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『砂漠と水都の世界⑧』




「断定できるほどではないですが、可能性は大いにありそうですね」


 確かに否定はできない。

 測定器の玉が二つも光ったとなれば、私の体内の魔力量は既にサンドワームの比じゃないだろう。

 デスワームの視点では、とんでもない御馳走に見えているのかもしれない。


「でも、だとしたら私を直接的に襲えばいいじゃないか」

「それもそうですね。どうして来ないんですかね」


 私達の会話で事情をなんとなく察したのか、ミミコが遠慮気味に手を上げて発言権を主張する。


「たぶんですけど――――だと思います」

「ジョッシュ君、なんて?」


 既にミミコの説明を受け付けない耳に進化を遂げた私はジョッシュ君に要約を求めた。


「ミミコさん曰く、魔力感知は距離によって精度が落ちるらしいです。だから博士の魔力が大きすぎるのも相俟って、漠然とした位置しか掴めていないのかもしれないとのことでした」

「なるほどね、ありがと」 


「私の説明ってそんなに理解してもらえないんですか!?」


 テーブルに手をつき、身を乗り出して泣き顔をこちらに寄せてくるミミコ。

 私はミミコの肩に手を置いて真剣に答える。


「理解できないなんてレベルじゃない。ミミコ、君のそれは攻撃だ。殺傷能力がある」

「え、え、殺傷……え、ご、ごめんなさい」

「うん、本当に気を付けてね」


 叱られた子犬のような表情で萎れたミミコは謝りながら肩を縮こまらせた。

 そんなミミコに、自覚があるのかないのか、口を開いたジョッシュ君も容赦のない追撃を加える。


「ミミコさん、大丈夫です。ここからは一つ一つ聞いていきます。まとめて話すから絶望的に分かりにくくなるだけですよ。安心して下さい」

「……はい」


 すっかり落ち込んでしまったミミコを他所に、ジョッシュ君の問いかけは再開した。


「ちなみに、デスワームに呑み込まれた仲間が生きているとして、猶予はどれくらいあるんですか?」

「良くて、三日くらいだと思います」

「三日ですか。間もなく日が沈むので、動き出すなら明日ですかね」


 あまり悠長にしていられる時間はなさそうだ。

 ただ、まだ肝心なことを話せていない。

 その仲間をどうやって助けるのか。


 救出すると一口に言っても、呑み込まれた人間を救出するなんて容易なことではない。

 果たして、そんな方法が明日までに思いつくのかどうか。


 現状を踏まえると、かなり切羽詰まった状況と言える。


 だけど正直なところ、あまり心配はしていなかった。


 と言うのも、うちにはこういう時、頼りになる優秀な助手がいるからである。

 

 口元に手を当てて思考を巡らせているジョッシュ君に目を向ける。


 一見して悩んでいるように見えるが、彼のことだ。零から一を生み出す工程はとっくに終わっているだろう。


 彼の思考を停滞させている理由は、別にあるはず。


「何が足りない?」


 問い掛けると、ジョッシュ君は目の前のコップに視線を固定したまま、一言で答えた。 


「はい。大量の水が要ります」


 大量の水ね。


「それなら、うちの裏手の水を好きなだけ使って構わないですよ?」


 すぐにミミコが提案を寄越すが、恐らくジョッシュ君の言っている大量の水というのは、その規模の話ではない。それで済むなら悩んでいないだろう。


 きっと、水源を一つ枯らすほどの水が必要になるはず。

 だが、この世界の住人にとって、水源は資産となる。


 交渉に持ち込める人間を探すだけでも難易度は高いし、仮に交渉できる人間を見つけたとしても、それに見合う交渉材料をこちらは用意できない。


 ミミコの家の水源をあてにするしかないのは変わらないのだが。


「ミミコ、あの滝の水源はどうなってるの?」

「上流に大きな湖があって、そこから」

「その湖はミミコの固有資産かい?」

「はい。両親が残してくれたものですが、今はそうなりますね」


 ふむふむ。

 湖が水源というのは都合が良い。

 それならキュースィーちゃんを投げ入れるだけで、あっという間に飲み込むことができる。


 しかし、問題はミミコの認識がズレていること。彼女は水源が枯れるとは毛程も考えていないだろう。それを正した上で選択させる必要がある。


「ミミコ、仲間を助けるためには尋常じゃない量の水がいるんだ」

「はい! ですので好きに持っていってもらって大丈夫です!」


 表情こそ真剣だが、この話に即答で返すあたり、やはり状況を理解しているようには見えない。

 そんな簡単に決められる話ではないのだ。


「いや、ミミコ。君は分かっていない」

「何がでしょう?」

「もっともっと深刻に考えるんだ。これはちょっとだけ貰う、なんて次元じゃない」

「ど、どれくらい必要なんですか?」

「ミミコが思ってるよりも遥かに大量の水だ」

「そ、そんな……湖の水を全て使っても足りないんですか?」

「うん、そう。湖の水を全て使うくらいじゃ全然――え?」

「え?」


 私とミミコは互いに目をパチクリさせながら見つめ合う。


 そんな私達を横目に水を飲んでいたジョッシュ君は、コツ……と音を立てて空のコップを置くと、淡々とした声を上げた。


「足りますね、それなら」


 んー?

 想定していた展開を迎えず、情報処理に遅延が発生する。


 ……いやいやいや。


「ミミコ? 本当に分かってる? 湖の水を全て使うんだよ?」

「はい!」

「水源がなくなるってことだよ? もう水が湧いてこなくなるんだよ?」

「はい!」

「滝も流れなくなるよ? 池もなくなるよ?」

「はい! 仲間を助けるためなら!」


 一切の躊躇いを感じさせない、覚悟を宿した桃色の瞳が凛と輝いている。


 どうやら、本当に理解した上で了承しているようだ。


 ミミコのことだからバケツ数杯分程度の量を想定しているんじゃないかと思っていたが、こちらの想定を何百倍も上回る覚悟を持っていたらしい。


「本当は仲間集めの時、水源を報酬に出来るならしていたくらいです!」


 テーブルに置いた両手を握りしめ、ミミコは悔しそうな声を上げる。


 確かにまぁ、それで人が集まったとして、水源を分配するなんてことはできないだろうからね。


 それにしても、世間知らずのポケポケ娘だと思っていたが、やるじゃないか。

 

 私は賞賛の代わりに手を伸ばし、ミミコの頭に輪っかをもう一つ増やしてから。


「さて、どうにかなりそうだよ、ジョッシュ君」

「はい。水さえあれば、行けると思います」

「いいね、じゃあ作戦内容の話に移ろうか」

「分かりました」


 ジョッシュ君は空気を引き締めるように両手を組みながら作戦内容を語り始めた。

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