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腕を伸ばして割って入ると、当然のように二人の視線が俺へ向いた。
「えっ」
「な、なんだい。あんたは……」
緊張で声が裏返りそうになるのを堪え、なんとか平然を装う。
「いや、その外套が1万モートは、さすがにぼったくりが過ぎるんじゃないかと思いまして」
「ハア? ぼったくり?」
「“魔避けの外套”に使うレッドドラゴンの血は、加工すれば人間にはほとんど匂わなくなる。少なくとも、こんな獣臭さは残りませんよ」
赤茶けた色むら。薄っぺらな生地。こんなものを野営で羽織れば、魔物を遠ざけるどころか、下手をすれば逆に刺激する。
「こんな危ない粗悪品を平気で売ろうなんて、商人のすることじゃありませんよ」
男の目つきが予想通りに鋭くなる。
「し、失礼なお客様だ! これは正真正銘の――」
「では、商会ギルドの腕章を見せてもらえますか」
「……へ?」
「正式な物なら、偽装防止の刻印が入っているはずですよね」
「チッ……手練れの冒険者かよ……」
小さな悪態。うん、もうちょい攻めとくか。
「見せられないなら、商会ギルドの人を呼びましょうか。登録があるか、その場で確認できますし」
「……っ」
行き交う人々の視線が集まり、男の額に汗が滲む。
「買う気もねえくせに、面倒なことばっか言いやがって!」
男は外套をひったくるように回収すると、慌てて店を畳み、そのまま路地へ逃げていった。
……っ。
……ぶっはあああああああ――!
久々にハキハキ喋りまくって、気力がばっこり持っていかれた。
やっぱり慣れないことするもんじゃない……。
くたびれながら青年を見ると、しばらく呆然としていた彼も、ようやく我に返った。
「っ……騙したな! おい、この詐欺師――!」
もう追いつける距離じゃない。
数瞬して、青年は気まずそうにこちらを振り返った。
「あー……その、助かりました! 危うく報酬金、全部溶かすところでした」
「いや……。市場には偽の腕章で粗悪品を売る商人もいるから。目利きに自信がつくまでは、腕章を見せてもらった方がいいよ」
それじゃ。
さっさと立ち去ろうとしたところで、青年が身を乗り出してフードの奥を覗き込んできた。
ぎくり。
「その声、その外套……やっぱり! 兄さん、前に酒場で会った人じゃんか!」
わ……わあぁあ、バレちゃった……。
「ア、……エト、ソウダッタ……カナ」
輝く視線が眩しくて、思わず目を逸らす。
「そっか。やけに貫禄あると思ったら、あんたベテランだったんだな。昨日、結構デカい海魔の討伐に成功してさ。ちょっと浮かれてたんだ」
「格好悪いとこ見せちまった」と笑う彼に、俺は首を横に振る。
「俺も駆け出しの頃は、何度もガラクタ掴まされたから」
……まあ、そのせいで悪徳商人の見抜き方には妙に自信があるんだけど。
そう苦笑すると、青年も笑った。
「そうだ! 良かったらなにかお礼させてくれよ!」
「え……いや、別にいいよ」
「そう言わずに! 俺の気が収まらねえから!」
青年が荷袋をごそごそと漁り出す。
いや、本当にいいんだけどな……。
こういう時、なんて返せばいいんだ。
……あ。
「お礼って言うなら……じゃ、じゃあさ――」




