エピソード8:当事者たちの長い夜③
相変わらず災害に関する内容が続きますので、苦手方は無理をしないでください。
なお、内容は全てフィクションです。
12月28日、20時14分。
宮城県沖を震源地とする地震が発生した。
地震の規模を示すマグニチュードは7.2、最大震度は仙台市や名取市で6強を観測している。
新幹線は止まり、高速道路も安全確認のため通行止め。
また、大規模な停電も発生したため、関係各所が復旧作業にあたっている。
そして――冬休みと日曜日が重なったこともあり、少し早めの正月休みをとって来仙していた人々は、突然の災害に驚き、恐怖した。
仙台市は『光のページェント』期間中だったが、停電の際に安全装置が作動したため、漏電による火災は発生しなかったそうだ。
ただ、勾当台公園では屋台で使われていたガスボンベに引火し、爆発する事故が発生。多数の死傷者が出ている。他にも崩落した天井の瓦礫や、地震による転倒で怪我をした人も多く、その全容は未だ、明らかではない。
時刻は23時を過ぎた頃。石巻市にある新聞社の社内、インターネットの自社サイトに掲載するニュース記事を校正していた駆は……画面に表示されている情報を読み返して、ため息をついた。
社内に飛び交うのは、県内各地の被害状況。特に仙台市で発生した爆発事故は全国ニュースで生中継されたこともあり、更新するとアクセス数の伸びが凄まじい。
とはいえ……今、分かっているのは、消火活動が一段落したらしい、ということくらいだ。周囲は規制線がはられていて部外者は近づくことが出来ず、負傷者は重症者を中心に病院へ搬送、軽症者は市役所や区役所に一旦避難し、順次、受け入れ先へ搬送される予定、らしい。
駆はチェックを終えた記事をアップロード担当者へ転送しつつ、自身のスマートフォンを取り出した。
そして……唇を噛みしめる。
セレナとかろうじてやり取りが出来たメッセージに、とんでもない情報が書かれていたのだから。
――ユカとムネリン、公園の爆発に巻き込まれたみたいで……連絡が、取れないんだ。
それを知ってから、駆自身も爆発事故の負傷者リストが出てこないか、注視しているものの……そこまで具体的な個人情報は、まだ、どこも把握していない。
セレナに伝えられることは、何もない。
歯がゆい気持ちのまま、机の上に置いたペットボトルのお茶を飲んでいると……後ろから肩を叩かれた。
「――千葉、30分だけだが休憩していいぞ。向こうに弁当があるから食っとけ」
慌てて振り向くと、駆の上司にあたる男性がいた。年齢は50代前半、いつもは恰幅の良い体型をスーツで仕上げているが、今日はワイシャツにジーンズというラフな格好だった。自宅から急行したことがすぐに分かる。
社内でもベテランと呼ばれている彼は、隣にある会議室を指差していた。
若手の自分が率先して休むことに抵抗があった駆は、首を振って彼を見上げる。
「市川課長、俺、まだ大丈夫です」
「バカ言うな。今夜は徹夜で朝になったら現地取材なんだよ。休めるときに休むのも仕事だ、行くぞ」
彼はそう言って、駆と共に会議室へ向かった。長机に並べられたコンビニ弁当は、他のスタッフが急ごしらえで用意してくれたもの。普段であればありがたく頂戴するところだが……今の駆に、食欲は全くなかった。
駆が立ち尽くしていることに気付いた彼は、手近にあったおにぎりを掴み、駆へ向けて差し出した。
「千葉、何かあったか? 家がヤバいなら戻ってもいいぞ?」
「いえ、その……大丈夫です」
「大丈夫じゃねぇから聞いてるんだろうが」
彼からピシャリと言い放たれ、駆は言葉に詰まった。
隠しきれない、聞いてほしい、そんな思いが大きくなる。
そして……。
「実は……俺の知り合いが、勾当台公園の爆発に、巻き込まれた、らしくて……」
「……そうだったんか……」
思わず吐き出してしまった言葉に、彼は静かに頷いた。
そして……改めて、駆へおにぎりを差し出す。
「だったら、知り合いの無事を確認するまでぶっ倒れんな。それが、今の千葉に出来ることだと思うぞ」
「市川課長……」
「ただ、どうしようもなく辛くなったら迷わず言え。今の俺達には情報発信の速度と精度、その両方が求められてるんだ。うちのニュースもアクセスの8割が県外かららしい。だから、間違った情報を発信して、人々を不安にさせるなんてことは絶対に許されないんだ。それの邪魔になるんだったら……休んでもらったほうがいいからな」
彼の言葉の中にある厳しさと、同等の優しさを感じた駆は……一度頷いた後、おにぎりを受け取った。
現実を悲観して、倒れている時間はない。
誰よりも早く、正確に、情報を伝えてみせる。そう、心に誓って。
地震災害で何が怖いかって……沿岸部は津波もですが、火事です。家具に押しつぶされるのも怖いですが、地震後に発生した火事で亡くなる方、怪我をされる方も多い印象があります。
2024年1月の能登半島地震でも、輪島で大規模な火災が発生していました。机の下に潜って地震を免れたとしても、迫る火の手からは逃げるしかありません。要するに災害時は必要に応じて潔く逃げましょう。どうか、命を守る行動を最優先にしてください。




