『砂漠と水都の世界③』
キラキラと輝く眼差しが私に向けられる。
「何を思いついたの?」
あまりにも聞いてほしそうな顔をするので聞いてあげると、ジョッシュ君は上機嫌になって説明を始めた。
「この作戦の肝は博士です」
うん。
「サンドワームは魔力感知で獲物を捉えるので、博士には囮になってもらいます」
うん?
「まず最初に、博士の腰に縄をくくり付けて地面へと降ろし、奴を引き寄せるんです」
「ジョッシュ君?」
「身体の割に魔力だけは大きいので、サンドワームもすぐに食いつくでしょう」
「その時点でわたし死んでない?」
「あ、大丈夫ですよ。実際には噛み付かれる前にちゃんと引き上げるので」
何が大丈夫なのか、胸倉に掴みかかって問い詰めたいところだが、そうする間もなく、自分のリュックを漁り始めたジョッシュ君は更に説明を続ける。
「そうしたら、宙に持ち上がった博士に釣られて、サンドワームが飛び上がってくるはずです」
「まぁ、そうかもね……それで?」
内容はともかく絵は想像できたので、最後まで話を聞こうと相槌を打つと、ジョッシュ君は自信ありげに口角を上げる。
リュックから取り出したものを見せつけるように。
「コイツの出番ですよ!」
見覚えのある空色の球体が私の鼻先へと突き出された。
これは街で入手した、水を吸収し、吸収した水を自在に出すことができる水運搬用アイテム――の効力に満足ができずに改造したらとんでもない吸水力になってしまって使い道がなくなった欠陥品。
「キュースィーちゃんじゃないか」
自分が命名した名前を口にすると、ジョッシュ君は渇いた笑い声を上げる。
「相変わらずのネーミングセンスですね」
私の心に強烈な一太刀。
「君が発明品には名前をつけろって言うからつけたのに!」
「それは良いことです、名前は大事ですよ」
「キュースィーちゃん!」
「……それはちょっと」
「どうして!?」
この名前に辿り着くのに結構な時間を費やしたというのに。
しかし、悶々としている私はさておかれ、ジョッシュ君は仕切り直すように作戦内容の続きを語る。
「とにかく、博士はこれをサンドワームの口に放り込んで下さい。成功すれば、奴の身体から水分が奪われて倒せると思います!」
ポムッと空色の玉が手渡された。
好き放題に説明を終えて満足気にドヤ顔を浮かべるジョッシュ君。
まずは君の口へと放り込んでも良いんだよ?
私はキュースィーちゃんを力強く握り締めた。
まぁでも、彼がやれると言うのならやれるのだろう。
過去に積み上げた実績がそれを証明している。
どうせ、このままじゃ死は免れないのだ。
ここは助手の言うことを信じるとしよう。
小さく息を漏らした私はジョッシュ君が立案した計画を受けることにした。
「分かった。やるよ」
「はい。そう言ってくれると思って縄はくくり付けておきました」
「君は本当に仕事が早いね」
いつの間にか、腰には丈夫そうな縄がしっかりと結び付けられていた。
「心の準備は要りますか?」
「いや、ぱぱっと終わらせてしま――おっふぁ」
言い切る前にぐわっと腰が持ち上がり、私は手足をぶら下げて宙に浮く。
威厳を取り戻そうなんて夢のまた夢だった。
今の自分の姿を鏡で見たら立ち直れないかもしれない。
「行きますね!」
ぷらぷらとミミズのエサを揺らしながら岩場の縁に移動するジョッシュ君。
こちらはぎゅっとキュースィーちゃんを両手で掴み、落とさないように備える。
「降ろします」
「はいよ」
短いやり取りを交わすと、少しずつ、段階的に、ゆっくりと、地面に降ろされて行き――ん?
……あ、やばい。
突如として舞い込んだ光景に血の気が引いた私は、両手両足を駆使して盛大にもがいてみせた。
「来てる! ジョッシュ君、来てるよ! アイツ、物凄いスピードで来てる!!」
「え、何ですか?」
この助手、なんで急に耳が遠くなるんだ!
「来てるんだってば!! サンドワームがぁ!!」
バタバタと暴れる姿が逆にエサとしての新鮮味をアピールしてしまっているのか、接近するサンドワームのスピードが更に上昇する。
「ジョジョジョッシュ君! 引っ張っひぇ! 無理無理! すぐそこまで来てるからぁ!!」
そしてついに、私の真下に位置する砂地がぼこっと音を立てて盛り上がった。
ダメだ、これ死んだかも。
瞬時に死を悟った私は固く目を閉じて覚悟する。
しかし、同時に腰へと巻かれた縄に強い張力がかかり――。
「ほわぁぁぁっ!!」
勢い良く身体が引き上げられる感覚に情けない悲鳴が上がる。
どうやら間一髪のところでジョッシュ君が縄を引いてくれたようだ。
続けざまに、けたたましく響く私の悲鳴を貫いて、ジョッシュ君の声が耳へと届いた。
「博士、今ですよ!!」
その声に反応して即座に目を見開くと、脈動する肉壁にびっしりと並んでいる白い突起が視界全体を埋め尽くす。
それがサンドワームの口内であると察するのに時間は掛からなかった。
「うへー……」
……なかなかに刺激的な光景だ。
あまりの迫力で呆気に取られいると、大口から吐き出される強烈な息が突風となって襲い掛かり、込み上げる不快感によって私は我へと返る。
だぁーーー、くっさい!!
心の中で悪態をつき、咄嗟に鼻と口を塞いだ私は、もう片方の手でキュースィーちゃんの起動スイッチをオンにし、ヤケクソ気味にサンドワームの口内へと放り投げた。
一直線に投げ入れられたキュースィーちゃんは瞬く間に体内へと吸い込まれてゆく。
「食べた! 食べたよ!」
「流石です、博士!」
それから引力に引かれて落ちてゆく私をジョッシュ君が両腕で受け止め、ほっと一息。
どうなることかと思ったが、何とか作戦通りに遂行することが出来たようだ。
地に足をつけて胸を撫で下ろすと、形容できない大きな呻き声が洞窟内へと響き渡った。
キュースィーちゃんが大活躍しているようである。
砂地の上で身をよじりながら暴れ狂っているサンドワームの姿をしばらくの間、二人で傍観する。
「鉱石を見てる時の博士みたいですね」
「蹴るよ?」
「すいません」
軽口を言い合っていると、全ての水分を吸い尽くされたサンドワームが見る影もなく萎れ、内側から力を失うように、乾いた音を立てて崩れてゆく。
そのサンドワームだった残骸の中に視線を落とすと、本日の主役であるキュースィーちゃんがちらりと顔を覗かせた。
それともう一つ。
何やら、人の頭くらいある黄土色の玉が。
「あれ、街の人が言ってたサンドワームのコアじゃないですか?」
「そんなこと言ってたような気もする」
「高く売れるそうですよ」
「おお、持って帰ろう! 絶対に持って帰ろう! ジョッシュ君、お願いね!」
荷物係を押し付けると、返事の代わりにジョッシュ君の溜息が返ってくる。
先立つものは金である。
この臨時収入は非常にありがたい。
命の危険に晒されることも多々あったが、結果良ければ全て良しだ。
この戦利品を持って、街に戻るとしようか。




