『砂漠と水都の世界⑤』
サンドワームのコアを取り扱っている店にて、早々にコアを売り払った私達は話に聞いていた通り、それなりの金貨を手に入れた。
ずしりと圧し掛かる袋の重みに小さく一笑。
よしよし。
これだけあれば、生活資金の心配をする必要がなくなるね。
私はジョッシュ君と共に、ホクホク顔で水都の街路を闊歩する。
ちなみに気になったので店の人にコアの用途を尋ねたところ、主に武器の素材として取り扱うことが多いという話で、鍛冶については専門外だった私は胸を撫で下ろした。
もしも特殊な性質を持つ素材だったなら、心を鷲掴みにされ、売るという判断には至らなかっただろう。危うく貧困生活の幕開けとなるところだった。
どうしても面白いものを前にすると、私の理性は機能しなくなってしまうのだ。
それからしばらく、鼻歌を奏でながら大通りを歩いていると、大きな噴水が設置された広場で何やら血相を変えた女の子が必死に声を張り上げているところに遭遇した。
「お願いします! 私と一緒に砂漠地帯に! お願いします! お願いします!」
表面的には砂漠地帯の探索仲間を募集しているようだが、それにしては雰囲気が切羽詰まっている様子である。それに道行く人へと縋るように近づいては声を掛けているが、誰にも見向きすらされていない。
私はジョッシュ君と顔を見合わせる。
「絶対に面倒事ですよ?」
「絶対に面倒事だろうね」
「行くんですか?」
「まさか、そんなことしないよ」
面倒事だと分かっているのに、こちらから接触するなんて非合理にも程が――。
「あなたたちぃ!!」
唐突に響く声に驚いて振り向くと、さっきまで噴水の前でワケ有りの求人をしていたサイドテールの女の子が全力でこちらに向かって走――あ、転んだ。
ずさぁぁ……と見事な滑走距離を記録して、彼女は私の足元へと滑り込んだ。
そして、起き上がりもせずに私の両足首をがっしりと掴むと、首だけをぐいっと持ち上げて。
「さささっきサンドワームコアを持ってた人達ですよね!? お願いします! わ、私と砂漠地帯に!」
淡く色づいた桃色の丸い瞳が真っ直ぐに私を捉えた。
「……博士は面倒事に首を突っ込むのが好きですね」
「いやいやいや、見てたよね!? 突っ込んできたのこの子だよね?」
私の足を掴んでいるその手からは、絶対に離さないという意思がひしひしと伝わってくる。
試しに左右へと足を振ってみたが、びくともしなかった。
彼女を指差しながらジョッシュ君の顔を見上げると、ジョッシュ君も諦めたように首を横に振るため、仕方なく話を聞いてみることにする。
私はしゃがみ込んで彼女の長めのサイドテールを掴み返し、フリフリと回して弄びながら問い掛ける。
「どうして砂漠地帯に行きたいの?」
「デスワームに呑み込まれた仲間を助けてほしいんです!」
「デスワーム? サンドワームじゃなくて?」
「サ、サンドワームよりも遥かに巨大で危険な恐ろしい存在です……」
ふむふむ。
あの砂漠には、そんな上位存在がいるわけか。
「でも、それに呑み込まれたのに、仲間は生きてるの?」
真っ当な疑問を投げかけると、彼女は大きく頷いて答えた。
「ワームの体内にある消化液は濃度が薄く、消化するのに時間が掛かるんです」
「そういうことか」
「昨日の今日なので、まだ仲間は生きている可能性があります」
「なるほどね。確かに、君の言ってることが本当なら、可能性はあるかもしれないね」
「だから、だからどうにかしてデスワームに呑み込まれた仲間を助けたいんです! だけど、私一人の力ではどうにもならなくて……」
涙ぐんで事情を語る彼女のサイドテールを二つに分けて蝶々結びに仕上げた私は、彼女の頬を両手で挟み込んで持ち上げる。
「報酬は?」
正直なところ、呑み込まれた仲間さんについて、気の毒とは思うものの、どう考えたって私達には関係のない話である。赤の他人の為に命を懸けて参加する理由なんてどこにもない。
であれば、期待できるのは報酬となるわけだが。
「すひまへん。なにもないんへふ」
その言葉を聞いた私は大きく溜息を漏らし、彼女の頬をむににっと引っ張ってから離す。
「話にならないね。命を懸けさせるのに無報酬とは」
「でも私には報酬にできる程のお金はなくて」
「お金以外でも、報酬に出来るものはいくらでもあるだろう」
「そんなもの……私には」
彼女の言葉に誰も耳を貸さなかった理由は理解できた。
この甘い考えでは、それも当然の結果と言えるだろう。
私の足から彼女の手が力なくずり落ちる。
それを見て、スッと立ち上がると、ジョッシュ君が平然とした表情で問い掛けてきた。
「行きますか?」
「うん、行こうか」
この依頼は流すべきだと判断した私達は彼女に背を向けて、再び街路を歩き出す。
申し訳ないが、私もお人好しではないのだ。
――だが、その時である。
背後で小さく呟かれた声を私は聞き逃さなかった。
「そうだ……あります……」
それを聞いて立ち止まり、私は次の言葉を待つ。
そして。
「治癒の宝玉があります!!」
続けざまに放たれた彼女の一言が、耳を通して全身を駆け巡った。
ンフフ。
気づけば、私は静かに口角を上げていた。




