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外伝1:滅びの未来

滅びの未来を迎えた『トガ』側の末路

第108話末路をトガ目線で《使徒》となるまで書いた外伝



 私は、約束を果たせなかった。

 成し遂げられなかった。


「ああ……せめて、最期に……」


 最後に、もう一度だけ。

 もう一度だけでも、あの温もりを感じたかった。




 いくら後悔しても、もう遅い。

 自らの能力を超えて受け止めた闇は浄化するよりも早く身を蝕み始めていた。それでもなお溢れ続ける闇で、自分の体だけ黒い霧に包まれているようだ。

(ああ、これはもう……ダメだ……)

 さんざん警告を受け、妨害もされてきた。その度耳を貸さず、周りの協力さえ拒んでここまで来た自分への報いだろう。

 この身は器となり、負の化身となり果てる。

(……酷い話だ)

 守ると誓った人をこの手で殺すことになるのだから。

 今も精一杯の抵抗はしているが、それも時間の問題だ。

 皮肉な笑みを浮かべて膝をつく。

「……させる、……ものかっ」

 微かに聞こえた声に振り返ると、アラキアがこちらに向けて震える手の平を向けていた。

 瞬間、彼がしようとしていることが分かり首を横に振る。

「やめて……やめてよ……。そんな……アラキアだけでも……」

 この闇を自分の身に吸収しようとしている。

 しかし、継承者でもなければ神子でないアラキアがそんなことをしたらどうなるか。この闇は汚灰はいなのだ。今でさえ瀕死だというのに、そんなことをすれば死んでしまう。

 仮に耐えられたとしても末路は器となること。

 私は、私には彼を殺すことなどできない。

「やだよ……やめて……」

 これ以上、仲間を失うのは嫌だ。

 結城や深川も、もういない。アラキアだけは、彼だけは。

「……ごめん、アルマ。『オーグ・レン・ツヴィータス』」

 愛してる、と言うと彼へ向けて闇が流れ込み始める。

「やめて……だめ……ダメええぇぇぇ……!」

 必死に抵抗をするが最早自分の意志では動かせない体では何もできない。汚灰はいを喰らうのが精一杯だった。




 手に持った両剣は今にも粉々に砕けそうなほど傷がついている。服は自分の物だか相手の物だか分からないほどの血で赤く染まっていた。

 建物は見る影もなく崩れ去っている。ここが地球だとは思えない。

「ねぇ……倒し、たよ……。終わった……んだ、よ?……目を開けてよ」

 もう二度と動くことはないと分かっていても彼に話しかけてしまう。

 この手で、汚灰はいの根源たるアルティレナスとかした彼を倒した。

 最後に残っていた僅かな心さえ殺して、彼を殺した。

 あの後のことは自分でも記憶が怪しい。

 どうやってここまで戻ってきたのかさえ、覚えていないのだ。

 私とアルティレナスの戦いでコールドスリープ施設が甚大な被害を受けたのは言うまでもない。高濃度の汚灰はいにさらされた彼らは傷つくよりも早く、その命を散らしていった。

 上空で輝く蒼い光の剣はアルティレナスに止めを刺す際に発動した最終魔法の名残。その光を眺めていると、多数の気配を感じる。

 見ると大旅団の戦闘部員達が立っていた。

「……無事、だったんだ」

 柄になく安堵のため息をついた時だった。

 飛来した銃弾が脇腹を穿つ。

「っ!」

 見ると、全員武器をかまえている。

 私に、向かって。

(……?)

 何故。

 私は、クレアレアだというのに。イスクであり、大旅団の戦闘部員であり、光騎士こうきしだというのに。何故、攻撃されなくてはいけないのだ。

 どうして、そんな顔で私を見る。

「目標はアルティレナス。今度こそ逃がすな!」

 アルティレナス。

 今、私を。アルティレナス、と呼んだ……?

「!?」

 全てを理解した。

 私に出来るのは汚灰はいを浄化することではなく喰らうこと。そして自らの内に封じ込め、抑えること。

 ならば、私が倒したアルティレナスは。今の私は。

「ふふ……あはは……」

 全部、無駄だったのか。

 ここで眠る最後のあの温もりさえ、なくしてしまった。

 もう、私には何も残っていない。

 全部、全部、予言の通りになってしまった。クロノスでみたとおりの未来に。

(……何のために、ここまで)

 どうしてこうなったのだろう。

 私が協力を拒んだからか……?

 しかし、どうなろうとも最終的に敵の前に立つのは私だった。

 どう足掻こうとも。

 私は皆にとって都合のよい兵器でしかなかったのだ。

 私以上の力を持つクレアレアがいないのも納得だ。

 アルティレナスの器となりし書の継承者は私だった。汚灰はいの根源である新たなアルティレナスの核が私ならば、根源を共有する力であるクレアレアを扱うのに長けているのも私。

「……なんだ、ただの1人芝居じゃないか」

 ふらりと立ち上がる。

 つい、今まで激戦を繰り広げていたのが嘘のように体が軽い。

「……」

 無駄だった。

 そう思うと目の前に立つ彼らは。

 憎い。

「我は原初、そして終末。闇より出でて闇に消える。この世に光などなく、あるは罪。裁く剣は氷の刃。他と交わりを拒み、全てを否定する。この胸に抱くは贖罪の剣。そこに愛はなく、希望も安らぎもない。故に、我が本懐は1つ」

 流れるように紡がれる詠唱はこれまで聞いたこともなければ、みたこともない。ただ、それはどんな物よりもしっくりと来るものだった。

「……!」

 叫び、手を上から下へ振り下ろす。

 途端、上空に浮かんでいた巨大な剣は無数の剣となり、イスク達を貫いた。


 本当に、誰もいない。

 生き残っていない。

 ここに立っているのは私だけだった。

 アルティレナスの抱える負の衝動に身をまかせ、全てを破壊しつくした末路。

 僅かな浄化能力でも自我を取り戻せる程度には汚灰はいが浄化された。つまりはその負の供給源である人間がいなくなったということだ。

 あの時から何年たっているのだろうか。

 私は、どれほどの人をこの手にかけたのだろうか。

 そこに心から愛する人はいないだろうが、知り合いはいたはずだ。

 約束は果たせず、自らが災厄となる始末。

 これを何といえばいいのだろう。

「……」

 肩に軽い衝撃を感じ、視線を向けるとそこには白いオウムが止まっていた。

「……」

 人と共にコールドスリープされていたのだろう。日本には、この種類はいないはずなのだから。もしかしたらその子孫の可能性さえある。

 どこか懐かしささえ感じる。

(……負の憎悪は、人間のみに向いたというのか)

 そろそろと手を伸ばし、オウムに触れる。

 温かかった。

「……お前がみたものを、教えてくれないか」



 叶うなら。

 最後に、もう一度だけ。

 もう一度だけでも、あの温もりを感じたかった。

 しかし、もうそれは叶わない願いだ。

 それでも。


 まだ、救う手立てがあるのなら私はどんな咎でもこの身に背負おう。



 

あの白いオウムなんぞやってのは本当にただのトガに懐いたオウムさんです

オウムは賢いからなぁ……鳥は……

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