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『砂漠と水都の世界➉』




「無理無理無理無理ィィーーーーー!!!」


 凄まじい速度で砂漠を暴走するアクアヴィーのハンドルをしかと掴み、空気抵抗によって地面と平行になるほど身体を浮き上がらせた私は、蛇行する車体によって好き放題に振り回されつつ、現在進行形で命の危機を感じていた。


「嬢ちゃん!! 腰が浮きすぎだ!!」


 いやいや、浮いてるって次元じゃないからッ!! 

 もはや飛んでるからッ!! 腰飛んでるからッ!!


「ヒィィィィィッ!!!」


 アクアヴィーが砂地に綺麗な円を描きながら何度も高速回転する。


 ダメ、無理、死ぬ、無理!!

 襲い来る遠心力でハンドルを握る手も限界だ。


 安易にリミッターなんて外すものじゃなかった。オヤジの安全第一設計は正解だったんだ。


「んなぁぁああッ!!」


 叫び声と共に、遂に手を離してしまった私の身体が無造作に宙へと投げ出される。


 その瞬間、私の体感時間は人智を超えた。


 ゆっくり、ゆっくりと三回転半しながら空中を舞い、重力に従って地面へと落下してゆく。


 まずい。まずい。まずい。

 このままだと顔面で着地することになりそうだ。


 何とか、手で顔を、かばわないと。


 しかし、思考は巡るのに、身体が全く動かない。


 やば、死んだかも――。


「アッッッブねぇ!!」


 鼻先が砂地に触れるか触れないかの瀬戸際、オヤジによって私の両足ががっしりと掴まれる。


「大丈夫か、嬢ちゃん?」


 逆さに持ち上げられたまま、慣性によってしばらくブラブラしたあと、我に返った私は静かに砂地へと降ろしてもらい、何度も首を縦に振ってオヤジと握手を交わした。


 ありがとう、オヤジ。

 ありがとう、オヤジ。


 死ぬかと思った。

 本当に死ぬかと思った。


「大丈夫ですか!? マノさん!」


 それから、遅れてやってきたミミコのサイドテールを意味もなく掴み取り、心を落ち着かせるように深呼吸を一つ。


 全てを悟ったような笑顔を浮かべ、諭すような優しい声で呼び掛けた。


「ミミコ」

「はい」

「仲間は諦めよう」

「えぇぇ!? そんな!」


 制御もへったくれもない。


 さっきまで乗っていたアクアヴィーに目を向けると、どうやら踊り疲れて砂地に寝転んでしまったようで、オヤジが頭を掻きながら駆け足で取りに向かった。


 あんなじゃじゃ馬で作戦に挑んだらデスアースに辿り着く前に、自らデスワームの口に飛び込んでしまう可能性すらある。


「だから言っただろ? リミッターを外すなんて無茶だって」


 アクアヴィーを引きながら戻ってきたオヤジは、車体を固定し、ドカッとシートに腰を下ろす。


「うん、無茶だった」


 それはもう走り出した瞬間に全身で理解した。

 純度100%の同意を捧げる。


「これでデスアースを超えるなんて不可能だね」

「そんな……」


 しょぼくれた顔で俯くミミコ。

 そんな顔をされても、アクアヴィーが制御できなければ作戦どころの話ではない。


 どうしようもないのだ。


 私達の会話を聞いていたオヤジが胸を張って腕を組みつつ、渋い声を上げる。


「なんだ。嬢ちゃんたちはデスアースを超えるつもりなのか?」


 私は肩を竦めながらオヤジの問いに答えた。


「ミミコの仲間がデスワームに呑み込まれてしまってね。救出するためにデスアースを超える必要があったんだけど」


「なるほどな。でも、さっきの様子じゃデスアースを越えるどころか、登ることすら叶わねぇだろうな」


 それは間違いない。


「だけど、仲間を諦めるなんて出来ないです!!」


 ミミコは胸の前で手を組みながら訴えかけてきた。


 彼女の決意は大したものだが、その決意に応えてやるための論理を失ってしまったのだ。


 ここで根拠がないままに同調しても、それで結果が変わるわけではない。


 少なくとも先の作戦は破綻した。この事実は受け止める必要がある。


 左右に首を振ると、ミミコは燻る想いを奥歯で噛みしめるような表情を浮かべて身体を震わせた。


 …………。


 すっかりと暗くなってしまった砂漠にしばしの沈黙が流れ、なんとも重苦しい空気が一帯に漂う。


 さて、どうしたものか。そう易々と代案なんて浮かぶものじゃないが、思考停止はそれこそ詰みだ。


 おじゃんとなった作戦の再構築に頭を悩ませ、しかし中々思い浮かばずに苦い顔を浮かべていると、不意をつくように、沈黙を遥か彼方へ吹き飛ばすような、豪快で痛快な笑い声が響き渡った。


「だっはっは! 嬢ちゃんたち、そんな暗い顔してたら美人が台無しだぜ」


 目を見開いて、私とミミコはオヤジに注目する。


 オヤジはアクアヴィーから降りると、両手を腰に当て、沈んだ太陽の代わりを担うかのようにニカッと笑った。


「デスアースを越えれば問題ないんだろ? だったら俺に任せな」


「いや、そうだけど。でもデスアースを越えられる人間なんて、話に聞く伝説の男だけなんでしょ? アクアヴィー屋の店主だからってできるものじゃ……」


「だっはっはっはっはっは!」


 何が彼のツボを刺激したのか、いつもより長く仰け反って笑い声を放つ店主に私は困惑する。


 そして店主はひとしきり笑い終えたあと、私達の頭にぽんっと大きな手を乗せて答えた。


「だからよ、その伝説が嬢ちゃんたちに手を貸すって言ってるんだぜ」

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