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66 開門

黒獣が周囲を取り囲んでいる。狼の獣、ワイルドファングの群れだ。


黒獣達は同士討ちこそしないものの、連携をとる訳でもないため、脚の早いものから追いついてくる。


戦うと勇んだスラムのおっさん達だが、今のところはリユースコレクションのメンバーだけで対処が間に合うため、突っ立って眺めているだけだ。

だがすぐに中型、大型の魔物がやってくる。いつまでもここで踏ん張り続けてはいられない。


早く全員を街の中に避難させないとな。


俺は門の前に立つと、足元の土をせり上げててっぺんと同じ高さまで伸ばした。

外壁の上にいる騎士と目線が合う。そのうちの1人だけマントをつけていたため、この中じゃ少しは偉いんだろうと思ってそいつに話しかける。


「おい、門を開けて俺たちを中に入れろ」

「な、なんだ貴様!?その格好…まさかっ」

「あぁそうだ、土の勇者様だ」


散々そう言われて否定し続けてきたものを自ら名乗るのは嫌だったが、やるならとことんだ。今の俺は土の勇者、ギルファー………いや、ガル………なんちゃらエンドだ。


今の俺は腰を落として両肘を太ももに乗せるように屈んでいる。いわゆるヤンキー座り、うんこ座りだ。


狭く高い足場に足がすくんでしゃがんだ所そうなってしまっただけだが、俺たちを見下していた騎士にガンつけるにはちょうどいい格好だ。膝が震えているのは相手には伝わってないはず。


「なんだ?勇者様のお願いが聞けねぇってのか?」

「当たり前だ。土の勇者には捕縛命令が出ている」


真っ当な返事を返す騎士にクソデカため息を吐いてみせる。


「あのなぁ、だいたい魔物の進行がここまでくりゃお前たちだって無事じゃねぇだろ。俺たちの次はお前たちだ。それでも俺達が食い殺されるのを高みの見物してるってのか?」

「ははっ、心配は無用だ」


騎士は髭を撫でながら自慢げに語る。


「この壁はアリア様の加護によって守られている。魔物だろうと魔王だろうと何人たりともこの結界を超えることは出来ん!たとえ勇者のお前でもな!悔しければお前があの者達を守ればよかろう。あぁそれが出来れば5年前に逃げ出したりなどしておらんか、わっはっはっは!」


こいつは、目の前で大勢の命が散ろうとしていると言うのにそれを牙歯にもかけずに大笑いとは、本当に国民を守る騎士なのか?


