『ゾンビパンデミックの世界⑥』
結論から言うと、私にはウルトラヨーヨーの才能があった。
しどろもどろになりつつも、なんだかんだとレクチャーしてくれる陽太は、私の身長に合わせた紐の長さに調整までしてくれて、変な人間ではあるが、優しい人間でもあると認知した私は、心の中にある良い人リストに陽太を登録することとした。
「君。ほ、本当に凄いね」
陽太が目を丸くしながら私を見つめる。
ウルトラヨーヨーは私の想像を遥かに越える奥深さだった。ただ宙で回転させるだけではなく、手首の返し方や紐を操ることで、様々な技を繰り出すことが可能なのだ。
私は陽太が見せてくれる技という技を片っ端から会得した挙げ句、それだけでは飽き足らなかったので、最終的には自分で技を開発する域にまで上達した。
「陽太、これ最高の玩具だよ!」
もはや私の身体の一部と化したウルトラヨーヨーを四方八方に振り回し、すっかり慣れた手つきでキャッチする。
なんて楽しいんだ。
それにしても、たまたま手にした玩具でこのクオリティとは。あの店にあった玩具の山は、他にどんなものがあったのか、気になって仕方がない。
しこたま遊び切った私は一旦、ウルトラヨーヨーを外し、使い方を教えてくれた陽太に右手を差し出した。
「ありがと、教えてくれて」
陽太は困惑した表情で、私の手を見やる。
「な、何……この手」
何って。
「握手」
「あく……いや、あの」
「握手」
重ねて要求すると、あちこちに目線を泳がせた陽太は、震えながら手を伸ばし、私の右手を摘むように指で挟んだ。
「…………」
随分と独特な握手の仕方である。
「おかしなヤツだね、陽太は」
「き、君も大概だと思うよ」
私の手から指を離した陽太は、その手をそのまま自分の胸に当てると、大きく深呼吸を入れる。
さて。
私はもう一度、ウルトラヨーヨーを右手にセットした。
それから陽太を背にし、未だ白月に質問を投げ続けているジョッシュ君の元へと向かう。
ふっふっふ。今度こそ、ジョッシュ君に私の凄さというものを分からせてあげよう。
「ジョッシュ君、見て欲しいものがあるんだ!!」
「今忙しいんですが」
「いいからいいから、そう言わずに。この、ウルトラヨーヨーを極めた私の華麗な妙技! きっと驚くから!」
突き付けたウルトラヨーヨーを構えた私は、陽太に教わった技から、自分で編み出した技まで、その全てをジョッシュ君に見せつけていく。
「へぇ、上手いもんだね」
私の技を前にした白月は、素直に驚いた様子を見せた。
そうだろう、そうだろう。
流石、白月は分かってるね。
さぁ、ジョッシュ君。
君も私の凄さを認めたまえ、ほら、ほら!
――ブチッ。
それは一瞬の出来事だった。
紐が千切れるような音が私の耳に届くや否や、それまで軽快に振り回していたウルトラヨーヨーの重みが、突如として消え去る。
何が起きたんだ、と感じる間すらなく、遠心力をふんだんにまとったウルトラヨーヨーは、凄まじい勢いで白月の背後に飛んでいき、壁棚に並んだ大量のビンをまるごと地面に叩き落としていった。
ガンガラガッシャーーーーーーン!!
「…………」
「…………」
「…………」
「…………いや、あの、ご、ごめん」
謝罪の言葉など意味を成さなかった。
即座にジョッシュ君の大きな手が私の頭を鷲掴みにする。
「驚きました。随分と、華麗な、妙技ですね?」
「ち、違うんだ。こうなる予定では……」
徐々に力が込められていくジョッシュ君の右手の圧力に、顔を引き攣らせながら命乞いをしていると、白月が焦りを帯びた声を上げる。
「あんた達、そんなことしてる場合じゃないぞ。今の音は流石に」
白月が全部を言い切るよりも前に、出入り口のドアが強く叩かれ、複数のゾンビと思わしき唸り声が聞こえてきた。
「陽太! 鍵かけて!」
「は、はい!」
白月に指示をされ、半ば飛びつく勢いでドアに施錠する陽太。
施錠できたことに安堵の息を漏らしたあと、白月は神妙な面持ちでウルトラヨーヨーを拾い、私に受け渡しながら状況を確認する。
「参ったね、鉄の扉だから突破されるってことはないと思うけど。こうして扉の前に居られたんじゃ、閉じ込められたようなもんだ」
うぐ。
「食糧もあるにはあるけど、四人分ってなると、何日もつか分からないし」
うぐ。
「この狭い部屋で複数のゾンビを処理するというのも危険だ。状況は最悪と言っていいかもしれない」
うぐぐ。
白月にそんな意図はないのだろうが、自分自身が原因である手前、心にグサグサと刺さるものがある。
なかなかの罪悪感に苛まれていると、ジョッシュ君が私の頭を掴んだまま、白月に問いを発した。
「外に繋がる道は、そこだけなんですか?」
白月は渋い顔で頷く。
「出入り口はそこだけだね。外に繋がっているって意味なら、そこの通気口もそうだけど。そんなところ、通れるのは子供くらいのもんだ」
「子供なら、通れるんですか?」
待って。ジョッシュ君?
「まぁ、子供が通れるくらいの幅はあるよ」
白月の返答を聞いて、ジョッシュ君の蒼い瞳がゆらりと揺れる。
「らしいですよ? 博士」
助手の言いたいことは手に取るように分かった。
拒否権など、ないことも。
今の私にとって、目先の恐怖はゾンビよりジョッシュ君である。
頭を掴まれた時点で白旗をぶんぶん振っていた私は、抵抗することなく、目を細めて呟いた。
「はい。私が行って誘導してきます」




