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視界を塗り潰すような土砂降りの雨。
破壊され、地に転がされた大盾。
泥と、流れていく血が混ざり合い、足元を赤黒く濁らせていく。
「ご……めん……な……ッ」
腕の中で血を吐いては、か細い言葉を紡ぎ続けるそいつに、俺はもう喋ってくれるなと何度も訴える。
それでも聞いてくれとばかりに手首を握られ、たまらず歯を食いしばると、緋色の瞳が、薄く笑った。
「もう……お前を、守って、やれそうに……ない」
やめろ。
言うな。
そんな顔をするな――。
「……おま、えを……、故郷に……帰して、やりたかっ……た、なぁ…………」
瞳から光が静かに消えていく。
その言葉を最後に、手首を掴んでいた左腕が力なく血溜まりに落ちた。
「――勇者なんか、ならなければよかった……」
振り返ると、憎しみで歪んだ眼をした幼い少年が背後に立っていた。
それは紛うことなき昔の、俺だった。
「勇者なんかに、ならなければ……兄ちゃんは、今もあの小さな村で、俺と一緒にいたはずなんだ」
ぽた、ぽた、と頬を伝う雫。
怒りと悲しみがぐちゃぐちゃに絡まりあった顔で、少年は俺を睨みつける。
「全部、お前のせいだ――」
奈落の底のように暗い恨みの言葉を喉元に突きつける。
「お前が……勇者になったから。兄ちゃんは……こんなくだらない戦争に巻き込まれて死ぬことになったんだ。……お前がいたから……お前なんかが、いなければ――」
――。
……ああ……。
……地面が冷たい。
フッと目を覚まし、鼻を打つ湿った土の匂いに、短い感想を抱く。
…………夢、……だったか……。
「――また意識を飛ばしおって」
頭上から、聞き慣れた声。
「まったく。お主は地面との接吻が随分と好きじゃのう」
勇者よ――。と呼ばれ、即座に状況を把握した俺は慌てて顔をあげる。
揺れ動く青磁色の鱗を纏った尾。
天を向く一対の捩じれた角。
組紐で高く一括りにされた黒長の髪。
墨色を基調とした立ち襟の長衣。
そんな、強者然とした要素を持ちながら、俺を悠々と見下ろすのは――、
十にも満たない幼い顔立ちの、小柄な少女。
にしか見えない――齢千年を軽く超えるドラゴンと人の混血、龍神族の里長にして、俺の師匠。
起き上がり姿勢を静かに整えた俺は、地面に手を突き首を垂れる。
「参りました……」




