65 ラグナロク
ギロチンジラフに破壊された孤児院を捨てて子供らは広場にでる。
しかし結界がない今、広場は安全な場所ではない。
すぐに子供らをゴブリンとワイルドファングが囲い込む。
子供にワイルドファングが飛びかかる。しかしそれは横から飛んできた鞭によって防がれた。
「あんたら無事だったんだな!よかった!」
「お姉さんヒヤヒヤしたわぁ」
「よかったよ~!絶対死んだと思ったよ~!」
アマゾネスの4人は迅速に子供らの四方につく。
「ここにいてもどうしようもない。もっと街の中心に移動しよう」
「西門まで走りやすぜ」
「走るって、あいつはどうするのよ」
アマゾネスの弓使い、アネモネが指さすのはギロチンジラフ。
「子供らの足じゃ振り切れないわよ」
「足止めが必要です~」
「あたしらじゃ荷が重いわよ」
アマゾネスは自分たちでは無理だと正直に告げる。
そりゃそうだ、止められるものなら孤児院が攻撃された時に止めてくれてるはずだ。
となると俺たちかウォーリー・フットマンペアのどちらかになる訳だが。
「俺たちですかい?フットマン、あのデカブツの相手、どうでさぁ」
「愚問だな」
フットマンは即答。いつもと変わらず無表情に腕を組んで威風堂々の立ち振る舞いを見せる。
足止めできるかという質問を愚かに感じるほど余裕ということだろう。頼りになる男だ。元々ガタイはいいが今はさらにでかい男に見える。
「無理だ!」
そっちかーい!
聞くまでもなく無理ってことかい。胸張って言うことじゃねーだろ!俺の感動を返せ!
「ガルファ、リリがやる」
「俺はススムだ」
リリは鞘に納まったままの大剣を地面に突き立てる。剣は地面に半分以上埋まった。
「リリ、あんたやれるの!?」
「それならここは任せやしたぜ。全員西門まで走りやすぜ!」
「あ、おい!」
アマゾネスとウォーリー達は子供たちと一緒に走り出した。
三度、ギロチンジラフが首を後ろに反る。
後ろに倒れた首は建物に隠れて見えなくなるため、どこに狙いをつけているのか分からない。
「とりあえず、あいつの気を引かないとな」
地面に手をついて太く長い柱を創造する。先端には顔がついており、ギロチンジラフを模している。
黒獣のギロチンジラフの顔つきには野生動物特有の鋭さがあったが、こっちは子供の落書きのようなポップなアホズラにしてやった。
根元を上手く削いでやれば、棒は慣性のままにゆらりとギロチンジラフの方へと倒れていく。
そのままジラフ像がギロチンジラフの胴に当たるかといったタイミングでギロチンジラフが首を振りあげる。
太く、長く、そしてしなりがある首はジラフ像を軽く粉砕し、俺たちに襲いかかる。
大丈夫か?リリが何かするって言うから防御や回避の準備は全くしてないぞ。
リリは地面に埋まった鞘から剣を抜く。
左右対称の紋様が走る、神々しい光を帯びた白い刀身の大剣が顕現した。
ずっと小脇に抱えて振り回してたから、最早そういう形の鈍器なんじゃないかとまで思えていたけど、れっきとした剣だったようだ。
体格に似つかわしくないほど大きいそれをリリは軽々と横に薙いで、後ろ手に構える。
剣は帯びる光を増し、周囲に突風が吹き荒れる。リリの剣に力が集まっている事が目に見えてわかる。
ギロチンジラフの首は勢いを増し、目前に迫っている。
「ラグナロク」
リリが剣を振り上げる。
それは斬撃ではない。
剣から放たれた巨大な光線が視界を埋め尽くす。何者の存在をも許さぬ破滅の光。全てに終焉を告げる神の咆哮。
目を奪われていたのは数秒だろうか、もっとかもしれない。
圧倒的な破壊力の後には、それに見合った圧倒的な爪痕が残る。
ギロチンジラフは影も形も残っていない。
目の前に広がるのはそんな魔物1匹の生死で語るようなものじゃない。
無だ。
そこには何も無い。
光線が通ったであろう道には瓦礫ひとつ残っておらず、抉れた地面は黒く焼け焦げ、所々に未だ赤い熱を残している。
その先を追うと街の外まで見通せる。リリの攻撃は外壁の外まで及んでいるようだ。
「んーーーしょっと」
たったいま破壊の限りを尽くした少女の可愛らしい声で我に返った。
リリは地面に刺した鞘を引っこ抜いていた。剣はすでに鞘に収まっている。
「すごいな……」
凄すぎて、そんな言葉しか出なかった。
「ん、ちゃんと加減した」
これで本気じゃないのか……
と、リリが頭をこちらに寄せる。明らかに何かを要求している事が感じられた。
俺はそれに従う。
「お…おう、偉いぞ」
そう言いながらリリの頭を撫でる。自分で言っときながら何がどう偉いかも分からないけど、とりあえず褒めて撫でる。
リリの嬉しそうな反応を見る限り、これで正解だったようだ。
「そういうの後にしてくんない?」
ルルが不満全開な表情でこちらを睨んでいた。
「なんだ?ルルも撫でて欲しいのか?」
「ち、違うわよ!」
「なんだよしょうがないなぁ」
ルルの頭に手をのせる。
「バカ!違うって、言ってるでしょ…」
と言いつつされるがまま、抵抗はみせないルル。
「ルル、何もしてない」
「してるわよ!ちゃんと戦ってるわよ!」
なんてのんびりかましてる場合じゃない。
リリがギロチンジラフとその後方全ての敵を薙ぎ払ってくれたといっても一方向だけ、周囲にはまだまだ黒獣が控えている。
「みんなと合流するぞ」
止めどなく迫る黒獣を間引きながら俺たち3人も後退する。
先に逃がした子供たち、シスター、その他浮浪者のおっさんとリユースコレクションの愉快な仲間たちに追いついた。
追いつきはしたのだが、どうにも状況は芳しくなさそうだ。
皆は閉ざされた門の前で騒ぎ立てている。門から続く壁の上からは騎士達がこちらを見下ろしているが、こちらの呼びかけには無言を貫いている。
西門ってこれの事か?
