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『砂漠と水都の世界㉔』




 ジョッシュ君の思い付きによって始まった延長戦。


 未だに大人しく横たわっているデスワームに向かって、そのまま永久に眠っててくれと願いつつ、一直線にアクアヴィーを走らせる私は、その道すがら、ふと気になっていたことをミミコに尋ねた。


「ところで、ミミコは良かったの? こんな作戦に乗っかっちゃって」


 素朴な疑問だった。


 何故ならミミコの立場で考えると、どうして仲間を助けたあとにわざわざ不要なリスクを負わなきゃいけないんですか、と異議を申し立てても何らおかしくない状況だからである。


 にも関わらず、彼女は当たり前のように参戦し、文句の一つも言わずに鉱石を撃ち抜くという重要な役割を担っている。


 それが不思議で仕方なかった。


 しかし、彼女が間を置かずに寄越した回答は、私の疑問を更なる大きな疑問へと変容させる。


「仲間の為ですから!」


 これで全て伝わりますよね、と言わんばかりの自信満々な声色だった。


 ミミコさんや。申し訳ないけど、それだけでは何も伝わっていない。


 仲間の為?


「デスワームの討伐と救出した仲間、何の関係があるの?」


 敵討ちがしたいのだろうか。


 いや、でも、仲間の命は助かっているわけだし、ここで危険を冒してまで仕返しするというのも考えにくい。


 ましてや、それでミミコの身に何かあっては本末転倒もいいところだ。


 となると、他に考えられる可能性は?


 うーーーーん。

 駄目だ、思い浮かばない。


 思考を巡らせるも、彼女の思惑が理解ができずに困惑していると、唐突に身を寄せてきたミミコが私の肩越しから心外そうな顔を覗かせてきた。


「違いますよ! 私が言ってるのはマノさん達のことです!!」


 その予想外の発言に、私は目を丸くする。 


「え? あ、え、仲間って、私達のこと?」


 思わぬ展開に戸惑っていると、私の肩に掛けられたミミコの手にきゅっと力が入った。


「そうですよ。仲間じゃ、ないんですか?」


 顔を見るまでもなく、不安げな表情を浮かべているのが容易に想像できる弱々しい声である。


 そうか。仲間か。


 正直なところ、仲間かどうかという以前の話で、そんなことは考えてもみなかった。私の中では、治癒の宝玉を差し出してくれる依頼主という印象で更新が途絶えている。


 確かに改めて言われてみると、出会って二日とは言え、中々に濃密な時間を共に過ごしている。


 一般的な基準に当て嵌めてみても、仲間と言っていいくらいには親密と言えるのだろうか。


 ミミコの質問に思わず悩み込み、しばらく返答を保留していると、痺れを切らしたミミコが私の肩を前後にぐわぐわと揺らしてきた。


「何で答えてくれないんですかぁ! 仲間ですよね? 仲間って言って下さいよぉ!」


 ええい! うるさいうるさい!


 ここで仲間と認めてしまうのは、どうにもミミコの押しに負けたような気がする。


 別にその関係性の定義にこだわりなんてないけど、ミミコに負けるのは嫌だという対抗心がふつふつと湧き上がった。


 だからちょっとだけ、いじわるをしてしまおう。


「ミミコ、仲間になるには条件がある!」

「じょ、条件ですか?」


「そう。今、私の助手がミミコの力を頼りにしてる。だから、その力でジョッシュ君の願いを形にしてあげて!」


 交換条件を提示してみると、ミミコは私の背中にのしかかる勢いで前のめりとなり、食い気味の反応を見せた。


「そしたら仲間として認めてくれるんですね!? 絶対ですよ! 約束ですよ!!」


 なんなんだ、この生き物は。

 なんで、そんなに仲間という言葉に執着するんだ。


 ミミコの強気なムーブにたじたじとしながらも、私はヤケクソ気味に承諾する。


「分かった、分かったよ! 約束! だからちゃんと当ててよね!」


「もちろんです! 絶対に成功させてみせます!」


 やる気に満ち満ちた声でそう宣言したミミコは、嬉しそうにフフフと笑みを零した。


 彼女に出会ってから、今が一番生き生きとしているようにすら見える。


「……ふぅ」


 想定外の猛攻にどっと疲労感を感じた私は小さく溜息をつく。


 まぁでも、いいさ。


 これでミミコのモチベーションが上がると言うのなら、それに越したことはないだろう。


 私としても、どうせやるなら射貫かれた鉱石の反応を見てみたい。


 その反応すら見れずに、鉱石を無駄に消費する結末だけは避けなくてはならないのだ。


 そんなことを考えながら、遠目に見えるジョッシュ君のアクアヴィーに視線を向けた。


 ジョッシュ君は順調そうにデスアースの外壁にある坂道を駆け登っている。


 もう少しで切り返し地点と言ったところだろうか。

 

 彼が登り切るまでに、ミミコのアクアセルタが届く距離まで近づいておきたい。


「ミミコ、あとどれくらい?」

「もう少し接近したいです! ここではまだボヤけて――」


 プッスッスッスッ、シューーーーーー。 


「え?」

「え?」


 それはあまりにも不意を突いた出来事だった。


 どこからともなく聞こえてくる気泡の抜けるような音に、私とミミコは動揺した声を上げる。


 な、なに、何の音?


 当然の疑問である。


 だけど、その答えはすぐにやってきた。


「ちょ、嘘……アクアヴィーが勝手に減速してる!」

「えぇッ……そんな!」


 慌ててハンドルを限界まで回してみるが、加速する様子は一切ない。


 いや、それどころか、このままではもう。


 最悪の事態を想定した瞬間、全身から冷たい汗がぶわっと湧き出た。


 そして、間もなくして想定は実現に。


 さっきまで聞こえていた音が鳴り止むと、アクアヴィーはその動きを完全に、停止してしまった。


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