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『砂漠と水都の世界①』




「なっはぁー! ジョッシュ君! 見て、見てくれ! なんて不思議な鉱石なんだ!」


 巨人でも住んでいるのかと思うほどの大きな洞窟に、嬉々とした私の声が木霊する。


 その喧しさ、本当に巨人が住んでいたなら顔を真っ赤にしてクレームを叩きつけに来たことだろう。


 でも、しょうがないんだ。

 洞窟の奥地で発見したこの鉱石に興奮が止まらないのだ。


 両手で掴んだ鉱石の内部を覗き込むと、赤い電流が激しく中を駆け巡っている。


 まるで稲妻を閉じ込めたかのような凄まじい反応。


 どういう原理でこうなっているのか。

 

 あー、理解できない。

 気になる。面白い。

 楽しい。最高だ。


「うへへへ」


 だらしない顔でくねくねと身体をよじっていると、犬ころのように脇で私を抱えるジョッシュ君が息を乱しながら声を上げた。

 

「博士、持ちにくいんでじっとしてもらえますか」

「んぁ。ごめんごめん」


 謝りつつも足を上下させてしまう私に諦めたような溜息を漏らしたジョッシュ君は、砂埃を立ち上げながら洞窟の中を全力疾走している。


 とても大変そうだね。

 でも頑張ってほしい。

 さもないと、後ろのあれに――。


 首をひねって振り返ると、モゴゴゴと荒々しい音を立てて盛り上がる地面が、真っ直ぐにこちらを追尾してくる様子が窺える。


 うねる地面から時折ちらっと見える黄土色の胴体と、無数の鋭い牙を生やした筒状の大口。


 噂に聞いていたサンドワームとやら。実際に見てみると尋常じゃない威圧感である。あんなものに呑み込まれたら一溜まりもないだろう。


 捕食対象をどこまでも追いかけてくるという事前情報も確かなようで、既に結構な距離を逃走しているが、一向に諦める気配を感じられない。


「このままだとジョッシュ君が先にバテてしまうよ」

「そう思うなら、自分で走ってもらえますか?」

「…………何か、手を考えないとね」

「自分で走ってもらえますか?」


 死刑宣告とも取れるジョッシュ君の非情な提案に、私は渋い顔を浮かべる。


 ……ジョッシュ君、それは無理だよ。

 もう七年の付き合いになるのだ、分かるだろう?


 このガラス細工のように繊細な足で長距離疾走なんかしたら、粉々に砕け散るのが目に見えている。


 こうして脇に抱えられるフォーメーションが一番合理的なんだ。


 心の中で異議を唱えつつ、ぐるりと身体を反転させて無意味に仰向けとなった私は、再び鉱石を眺めながら先の展開について思考を巡らせる。


 何にしても、このまま走って逃げ切れる相手ではないだろう。


 ジョッシュ君の体力が尽きる前に、何か手立てを考えないと。


 何か。何か。


「うーーーーん」


 唸り声を上げながら熟考してみるも、これといった妙案は思い浮かばない。

 

 それから段々と頭に血が上り、思考もぼやけ、もうジョッシュ君に全て任せてしまおうかと思い始めたころ、この絶望的な状況に変化が訪れる。


 砂岩の通路を駆け抜けた先で、中央に大きな岩場がある広い空間へと辿り着いたのだ。


 私は即座に身を翻し、岩場を指差した。 


「ジョッシュ君。一旦、あそこに逃げよう」

「分かりました」

 

 ジョッシュ君は了承すると、振り子の原理でぐんっと勢いをつけ、合図もなしに私を岩場へと放り投げる。

 

 ふわりと空中に投げ出された私はバランスを取りながら。

 

「よっと」


 着地。

 この扱いにも随分と慣れたものだ。


 振り返ると、遅れて飛んできたリュックが私の足元へと転がる。


 更に遅れて、岩場をよじ登ってきたジョッシュ君も勢いのままに転がり、天を仰いで息を荒げた。


 いやはや、逞しい男になったね。


 出会った頃は私よりも小さかったのに、今や見上げる程に大きくなって。


 この成長っぷりを考慮すると、増幅する魔力が私の栄養を搾取していた、という仮説も信憑性を帯びてくる。


 まぁ、成長期を通り過ぎた今となってはどうでもいい話だが。


「博士、サンドワームはどうなりました?」


 落ち着きを取り戻してきたジョッシュ君が上体を起こしながら問い掛けてくる。


 言われて辺りに目を向けると、岩場の周りをぐるぐる徘徊するサンドワームの姿が見て取れた。


「絶賛ストーキング中だね」


 岩場を貫いてまで襲い掛かってくるようなことはなさそうだが、絶対に逃がさないという確固たる意志を感じる。


 さて、どうしようか。


 取り敢えずは岩場の上を移動しつつ、付近の様子を観察してみる。


「…………」


 ……うん、何もない。

 周りにあるのは砂地だけだった。


 来た道の反対側に出口へと繋がる道は見えるが、それも結構な距離がある。馬鹿正直に走っても追いつかれるのがオチだろう。


 この岩場も一時的な避難所として機能はしているものの、状況としては詰んでいると言っていい。


 思っていたよりも事態は深刻なのかもしれない。


 このままでは――。


「博士っ!!」


 両手で鉱石を弄びながら打開策を探っていると、不意にジョッシュ君の大声が響き渡る。同時に、私は首根っこを掴まれた猫のように後ろへと勢い良く引っ張られた。

 

 瞬間、激しい砂ぼこりと共に大口を開けたサンドワームが飛び上がって出現し、さっきまで私が居た場所を抉るようにねぶると、そのままずり落ちて再び地面の中へと潜ってゆく。


「はは……」


 ジョッシュ君と目を合わせ、私は引き攣った笑いを漏らした。


「ありがとう、助かったよ」

「岩場の縁には立たない方が良さそうですね」


 

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