃。エネルギーシールドでその威力はある程度軽減できるだろうが、弾速が早い狙撃銃の弾はそのエネルギーを完全に吸収することは出来ない。

 フランベルジュのレールガン程致命的でないにしろ、まともに当たれば大きくバランスを崩すだろう。

 そうしてバランスを崩し動きを止めれば、アサルトハウンドからの攻撃を避けられない。


 キャノン砲を避けるのはそれほど難しくない。威力が高い分重量もあって照準に時間がかかるので、動き続けていればまず当たることはないだろう。

 問題はハウンドの狙撃。異様に精度が良く、嫌なタイミングで撃ってくる。少しでも油断すれば直撃を食らいかねない。


「エレナ、後ろの奴だが……」

『うん、ハウンドだね。多分だけど、スカイブルーの回避行動を予測して撃ってきてる。こんな腕の良いスナイパーはそうそう居ないと思うんだけど』

「ラプラスと同じようなサポートプログラムってのは?」

『そんな簡単なものじゃないよ。攻撃してくる相手の予測と逃げる相手の予測じゃ精度が全然違ってくる。パイロットの癖もあるし』


 攻撃の予測は比較的容易、というのがエレナの見解だった。ユウリもその考えに異論はない。

 相手の目的が攻撃であるのなら、その行動はある程度限定される。

 照準を定める、振りかぶる、間合いを詰める。そうした予備動作を検知してその後に続くモーションを予測するのがエレナの開発したラプラスの仕組みだ。


 しかし回避となると予備動作に頼った予測が使えなくなる。

 また攻撃を回避するという目的を果たす手段は、攻撃を命中させる為の手段に比べてパターンが圧倒的に多い。


 相手の回避行動を予測して攻撃を行う。言葉にすれば簡単で実際これ程効率的な攻撃手段はないだろうが、これを実現するのは至難を極める。

 白兵戦のようなある動きが限定される状況であればユウリにもある程度の予測が可能だが、遠距離の撃ち合いでそのような真似はとても出来ない。


 しかし敵はそれを実現している。それも偶然に頼ったものでなく、戦術に組み込めるだけの精度でだ。

 今のところ直撃は避けられているが、それ程長くはもたないだろう。

 二機のハウンドを搭載したガルガンディアとアサルトハウンドの連携は相当な脅威だ。少なくとも中長距離での戦闘では勝負にならない。


「(オーバーブーストで間合いを詰めて、まずはガルガンディアを墜とすか……)」

『目的は威力偵察。ユウリ、分かってるよね』

「……分かってるよ」


 そう何度も釘を刺されずとも、承知している。考えてみただけだ。

 アサルトハウンドとガルガンディアだけならばまだしも、後ろには航空部隊が控えている。

 今は温存の為かミサイルを使用してくる様子もないが、スカイブルーが突出すれば当然反撃してくるだろう。

 呻くように答え、ユウリはアサルトハウンドと一定の距離を保ちながら飛行を続けるのだった。

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