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やがて丼に盛った白飯の上へ、焼き上がった細長の切り身が丁寧に並べられ、仕上げに追いダレがひと刷毛。
脇には蓋付きの肝吸いと、小鉢の漬物が添えられる。
「熱いうちに、」
「……いただきます」
匠の技を惜しみなく披露した大将に促され、俺は会釈して両手を合わせた。
丼を引き寄せ、熱々のご飯と共に豪快に口へ運び、咀嚼――。
「――うっま」
間髪入れずに声が出た。
そりゃそうだ。わかっていた。
あんだけ丁寧に調理して、美味くないはずがない。
炭火の香り、とろりと甘辛いタレがカリッとした皮目、ふっくらとした身と結びつく。
咀嚼のたび、幸福な余韻を残していく。
これだけでも満足感が高いのに、さらにタレが染みたご飯なんて……。ずる過ぎやしないか。
言うなれば、約束された勝利確定の味である。
黙々と食べ進める。箸が止まらない。いや、丼飯ときたら気取らず掻き込むのが礼儀。
激しい修行で消耗しきった心身が、確実に癒やされていく。
まさか一日の終わりにこんなご馳走にありつけるなんて、命をくれたシーサーペント、そしてそれを調理してくれた眼前の大将に感謝せずにいられない。
味覚が正常に戻ったからこそ、一食一食のありがたみが身に沁みる。
「いい食べっぷりだねぇ」
丼の中身を半分以上食べほし、肝吸いをひと口啜り顔をあげると、女将が気持ちよさそうに笑っていた。
「……すごく、うまいです」
「そりゃよかった。そのシーサーペントね、昨日、若い冒険者の子たちが仕留めてきてくれたやつなんだよ」
箸が止まる。
「……それって」
背中に剣を背負った青年がその中にいたかと問うと、女将はうんと頷いた。
「まだ少し危なっかしいけど、腕は悪くないねぇ。昨日も港の外れで暴れてたのを、ちゃんと仕留めてくれて助かったよ」
……そうか。
このシーサーペントは、あの彼が。
箸で持ち上げた蒲焼の切れ端を見つめ、自然と口元が緩んだ。
別れ際の彼との会話を思い返す。
「――そうだ。あんたこの辺で勇者さん見かけなかったか? 噂で東大陸にいるって聞いて、もしかしたら会えるかもって思ったんだけど」
苦笑いしながらごまかす。
流石に、目の前にいますとは言えない。
「そっか……。まあでも、こんな半端もんじゃ、会えたとしても格好つかないしな。俺も兄さんみたいに経験積んで、もっと強くならないと」
「どうして……君は、そんなに勇者にこだわるんだ」
「ああ、……数年前に、な。魔族が村に魔物をおびき寄せて、死にかけたんだ。……その時に、駆けつけてくれた勇者さんに命を救ってもらって……。だけど俺は、腰抜かして泣いてるだけで、ろくに礼も言えなくてさ……」
それがずっと心残りで……と、彼は胸の前で手を握り、視線を落とす。
「だから追いかけてる。どんなに遠い場所にいても、どんなに時間が掛かってもいいんだ。いつか一緒に戦って恩を返して、その時にちゃんと顔を見て礼を言いたから」
言い終えると、彼は気恥ずかしくなったようで、へへっと照れ笑いをこぼした。
これまでどれだけの人を救えたかなんて、もう数えていない。
助けたことに勇者が見返りを求めるのは違うと、ずっと思っていた。
助けられた側にしてみれば、それは勝手に救われただけの話だし、戦うことが役目の俺に、過ぎた憧れや恩なんて抱かなくていいとも思っていた。
だって、自分なんかに出会ったせいで、戦場に出て、命を落としたと後で耳にするのは……辛すぎるから。
そう思っていたはずなんだけどな……。
結局、いくら頑なになったとて、俺も一人の人間に変わりないのだと、小さくため息を吐く。
あんなふうに思って、慕って、追いかけてきてくれる存在がいるっていうのは。
存外、悪くない……。
俺も……、いつかどこかで、一緒に戦えたらいいなと思う。
だからその時まで、
どうか、生きていてくれ。
そう心中で呟き、丼の上の最後のひと切れを、俺は彼への感謝と共にゆっくりと噛みしめた




