3
パセリを頭頂部に刺され、胴体には切れ込みで手足が作られている。
にっこりとした表情で、こちらを見上げているのは、
二体のマンドレイクさんウィンナー。
普段、翼竜も魔獣も容赦なく殴り伏せる、あの逞しい手で、このウィンナーを切り、添えた武闘家の笑顔が脳内に浮かぶ。
故郷の子供たちを思い出しながら拵えたのだろうか。離れた場所にいる今、確かめる術などないが――。
震える箸先を伸ばし、マンドレイクさんウィンナーの一体を、できるだけ無感情に持ち上げる。
これから食われるというのに……そんな緊張感のない顔で見てくるな。
小さく息を吐いて、そいつを口の中へ招く。
ぱきっ、と皮が破裂する音。
珍しさはない。
どこの市場にも並ぶ、慣れ親しんだ味。
だが。普通にうまい。
可もなく不可もない、いい、このレベルでいいのだ。
だって、この弁当を彩る全てのおかずが、尖りすぎず、主張しすぎず、美しい調和を保っている。
どのおかずに繋いでも、美味のバトンが途切れない。
絶えることない味のループ。
まさに、食の円環を成している――。
この弁当を前に、無を貫き通すことはもはや不可能。
俺の中の頑なな城砦が、ガラガラと音を立てて崩壊していく。
完敗だ……ッ。
眉間にシワを寄せ、歯を食いしばり、折れそうなぐらい箸を強く握り締める。
……なんてものを残していってくれたんだ。
武闘家……。
もう、
もう、いっそ店出せ――‼︎
さっきのゴブリン同士の揉め事がさらに火力を増している。
数体が割って入り、収束することなく騒ぎが広がり、やがて殴り合いの大乱闘。
近くを通りがかった魔族は、それを冷ややかな眼で見て素通りしていく始末。
おいおい……止めないのか。
この程度で揉めるのならいっそ潰し合えってか。
顔を上げると、反対側の岩場で弓使いが小さく動いた。
低い位置でのハンドシグナル。
「なんか騒いでるし、落ち着くまで休憩しとこうぜ」
無言の合意。
俺は岩陰にもたれ、その場に脱力する。
弁当箱の隅に残っていたデザートのルクサの実を手に取り、淡い果肉をひと齧りすれば、甘酸っぱいジュースのような潤いが喉を流れる。
最後の最後まで、頭の中をかき乱してくれる恐ろしい弁当だった……。
でも、こうして最後まで完食したからこそ、この弁当で少しでも肩の力を抜け――という武闘家のメッセージを感じることが出来た気がする。
俺は深く手を合わせ、感謝の言葉と共に箸を置く。
遠く離れた仲間の心遣いをありがたく思うと共に、前のめりになりすぎていた体の緊張も幾分ほぐれた気もした。
力は抜けた。抜けた……はずなのだが。
それと引き換えに別の問題が浮上して、俺は頭を抱えたくなった。
舌が…………満足したと同時に、
余計に腹が減ってきた。
武闘家の飯が、無性に恋しくなってくる。
「さっさと終わらせて合流したい……」
最後の一口を飲み込みながら思わず零す。
なお――張り込みは、まだまだ続くのであった。




