↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。  作者: 天野 肇
12食目 再会の港町、シーサーペントの蒲焼き丼。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/46

4

 宵の口、港通りの外れ。

 市場の喧騒が少し遠のいたあたりに、その店はひっそりと建っていた。


 潮風に晒された白壁と、濃い木目の柱。瓦屋根の下に、『御食事処 海乃幸』と書かれた白の暖簾が静かに揺れている。


 この店の造り。神官の故郷でもある東方島国の文化だろう。


 入口は格子の引き戸で、脇には『商い中』の木札。暖簾の奥から漏れる灯りと、扉の傍に置かれた古びた狸の置き物が、静かで暖かな雰囲気を醸しているのがいい。


 どうしてもお礼がしたいと言う冒険者の彼に、『この辺の店で美味い飯が食べれるところ教えて』と頼んだ結果。


 彼が推したのがこの店だった。


 引き戸をそっと開けると、ほっとするような出汁の匂いに迎えられた。


 店内にはまばらに客がいたが、どの卓も静かに食事を楽しんでいる。

 俺好みの空気だ。



 板張りの床に、壁には木札のお品書き。カウンター席は調理場が見える造りになっていて、無口そうな大将が淡々と包丁を操り。白い割烹着姿の女将が食事を運びながら俺に声をかけた。


「いらっしゃい。お一人さんかい? こっちどうぞ」


 案内されたのは調理場の見えるカウンター席。

 座ると、強面の大将と目が合う。

 気まずさで肩に力が入ると、大将は何も言わず、まな板に顔を戻して魚を捌き始める。


 おおお……こ、この席、人見知りにはちょっと荷が重いかも。


 気を紛らわせたくて壁の木札に目をやる。


 焼き魚、煮つけ、おまかせフライ、本日の刺身。単品でも定食にもできるのか。


 定食に付いてくる青さの味噌汁は、追加料金であら汁に変更も可能……なるほど、いいな。


 お、大盛り無料……ッ、だと。

 食いしん坊が喜ぶ文字の並びじゃないか。


 達筆な字で書かれた飾りげのないメニュー表なのに、眺めているだけで楽しくなってくる。


 さて何を食べようか……。


 そういえば彼は、この店にしかないめちゃくちゃうまい料理があるから、絶対食べてほしいと言っていた。

 どれのことだったんだろう。今さらだが、ちゃんと聞いておけばよかった。


 視線を泳がせていると、一枚だけ太い赤文字で書かれた札に目が止まる。


【数量限定・シーサーペントの蒲焼丼《かばやきどん》(肝吸い付きます)】


 おお……?


 シーサーペントは、沖の深場に棲む大型海魔のことだ。


 細長い体で船体に絡みつき、船を転覆させ海底へ引きずり込む獰猛な海魔で、討伐も一筋縄ではいかないが、激しい海流で叩き上げられたその身は栄養価が高く、脂が乗っていて美味いと聞く。


 木札を見ていた俺に気づいたのか、女将が声をかけてきた。


「ああ、それ、昨日から出してる限定食なんだよ。ありがたいことによく出てねぇ。残り、ちょうど一食分なのだけれど」


 え。

 数量限定で残り一食って。


「――女将さぁん! まだアレある? 蒲焼丼!」


 ガラガラ! と背後の戸が勢いよく開き、ほろ酔いのエルフが戸口で叫ぶ。


 え、あっ。


 振り返る女将に、俺は慌てて身を乗り出す。


「あ、あああ、じゃあ、蒲焼丼一つで……!」

「ふふ、はいよ」


 タッチの差、せ、セーフ……。


 俺の焦りように女将は口元に手を当てて微笑み、「悪いね。蒲焼丼は今さっき出ちゃったよー」と戸口に投げた。


「大将、蒲焼丼」


 女将の注文を聞いた大将は無言で頷き、手元の包丁を取り替えた。


 まな板に置かれたシーサーペントの切り身は、白身魚に似た見た目だが、皮目には海魔らしいマダラ模様が浮かび、太く鋭利な骨がびっしりとくっ付いていた。


 大将は包丁の先で浮かすように骨を外し、残された小骨の全てを手際よく指で抜いていく。


 淀《よど》みない動き、職人の技って感じだ。

 真剣な面差しのまま下処理が進み、シーサーペントの身はあっという間につるりと美しい艶を見せる。


 骨を抜き終えると、大将は身の厚みに合わせて包丁目を細かく入れ、寸分違わぬ間隔で串を打っていく。


 そのまま体を半歩ずらし、今度は奥の焼き場へ移る。

 腰の高さほどの細長い炭台だ。灰の中で赤く熾った炭が静かに熱を放つ。

 その上に、串打ちしたシーサーペントが渡すように並べられていく。


 ほどなくして身から脂が滴り落ちる。

 細長い切り身の表面が炭火で持ち上がり、皮目が縮む。


 一度裏返し、頃合いを見てまた何度か返すと、タレ壷に泳がせていた刷毛《はけ》が焦げ色のついた身を撫でていく。


 塗っては炙り、炙ってはまた塗る。

 そのたびに香ばしい匂いを放ちながら、つやつやと飴色を帯びていく。

 

 美味そうが過ぎる……。


 前言撤回。

 この席、とんでもない飯テロ爆心地だ――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。