確かに門ではあるが、他の外門と比べると些か小さい。俺も孤児院に行く時にいつも通っていたが、区画分けの壁程度に思っていた。
聞く耳を持たない騎士たちへあげる声はもはや野次や罵声と化している。もはや交渉でも話し合いでもない。
中には石を投げつける者もいたが、壁を超える寸前で見えない何かに弾かれる。壁に沿って結界が張られているんだろうな。
「どうなってんだ?」
聞くまでもなく状況は一目瞭然だが、一応そばにいたアイリーに問いただす。
「それが、私たちは街の中には入れられないと…」
「どうして」
「あいつらは俺達のこと同じ国民だと思っちゃいねぇんだよ!」
俺たちの会話が耳に入ったのか、隣にいた男が嘆くように声を上げる。
「ふざんじゃねぇぞ!俺達が何したってんだよ!」
「」
「これじゃあ5年前と同じじゃねえか!また何も守れずに……くそっ!」
「また俺たちは見捨てられるのか!?」
俺達が多少間引きしたといっても黒獣はすぐそこまで迫っている。騎士への訴えの声が、次々と嘆きに変わっていく。
そのうち1人が声を上げる。
「戦おう…子供たちだけでも守るんだ!」
「そうはいっても、時間を稼いでどうにかなるものじゃないだろ」
「それでもだ!何もしないよりいい、やれるだけやるんだ!ただ逃げて、喚いて、5年前の悲劇をなぞるだけは嫌だ。足掻いて足掻いて、それで駄目なら死んでやる」
男は持っていた棒きれを振るうと、リユースコレクションのメンバーと並んで殿に立った。
「お、お、俺だってやるぞ!」
「俺もだ!黙って殺されてたまるか!今度は俺たちが守る番だ!」
「儂も人生最後の意地を見せちゃろうかのぉ」
鼓舞が鼓舞を呼び、男たち全員が子供らを守るように取り囲む。
やせ細った体で、装備はボロの服にひのきのぼう。言葉にすればゲームの初期装備かってくらい可哀想な装いで挑むのはラスボスの代名詞、魔王だ。
腰が引けている、震えてるやつだっている。それでも子供を守ろうと、一矢報いてやろうと立っている。
漢じゃねぇか。
見ればヨーゼも石を握って前列に加わろうとしてる。それと、前にヨーゼと揉めてたガキ大将もだ。
そいつらの首根っこを掴んで止める。
「子供は大人しく守られてろ」
「だって―――」
「だってもへったくれもねぇ。アイリー、こいつらが変な事しないようちゃんと見といてくれ。って、シスターまでそんな物騒なもん持って…」
どこに隠し持っていたのか、アイリー含むシスター達は短剣を握っていた。
「子供を守るのは大人の役目ですから」
そう言って笑っては見せるが、短剣を握る手は震えているのがわかる。戦いになれてるとは到底思えない。
―――――まったく
こうもみんな立ち向かおうとしてるのに、勇者が何もしないって訳にはいかなぇよな。
懐から勇者の仮面を取り出して、目元に装備する。
「どうしたのあんた、やっと記憶が戻ったの?」
「いいや、全然。お前の知ってる勇者ならこんな時どうしたと思う?」
「全員救おうとするわね、間違いなく」
「そうか、それじゃあ俺もちょっくら勇者ごっこでもしようかと思うんだが、手伝ってくれるか?」
「嫌よ。手伝えなんて言わないで。私は勇者第一の剣。あんたの剣なの。お願いなんてしないで好きに振るいなさい。私はあんたの望むままに、全てを討ち貫くわ」
「そうか。リリは?」
「リリ、ガルファと戦う」
「俺はススムだ」
勇者と呼ばれるのも、ましてや勇者になるなんて真っ平御免だが、今日だけ特別だ。
さて、勇者ごっこを始めようか。




