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人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。  作者: 天野 肇
12食目 再会の港町、シーサーペントの蒲焼き丼。

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 やがて丼《どんぶり》に盛った白飯の上へ、焼き上がった細長の切り身が丁寧に並べられ、仕上げに追いダレがひと刷毛(はけ)。


 脇には蓋付きの肝吸いと、小鉢の漬物が添えられる。



「熱いうちに、」

「……いただきます」


 匠《たくみ》の技を惜しみなく披露した大将に促され、俺は会釈して両手を合わせた。



 丼を引き寄せ、熱々のご飯と共に豪快に口へ運び、咀嚼――。


「――うっま」


 間髪入れずに声が出た。


 そりゃそうだ。わかっていた。


 あんだけ丁寧に調理して、美味くないはずがない。


 炭火の香り、とろりと甘辛いタレがカリッとした皮目、ふっくらとした身と結びつく。

 咀嚼のたび、幸福な余韻《よいん》を残していく。


 これだけでも満足感が高いのに、さらにタレが染みたご飯なんて……。ずる過ぎやしないか。


 言うなれば、約束された勝利確定の味である。


 黙々と食べ進める。箸が止まらない。いや、丼飯ときたら気取らず掻き込むのが礼儀。


 激しい修行で消耗しきった心身が、確実に癒やされていく。


 まさか一日の終わりにこんなご馳走にありつけるなんて、命をくれたシーサーペント、そしてそれを調理してくれた眼前の大将に感謝せずにいられない。


 味覚が正常に戻ったからこそ、一食一食のありがたみが身に沁みる。



「いい食べっぷりだねぇ」


 丼の中身を半分以上食べほし、肝吸いをひと口啜り顔をあげると、女将が気持ちよさそうに笑っていた。


「……すごく、うまいです」

「そりゃよかった。そのシーサーペントね、昨日、若い冒険者の子たちが仕留めてきてくれたやつなんだよ」


 箸が止まる。


「……それって」


 背中に剣を背負った青年がその中にいたかと問うと、女将はうんと頷いた。


「まだ少し危なっかしいけど、腕は悪くないねぇ。昨日も港の外れで暴れてたのを、ちゃんと仕留めてくれて助かったよ」


 

 ……そうか。

 このシーサーペントは、あの彼が。


 箸で持ち上げた蒲焼の切れ端を見つめ、自然と口元が緩んだ。


 別れ際の彼との会話を思い返す。


「――そうだ。あんたこの辺で勇者さん見かけなかったか? 噂で東大陸にいるって聞いて、もしかしたら会えるかもって思ったんだけど」


 苦笑いしながらごまかす。

 流石に、目の前にいますとは言えない。


「そっか……。まあでも、こんな半端もんじゃ、会えたとしても格好つかないしな。俺も兄さんみたいに経験積んで、もっと強くならないと」


「どうして……君は、そんなに勇者にこだわるんだ」


「ああ、……数年前に、な。魔族が村に魔物をおびき寄せて、死にかけたんだ。……その時に、駆けつけてくれた勇者さんに命を救ってもらって……。だけど俺は、腰抜かして泣いてるだけで、ろくに礼も言えなくてさ……」


 それがずっと心残りで……と、彼は胸の前で手を握り、視線を落とす。


「だから追いかけてる。どんなに遠い場所にいても、どんなに時間が掛かってもいいんだ。いつか一緒に戦って恩を返して、その時にちゃんと顔を見て礼を言いたから」

 

 言い終えると、彼は気恥ずかしくなったようで、へへっと照れ笑いをこぼした。



 これまでどれだけの人を救えたかなんて、もう数えていない。


 助けたことに勇者が見返りを求めるのは違うと、ずっと思っていた。

 助けられた側にしてみれば、それは勝手に救われただけの話だし、戦うことが役目の俺に、過ぎた憧れや恩なんて抱かなくていいとも思っていた。


 だって、自分なんかに出会ったせいで、戦場に出て、命を落としたと後で耳にするのは……辛すぎるから。


 そう思っていたはずなんだけどな……。


 結局、いくら頑なになったとて、俺も一人の人間に変わりないのだと、小さくため息を吐く。


 あんなふうに思って、慕って、追いかけてきてくれる存在がいるっていうのは。


 存外、悪くない……。


 

 俺も……、いつかどこかで、一緒に戦えたらいいなと思う。


 だからその時まで、

 どうか、生きていてくれ。

 


 そう心中で呟き、丼の上の最後のひと切れを、俺は彼への感謝と共にゆっくりと噛みしめた

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