67 赤の騎士団
「開門じゃあ!!!全隊、進めえええ!!!!!」
門の向こう、街側から威勢に満ちた怒号が飛んだ。
「なんだ貴様ら!」
壁上の騎士が驚きの声を上げ、門を開こうとする俺たちに刃を向けていた騎士たちも突然の来訪者に一斉に振り向く。
「モートン元総師団長?」
「何故ここに…」
「寝たきりのはずでは………」
声の主に騎士たちは動揺を隠せないでいる。
「な、なぜ総師団長が。何をしておる!そやつらを止めろ!」
ヒゲが命令を出すが騎士たちは狼狽えるばかりで動かない。
そうこうしているうちに老人率いる赤鎧の一団は門の前に辿り着いた。
「開けぇぇぇええ!!!」
『うおおおおおおお!!!!』
新たに現れた騎士たちが門に手をかけるので、俺達は急いで下がる。怒涛の勢いで迫ってきたので堪らず身を引いたというのが正しいが。
勢いそのままに歩兵が一気に門を押し開けると、騎馬隊が離西区になだれ込む。
その隅側では歩兵達が1列に並んで壁となり、俺達を街の中へ誘導するための道を作ってくれている。
「モートンのじじぃ、どうして……」
普段はしかめっ面しか見せないアーヴァインさえも信じられないといった顔で声を漏らしていた。
その老人には見覚えがあった。ソルテの祖父であり、つまりはゴートンの父である、モートン=ゴルドーだ。
孤児院の前で1度あったが、その時は車椅子に乗った枯れ木のような老人だったはず。
それが今は水を得た魚のように活き活きしている。
騎馬に跨ったモートンが俺たちの前で止まる。
「久しいな勇者殿、調子はどうだ?」
「は、はぁ…」
「また手合わせしたいものだ、今度はサシでな。はあっ!」
以前と同じセリフを言うだけ言って、馬の腹を蹴って前線へと駆けていった。
子供らは全員街の中に入り終わったようで、続いてスラムのおっさんらが街に入っている。
俺も続いて門をくぐろうとする。
「え?そっちいくの?」
「え?」
「いえ、てっきり戦うのかと思って…」
ルルはどうやら俺がこの場に残って戦うもんだと思ったらしい。
とは言ってもな――――後ろを振り返る。
騎士は騎士で、リユースコレクションの奴らはパーティーで連携して魔物を食い止めている。
俺は戦うと言っても幼女任せで自分は突っ立ってるだけだ。ルルが何もさせてくれない。
戦闘は戦闘のプロに任せて俺は安全な街の中に避難だ。
俺はルルに自分の正直な気持ちを正直に伝える為に彼女の肩を掴む。
「街の中が安全とは限らないだろ。子供たちを護衛する必要がある。決して、戦うのが面倒だとか怖いとか安全な場所にいたいとかそういう訳じゃないんだ」
「ちょ、ちょっと…近いわよ」
「俺には子供たちを守るという使命がある。それが何よりも優先事項だ。子供たちを安全な場所に誘導して俺もそこで大人しくしている。それが絶対的な安全だ」
「わかった、わかったから」
「お前も一緒に戦ってくれるんだろ、ルル。俺は大して戦えないからな。頼りにしている。お前が頼りだ」
「そ、そうよね。任せて!私は勇者の剣!貴方の望むまにま剣を振るい、あなたの望む結果を見せてあげるわ!」
「ルル、チョロい」
ルルは俺の本心をわかってくれたようだ。リリがなにか呟いていたがなにも聞こえてはいない。
「ススム!ガキ共は任せたぞ!」
アーヴァインのお墨付きも得た。俺は片手を上げる事で返事を返し、子供たち、おっさんらに続いて門をくぐった。
騎士たちはモートンの登場による混乱が解けておらず、剣は向けるものの動けずに俺たちを見逃した。
先頭を行くアイリーに迷いは見られない。どこか当てがあるようた。
「どこに向かうんだ?」
「西の教会に行きます。避難所のひとつですし、私の顔もききますので」
「わかった」
