『ゾンビパンデミックの世界⑭』
――ズドンッ!!
閑静な街中に重厚感のある炸裂音が鳴り響く。
それは陽太の指示を受けて、ジョッシュ君がショーティーを試し撃ちした音である。
どうにも、白月が宣言した『ゾンビは人間じゃない』という定義付けは、ジョッシュ君からなけなしの慈悲を奪い去ったようで、彼は眉一つ動かすことなく、平然とした態度でゾンビの頭を撃ち抜いてみせた。
まぁ……ゾンビの真似事をした私にノータイムで襲い掛かろうとしたくらいなので、こうなるのは分かりきっていたこと。
そんなことよりも、そんなことよりも、注目すべきは陽太のお爺ちゃんが遺した武器の方だ。
想像以上の威力だった。
――ズドンッ!!
再びショーティーの先端から火花が散ると、目の前にいたゾンビの顔が形容し難い様相に変わり果て、ぐしゃり……糸を切られた操り人形のように崩れ落ちた。
何かが撃ち出されていることだけは理解できるが、とても肉眼で捉えられる速度じゃない。でも逆に言えば、あれだけの速度で発射されるものなら、小さな石ころだって凶悪な武器と化すだろう。
実に唆られる。どういう構造なのか、どういう仕組みなのか、興味が津々しすぎて溺れてしまいそうだ。
もしも分解の許可が降りるならば、私もショーティーから撃ち出される速度で目標物に飛び付き、すぐにでも作業へと取り掛かる所存なのに。
駄目だよね。
駄目だろうね。
……くぅぅ。
理性と欲望の葛藤によって私が悶えている一方、二体のゾンビを軽々と仕留めたジョッシュ君もショーティーが大層お気に召したらしく、昨晩に見た星空よりもキラキラと瞳を輝かせ、早口で使用感を言い連ね始めた。
「良いですね。使いやすいし、持ちやすいです。威力も申し分ない。陽太さんの言う通り、反動は強いですが、慣れれば問題なく使えそうです。ただ、音が大きいので多用はできませんね。それでも性能自体は素晴らしいと思います」
……おぉ、とても御機嫌だ。
金色のアクアヴィーに心を奪われていた時のジョッシュ君を思い出すね。彼の琴線がぶるんぶるんと震えているのが見て取れる。
羨ましい、せめて私も撃ってみたい。
しかしながら、ジョッシュ君の試射を見ている限りだと、私の細腕で扱える代物ではなさそうだった。
こういう時、この身の不便さを痛感する。たちまち筋肉質になる薬とか作れないものだろうか。今度、実験してみようかな。
「……い、言うことは何もなさそうだね」
今後の発明リストを脳内で更新していると、複雑そうな顔をした陽太が声を上げた。
複雑と言っても、声色から感じる雰囲気に悲壮感はなく、祖父に関して何かを思うというよりは、初見でゾンビを躊躇いなく撃ち抜くジョッシュ君に思うところがあるといった様子。
普通はゾンビと分かっていても、なかなか行動に移せるものではないのかもしれない。
陽太に加え、白月も感心したように驚いていて、間接的に優越感を満たされた私の鼻がニョキッと伸びる。
ンフフ。
そう、私の助手は凄いんだ。
助手が凄いということは、つまり、博士である私はもっと凄いということになる。異論は認めない。
ジョッシュ君のお陰で身体中にピカピカの箔をまとった私は御満悦な笑みを零した。
それからしばらく。
『分解しても良い?』
『駄目です』
『ちゃんと元に戻すから』
『駄目です』
『もっとショーティーを理解したいの』
『はぁ……仕方ないですね。分かりました』
『いいの!?』
『頭に撃つので身を持って理解して下さい』
『うん。死んじゃう死んじゃう』
何回会話をシミュレートしてもジョッシュ君という牙城を崩すことが出来ず、思うようにいかない歯がゆさを感じていると、やがて大きな十字路に辿り着き、そこで白月が全員の歩みにストップをかけた。
「ここから二手に分かれるよ」
白月の指示を受け取った私達は、何となくパートナーの近くに並び立つ。
ジョッシュ君は陽太と。
私は白月と。
コンビを認識し合ったあと、白月が腰にぶら下げた黒い機器を手に持って揺らした何それ。
「問題が起きたら無線機で連絡して」
「はい! し、死んでも連絡します!」
「……死んだら連絡できないでしょ」
「あ、その、はい……そう、ですね」
から回る陽太の言葉に「大丈夫か?」と言いたげな表情を浮かべる白月だったが、彼女はすぐにしゅんとしている陽太を呼び付けた。
「陽太」
恐る恐る顔を持ち上げる陽太の肩に、白月がそっと手を乗せる。
「頼んだよ」
その期待が込められた一言は、陽太の瞳にひゅらりと光を走らせる。見る見るうちに晴れてゆく彼の表情の分かりやすさに、私は思わず微笑んでしまった。
白月もわざとやっているのか、はたまた天然でやっているのか、恐らく後者なんだろうけど、どっちにしても人心掌握の才能があると思う。かく言う私も籠絡された側だしね。
ある意味で、恐ろしい女である。
ともあれ、すっかりとやる気を手に入れた陽太は、無重力空間なのかと見紛う足取りの軽さで歩き出し、ジョッシュ君と共に、その場を離れて行くのだった。
ただ、去っていく彼らの後ろ姿を見届ける中、私の脳裏には一つの疑問が浮かび上がる。
「ジョッシュ君と何を話してたの?」
そう、何やら別れ際に、ジョッシュ君が白月を呼び付け、真面目な顔で会話をしていたのだ。
しかし、白月は私の問い掛けをはぐらかすように乾いた笑い声を漏らすと、「大した話じゃないよ」そう呟いて、スタスタと何食わぬ顔で私の背後に回り込んだ。
うーん、気になる。
ひそひそ話は御法度だとあれほど。
だけどその時、不満げな表情を浮かべ、腕を組みながらブツブツと小言を漏らしていたところ、もしゃ、白月が唐突に私の後ろ結びを掴み上げた。
「…………」
「…………」
「なんで?」
「言われたからさ」
「そっか」
「うん」
解せぬ。ジョッシュ君め。
一体、彼女に何を吹き込んだのだ。




