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焼きたてのチェリーパイが、視界を埋めるかのごとくうず高く積まれている。
表面のパイ生地は格子状に編まれ、こんがりときつね色。
隙間から溢れるほどたっぷり使用されたジャム状のチェリーは黒みを帯びた深紅色で、村の特産“ダークジュエル”の名を冠するに相応しく艶やかに輝いている。
食欲を誘う、溶かしバターと甘酸っぱい香り。
これはまさしく、静かな席で一人きり、爽やかな秋の風を感じながら、紅茶片手に心ゆくまで味わうべき珠玉の一品、
のはずだった――。
「さあさあ今年もやって参りました! ハーヴェル村の豊作祭り名物! チェリィーパイッッッ大食い大会だぁああああああああああああああああ――ッ!!」
司会者の絶叫と同時に、広場に無数の歓声が沸き起こる。
長テーブルのこちら側には、俺を含めた四人の選手。
向かって左には、優勝候補らしい腕組みした屈強な大男。
右隣には笑みを絶やさず手を振るふくよかなおばちゃん。
そしてその隣では、派手な衣装の男――自称王都の大食いプリンスが胸を張ってギャラリーにアピールしている。
「ハーッハッハァ! 今回の祭りのナンバーワンは大食いプリンスこと、この私が頂くぞ!」
なにこれ帰りたい。
やる気に満ちた横顔を並べる面々の中、俺だけが背を丸め、極度の緊張で小刻みに震えている。
広場の中央。
衆目に晒され。
逃げ場なし。
胃がいたい――‼︎
「おーい! 端っこの兄ちゃーーーん! あんたに賭けてんだ! 頑張れーーーーーー!」
無理です。無理無理無理無理無理無理。
賭けないで。
見せ物にしないで頼むから。
前方から向けられる視線の数々に、強制デバフ『人見知り』が発動。
メンタルをゴリゴリ削られていく感覚。
緊張が高まりすぎて、胃液が競り上がりそうだ……。
ていうかほんとに、なにこの悪夢。
これなんていう地獄。
一体全体、なにが、どうして、
こうなった――‼︎