アイリーの案内で教会に向かう。
街の中には黒獣はいないようだ。しかし、住民も皆避難しているためか、人の気配は感じるが出歩いている者はほとんどいない。
たまに騎士や冒険者らしきものとすれ違うが、一瞥するだけで何ということはない。
魔王が攻めてきているというのに街の中がこんなにスカスカでいいのだろうか。西門の騎士も言っていたが、この街はよほどアリア様の結界とやらに自信があったんだろうか。
10分ほど歩いたところで教会に着いた。
綺麗な白壁の、集会所や避難所に相応しい大きく威厳のある建物だ。
俺の寝床の裏にある教会よりも大きそうだ。
アイリーが扉に手を掛けるが開けることが出来ず、扉を叩いて声をかける。
「避難に参りました。どうか扉をお開けください」
声に気づいて何人かが窓越しにこちらを覗き込んでいる。
二枚ドアの片側が少し開き、隙間から1人のシスターが出てきた。
「あら御機嫌ようシスターアイリー。何か御用でしょうか」
「御機嫌よう、シスターブリュレ。子供たちを連れて避難に参りました。どうか中へ入れてください」
アイリーは静かに頭を下げる。それを睨むように見下すブリュレと呼ばれた修道女は子供たちとおっさんらに目を向け、アイリーへと戻す。
「アイリー様、申し訳ありませんが、うちは既に避難された方々でいっぱいですので」
とは言うが、開かれた扉から中を覗くとまだ余裕があるように見える。
あとなんでこいつは申し訳ないと言いながら嬉しそうなんだ?とても感じが悪い。
「なんとかならないでしょうか、せめて子供たちだけでも」
「こちらに受け入れの余裕はありません、他を当たってください」
「なんとか、子供たちだけでも」
アイリーは祈るように両手を組み、膝をついて頼みこむ。
しかしブリュレからは明るい返事は帰ってこない。それどころか勝ち誇ったような態度が増長しているようにも思える。
「無理なものは無理です。教会に集まっているのは我らアリア教の真摯な信徒の方々です。そうでない者がいると祈りに邪念が混じり御加護が弱まってしまいます」
「いいえ、そのような事はありません。アリア様は全ての者を見届け、全ての者を救ってくださいます」
「でしたら場所など関係ないのではなくて?王都はその全てがアリア様の御加護で守られています。街の中にいるだけで安全が保証されるのです。でしたら建物の中だろうと外だろうと関係ないでしょう。あなた方はその辺でお祈りの真似事でもされてはいかがですか?」
加護のことは一般の者も知っているのか。それがさきほど消えてしまったことには気づいてないようだが。
仕方ない、俺も一肌脱ぐか。
「俺から頼んでも駄目か?」
アイリーの後ろに立って話に割って入った。
「なんと言われようと無理なものは無理で…………勇者?」
今の俺は勇者の姿をしている。勇者様の後光があれば無理も通るのではとないかと思った―――のだが
「シスターアイリー、あなたという人は………これ以上話すことはありません、失礼します」
完全に逆効果だった。
ブリュレは険しい顔をして扉を閉めようとする。
「祈ってりゃ助かるのかよ」
子供のうちの誰かがいった。
おいおい、何か言い返したい気持ちは分かるけど、勘弁してくれ。ここで相手を煽ったって話が拗れるだけだ。
振り返って子供たちを睨みつけるが、全員が首を横に振る。じゃあ誰が―――
「祈りさえすれば、そのアリア様ってのがみんな救ってくれるってのか?なら死なねぇようしっかり祈っとけよ、そのアリアとかいうクソ神様によ」
俺達の最後尾にから暴言を吐く青年。
健康的に焼けた肌に素肌着アロハ、頭には犬のような耳。
今この街を襲撃している張本人、魔人ガルムがそこに立っていた。
( ¯꒳¯ )ᐝ宇宙は広い




