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『砂漠と水都の世界②』




 ジョッシュ君と並んで岩場の中央に座り込み、小さな石を砂地へと放り投げながら、粘着質なサンドワームとの持久戦を嗜むこと小一時間。


 状況は何も好転することなく、サンドワームは依然として砂地を耕している。


 持参した水筒は一滴も残らず空となり、いよいよもって何か行動を起こさないと、このままじゃ干からびてミイラとなってしまうだろう。


 そんな結末は勘弁願いたい。


 頼みの綱であるジョッシュ君に目を向けると、私の発明品を詰め込んだ愛用のリュックを漁りつつ、ずっと難しい顔を浮かべている。


 いつもは突飛な発想で問題を解決してくれる彼だが、今はその閃きも影を潜めているようだ。


 今回ばかりは、おんぶに抱っことは行かないみたいである。


 しかし、これは逆にチャンスなのかもしれない。


 と言うのも、近頃のジョッシュ君には博士に対する尊敬の念というものを一切感じないのだ。


 これは由々しき事態だ、私は尊敬されたい。


 だから、ここで見事に突破口を切り開くことで、地に落ちた威厳を取り戻す必要性がある。


 その布石となりそうな種も、既にこの手に掴んでいる。


 まだ確信には至らないが、サンドワームの挙動について一つ気になることを見つけたのだ。


 私の思惑が正しければ、これが打開のヒントとなるはず。


 フフフ。

 ジョッシュ君。君に見せてあげよう。

 私が如何に聡明な人間であるかを。


 横に置いていた赤い電流を内包する鉱石を押し付けるようにジョッシュ君へ受け渡し、私はゆっくりと立ち上がる。


「博士?」


 受け取った鉱石をリュックにしまいながら、怪訝な表情で私を見上げるジョッシュ君。


 私もただの暇潰しで石を投げていたわけではないのだよ。サンドワームが最初に私を襲った時、正確に私が立っていた場所へと飛び掛かってきた。


 最初は振動や音で察知しているかと思ったが、その後に投げ続けた石に反応する様子は全くなし。


 あんな顔面の九割が口で構成されているミミズに、石と生き物の区別がつくほどの知能があるとも思えない。


 つまり、奴は他のセンサーを持っていると考えられる。


 それは何か。


 熱、超音波、嗅覚。


 色々な可能性を考慮してみたが、しっくりくる答えは一つしかなかった。


 その答えとは――魔力感知である。

 

 サンドワームは私の魔力に反応している可能性がある。


 この仮説を、今から実証する。


 私はサンドワームがいる方角とは反対側に移動し、岩場の縁へと立つ。


「何やってるんですか。危ないですよ」

「まぁ見ていたまえ」


 余裕の笑みを浮かべながら、見失わないようにサンドワームのモコモコを目で追う。


 中央に居た時は岩場をぐるぐる周回しているだけのサンドワームだったが、私が縁に立った瞬間、スピードを上げて半周し、そこから一直線にこちらへと向かってくる様子が見て取れた。


 やはり、確実に私の居場所を感知している。


 飛び掛かられる前に再び中央へと避難し、安全を確保すると、サンドワームは突進するのを止め、再び岩場の周回を始める。


 ならば。


「ジョッシュ君。今度は君が立ってみてくれ」

「なんでですか」

「いいからいいから」


 首を傾げつつも、言われるがままにジョッシュ君は岩場の縁へと向かう。


 さぁどうなる。彼には魔力がない。

 これで無反応を示せば、魔力感知と断定しても良いはずだ。

 

 勢いよく視線を振って、サンドワームの挙動を捉える。


 来た!!


 いや、来てはいない!!

 完全に無反応だ!!


 私よりも遥かに食べ甲斐のある餌が突っ立っているというのに、反応する素振りを欠片も見せていない。


 確定だ、あいつは魔力を感知して居場所を探り当てているんだ。


 その検証結果に喜色を浮かべた私はサンドワームを指差しながらジョッシュ君に語り掛ける。


「見たかい、ジョッシュ君!」 

「何をですか?」

「奴の動きさ! 君に反応を示さなかっただろう!」

「はぁ、そうですね」


 嬉々として解説する私とは裏腹に、困惑した表情を見せるジョッシュ君。


 フフフ、まだピンと来てなさそうだ。

 なら教えてあげよう、それはつまり!!


「魔――「魔力感知なんだから当たり前じゃないですか」


 私の発言を遮って放たれたジョッシュ君の言葉を受け、時間が止まったような感覚に襲われる。


 何が起きたか、すぐに察することができなかった。


「え、し、知ってたの?」

「ええ、街で情報収集した時に聞きましたよ」 

「私は聞いてないよ?」

「博士は露店に売ってた珍しい道具を前にして小躍りしてましたね」


 ……あの時か。

 水を吸収し、吸収した水を自在に出せるという水運搬用のアイテムが露店に売っていて、その性能に私の好奇心と身体が揺さぶられた記憶がある。


「だだだとしても! 情報共有は!」

「しましたよ。でも博士、その道具を手に入れてから有頂天になって話を聞いてくれなかったじゃないですか」

「え、そうなの?」

「そうですよ。二十回は無視されましたよ」

「ご、ごめん」


 呆れたように溜息を吐くジョッシュ君に身が縮こまる。


 全く自覚がなかった。

 確かに言われてみれば、水運搬用のアイテムを手にしてから、それ以外の記憶が一つもない。


 うぅ、こんなはずではなかったのに。


 作戦は失敗。

 取り戻すどころか、地の底へとめり込んでいく威厳に、私は落胆の色を示す結果となった。


 しかし、その時。

 ショックで落とそうとした肩をガシッと掴まれ、落ち込む間もなくジョッシュ君が不敵な笑みを私に見せる。


 あー。

 その笑顔を目にした私は一瞬で理解した。

 これは、変なことを閃いた時のジョッシュ君だと。


「博士、やってみたいことを思いつきました!」

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