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人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。  作者: 天野 肇
8食目 張り込み限界飯、武闘家謹製・彩りガチ弁当

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3


 パセリを頭頂部に刺され、胴体には切れ込みで手足が作られている。

 にっこりとした表情で、こちらを見上げているのは、


 二体のマンドレイクさんウィンナー。


 普段、翼竜も魔獣も容赦なく殴り伏せる、あの逞しい手で、このウィンナーを切り、添えた武闘家の笑顔が脳内に浮かぶ。


 故郷の子供たちを思い出しながら拵《こしら》えたのだろうか。離れた場所にいる今、確かめる術などないが――。


 震える箸先を伸ばし、マンドレイクさんウィンナーの一体を、できるだけ無感情に持ち上げる。


 これから食われるというのに……そんな緊張感のない顔で見てくるな。


 小さく息を吐いて、そいつを口の中へ招く。


 ぱきっ、と皮が破裂する音。

 珍しさはない。

 どこの市場にも並ぶ、慣れ親しんだ味。


 だが。普通にうまい。

 可もなく不可もない、いい、このレベルでいいのだ。


 だって、この弁当を彩る全てのおかずが、尖りすぎず、主張しすぎず、美しい調和を保っている。


 どのおかずに繋いでも、美味のバトンが途切れない。


 絶えることない味のループ。


 まさに、食の円環《えんかん》を成している――。


 この弁当を前に、無を貫き通すことはもはや不可能。


 俺の中の頑なな城砦《じょうさい》が、ガラガラと音を立てて崩壊していく。



 完敗だ……ッ。


 眉間にシワを寄せ、歯を食いしばり、折れそうなぐらい箸を強く握り締める。




 ……なんてものを残していってくれたんだ。


 武闘家……。


 もう、


 もう、いっそ店出せ――‼︎








 さっきのゴブリン同士の揉め事がさらに火力を増している。

 数体が割って入り、収束することなく騒ぎが広がり、やがて殴り合いの大乱闘。


 近くを通りがかった魔族は、それを冷ややかな眼で見て素通りしていく始末。


 おいおい……止めないのか。


 この程度で揉めるのならいっそ潰し合えってか。


 顔を上げると、反対側の岩場で弓使いが小さく動いた。

 低い位置でのハンドシグナル。


「なんか騒いでるし、落ち着くまで休憩しとこうぜ」


 無言の合意。

 俺は岩陰にもたれ、その場に脱力する。


 弁当箱の隅に残っていたデザートのルクサの実を手に取り、淡い果肉をひと齧りすれば、甘酸っぱいジュースのような潤いが喉を流れる。


 最後の最後まで、頭の中をかき乱してくれる恐ろしい弁当だった……。



 でも、こうして最後まで完食したからこそ、この弁当で少しでも肩の力を抜け――という武闘家のメッセージを感じることが出来た気がする。


 俺は深く手を合わせ、感謝の言葉と共に箸を置く。


 遠く離れた仲間の心遣いをありがたく思うと共に、前のめりになりすぎていた体の緊張も幾分ほぐれた気もした。


 力は抜けた。抜けた……はずなのだが。


 それと引き換えに別の問題が浮上して、俺は頭を抱えたくなった。


 舌が…………満足したと同時に、


 余計に腹が減ってきた。


 武闘家の飯が、無性に恋しくなってくる。


「さっさと終わらせて合流したい……」


 最後の一口を飲み込みながら思わず零す。

 なお――張り込みは、まだまだ続くのであった。


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