他の騎士に目をやると、偉そうな目付きでニヤついているものと、後ろめたそうに目をそらすものとで態度が分かれていた。

だが意見するものや、俺たちを助けようとするものはいない。

つまり、リーダー格の男の意見がここにいる騎士たちの総意であり、全員それに従うという事だ。

心苦しく思ってる奴もいるとか、実際逆らうのは難しいとかそんな事は俺には関係ない。一括りにここにいる騎士達という1グループが敵なる存在という訳だ。



―――にしても、魔王にも勇者にも超えられない結界か。


中々に良いお膳立てしてくれるじゃねえか。これ以上なく完璧なフラグ発言だ。

そこまで言われちゃ応えないわけにはいかないよな。


足場にしている柱を引っ込めて地面に戻る。


「お、なんだ諦めたのか?勇者といえど所詮は人間。聖女様の御加護の前では無力で然り、わっはっはっは」


よく笑う奴だ、その下品に開いた口が閉じなくなるくらい驚かせてやるぜ。


馬車が2台は並んで通れる程の門。今は俺たちの未来を閉ざす頑強な鉄格子だ。


―――いや、今だけじゃない。


離西区と呼ばれるスラムに暮らす人達にとってはずっとそうだったのかもしれない。


自分たちを街から隔離するようにそびえる壁。

これより外にいる自分たちに未来などない。魔物の群れが押し寄せようと、助けてなど貰えない。

王都プロンタルトの光と陰を分かつ象徴。


門に手を伸ばす。あと少しという所で見えない壁に阻まれて、門には触れられなかった。


これが結界か。


体が焼けたり、電気が走ったりはしない。触れても問題ないただの透明な壁のようだ。


魔物と戦っていない子供やシスターたち、そして上からは先程俺を馬鹿にした騎士たちが興味深そうに覗いている。


加護のカーテンに手を当てたまま、軽くダンジョンマスターの力を行使する。


派手な演出はない。

透明ではあるが、舞台の幕が上がるように光の揺らぎが地面からから空へ消えていくのが見えた。


壁の上の騎士たちがザワつく。俺をバカにしていたヒゲの騎士は驚きすぎて口どころか目まで閉じなくなっているようだ。


魔王の手にかかればこの程度の結界を消すなど造作もないのだ、ふははははは――――というのは嘘だ。


いざとなればトンネルを掘って全員を街と中に逃がす。もしくはとりあえず地下に匿うことを考えて結界に沿って穴を掘り進めていた訳だが、この結界は優秀にも地中までカバーしていた。

ならば結界の効力が及ばないもっと深くまでと思っていたところ、王都地下に張り巡らされたダンジョンと合流した。

モグネコ族の件で俺の支配下となった勇者の遺産の洞窟だ。

ダンジョンの一角、そこには巨大な魔石と魔法陣が設置された、この結界を発生させる為の部屋があったのだ。


ダンジョン内の事なら俺の思うがまま。俺がちょちょいと念じればあら不思議、装置は仕事をやめて、障壁が消えたという事だ。

周りからはどう見えたか分からないが、決して俺が障壁以上の魔力を注いで打ち壊したみたいなカッコいい展開ではない。


―――そう見えていたらちょっとカッコいいよね。


つまるところ、加護の障壁はアリア様とやらの恩恵でも王国騎士団の力でもない。勇者の、言ってしまえば魔王のダンジョンの力を利用していただけのものだったのだ。

それを我が物顔で威張り散らして、あまつさえ子供らを爪弾きにするとは、これがアリアとやらの教えなら碌でもない宗教だな。


王都を護る加護は全周全てこれ1つで賄っていたようで、全ての加護が一斉に消えた。


まぁ俺の知った事ではない。


これで門を開くことができる。


観音開きの門の真ん中に立ち、左右1枚ずつに手を合わせ、目一杯の力で押し開け――――たかったのだが、ビクともしななかった。

そりゃそうだ、こんなでかい扉、1人で開けるもんじゃない、というか手動で開けるものなのかも怪しい。


「全員で門を押せ!中に入るぞ!」


加護の消失を目の当たりにして唖然としていた一同だが、俺の呼び掛けで我に返り、すぐに手を貸しにくる。


とはいっても、黒獣の相手もある為、門前にきたのは子供たちとシスター、それに手の空いていた男たち若干名だ。


「せーのっ!」


掛け声に合わせて全員で扉に力をかけるがやはり門はまったく動かない。


「まだか!?もう持たねぇぞ!」


苦しい声に振り返ると、魔物の波が密度を増していた。後続の魔物が追いついてきたのか。


出来ればダンジョンマスターである事は隠し通したかったが、スキルを隠したまま全員を守り続けるのも流石にそろそろ限界か。


全員を地下に匿おうかと思い、地面に手を着く。


「馬鹿野郎、門は引くんだよ」


盛大な爆発が黒獣を蹴散らし、ガタイのいい大男が飛び込んできた。


「これだけの魔物相手に全員無事とは僥倖だ、よくやった!」


アーヴァインは皆を褒めつつ、2発目の魔法を発射。圧倒的火力で眼前の黒獣が一斉に消し飛ぶ。


「勇者を、勇者を街に入れさせるなぁ!」


壁の上から司令が飛ぶ。それを受けて門の向こうに抜剣した騎士たちが集まってこちらを睨みつける。


「これ、門開けない方がいんじゃね?」

「とは言っても…」


離西区に目をやると魔物の群れが迫ってきている。

前門の黒獣、後門の騎士団。

騎士団を見てため息がでる。こいつらは何を守るために何と戦ってるんだ?


いよいよもってダンジョンマスターの出番か―――と思った矢先だった。


「開門じゃあ!!!全隊、進めえええ!!!!!」


門の向こう、街側から威勢に満ちた怒号が飛んだ。

お読み頂きいつもありがとうございます!

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