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四つの鍋を食して、俺はゼーハーと呼吸を乱していた。
おかしいぞ、これ。一番美味しいお粥を決めるただのお料理対決じゃないのか? 一番最強のお粥作ったやつが優勝になってないかこれ。
残るは神官の作ったお粥。
頼む……まともであってくれ。
神に祈るように蓋を掴み息を吸い込む。
「なッ」
確かに蓋を開ける前からゴボゴボと煮え立つ音がし続けていたのには違和感があった。しかし――問題はそこじゃなかった。
むらさき――、
いや、正確には禍々しいほど濁った“真紫”。
先程の赤とは比べ物にならない、赤と青を混ぜ極限まで煮詰めた――鍋の中に顕現せし混沌。
例えるなら、水の魔物たちが住む魔海――。
おお、神官よ……お前もか……。
匙を持つ手がガタガタ震える。
見た目の破壊力で優勝と言ったら間違いなく神官のこれだ。
熱が一気に上がりそうだった。
この色、異様な粘り気、何が浮かんでるのか判別もつかないグチャグチャの具材。一口食べたらどうなってしまうのか。
食すのを断念するか。いや……でも、あの元気のない神官が食堂で一生懸命に作ってくれたんだとしたら。
手を付けずに突っ返すことなんて――。
眉間に皺が寄り、熱い汗がぽたと落ちる。
ええい、ままよ――‼︎
匙を突き立てる。
ぐちょとお粥が絡みつき、糸を引く。
見た目は完全に災厄。
だが――
喉奥に落とした瞬間。
「……ッ?」
……あれ、……。
身構えていた“終末の味”は訪れなかった。
舌にまず広がったのは、味噌とほのかな野菜の甘み。
昆布のやわらかな香り、そこに魚の出汁の深みが合わさって――。
ゆっくりと咀嚼する。
煮崩れた具の正体を確かめるように噛むと、ほろっとほぐれる白身魚の繊維と、人参、刻んだ数種の薬草。米ではない、麦。
口に入れればわかる。ひとつひとつが丁寧に下処理されていて、苦味も臭みもない。
そして――最後に舌に降って来るこのまろやかさは……。
「……ユキネ芋……」
間違うはずがない。この舌触り、食感、後味……。
これは、この芋は――俺の……。
暖かな余韻が、遠い日の記憶を呼び起こす。
しんしんと雪の降る、辺境の寒村。
幼少の頃、風邪を引いた時。年老いた養母がかじかむ手を息で温めながら作ってくれた一杯。
畑で収穫した。村の特産品であるユキネ芋を潰してじっくり煮込んだ、とろみの強いお粥。
湯気立つ木の椀を受け取り、夢中で啜った。
美味しくて、美味しくて、風邪を引いていることも忘れて、俺は何度もおかわりをねだった。
そんな俺を見て畑仕事から戻った養父が節くれだった手で俺の頭を撫で回す。
「おいしいです。かか様、とと様!」
雪兎のように幼少の自分の声が脳裏に跳ねる。
気がつくと、温かいものが一筋、頬を伝い、静かに落ちた。




