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村の娘たちが、六等分にされたパイの皿を手際よく参加者の前へ置いていく。
俺以外の三人が、綺麗に切り分けられたそのパイを手掴みにし、潔くかぶりついていく。
王者の男は二口で食べ終え、開始数秒で早々に次の皿を求める。
次いで大食いプリンス、おばちゃんも続く。
もちろんこれは、競争で早食い勝負なのだから、なにもおかしなことはない。
「おーい! 兄ちゃんどうした、手が止まってるぞ!」
客席から突っ込まれ、真下のチェリーパイに向き合う。
……っ、あああ。もう、やるしかないのか、これ。
大衆に晒されながら食事なんて喉を通るわけ――、
でも、アダマントゥスは欲しい――、
ッッッ〜〜〜くっっっっそ……‼︎
さっくりと焼き上がったパイを俺も掴み、やけくそとばかりに齧りつく。
軽やかな音に続き、黒光りするチェリーの果肉がトロッとパイ生地の隙間から溢れる。
ごくんと飲み込み、死にかけていた自分の瞳に活力が戻るのがわかる。
美味しい……。
太陽の光と大地に流れる魔素をいっぱいに吸い上げ、完熟したダークジュエルチェリー。
この酸味のきいた甘さと、程よく窯で焼きあげられたパイ生地との相性最高すぎんか。
そういえば、甘いものなんて随分久しぶりだ。
ここ最近は魔獣だの海魔だの保存食だの、そんなのばっかりで、こういう、まっとうに“ご褒美”みたいな味は本当に久しぶりで、体が喜んでいるのがわかる。
あっという間に一切れを食べ終えると、新たな皿が運ばれてくる。
確かに、これを好きなだけ食べていいというのはありがたい話である。
大食い勝負でなければどんなに良かったか……。
サクサクしたパイの食感と贅沢に詰められたダークジュエルのしっとり感、爽やかで上品な口当たり、これはスイーツとして時間をかけて味わいたかった。
二切れ目も、……うん……うん、難なくいける。
思ったほど甘くないのがいい。
あれ……意外と……これ、食べれる、な。
もしかして、これ。
「……」
案外いけるんじゃないか――――なんて思えたのは八皿目までだった。
うん。いや、無理……無理だよ普通に無理。
スタートこそ全員手早い動きで皿を空にしていたが開始から数分も経てば、パイなんてあっという間に腹に溜まる。
それでも安定したペースで皿を積み上げていくのは、前回優勝者のトップ独走の男。
「ハーヴェルの王者! 現在十二皿目に突入! 順調に差を開けていく! 二位は十皿の大食いプリンス! キングに食らいつきながらも甘いマスクは崩れないいいいいいい! おおーっと! ここで四位の食堂のおばちゃんが手を挙げたーーーーーーッ! これは――⁉」
五皿目を積み上げたおばちゃんが、ナプキンで口を拭いながらニコニコとギブアップを宣言する。
「やっぱりこういうのって、美味しいって思えるくらいで辞めるのがちょうどいいわ」
いや、ほんとにね――!
「早くも一人が脱落だぁあああ! 制限時間は残り五分! 果たしてこのままキングが三連覇を制すのか⁉︎ それともチャレンジャーの逆襲が始まるのか⁉︎ さあ現在三位の街道の英雄はどうだ⁉︎ スタートからギアをまだ上げていない様子、ここから怒涛の追い上げを見せるのかああああああああ‼︎」
司会者、頼む黙ってくれ。
ギア上げてないとかじゃなくてこれが精一杯なんだよ!




