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人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。  作者: 天野 肇
6食目 風邪ひき勇者と、脅威のお粥グランプリ

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2

 旅の間の普段の食事は、宿屋の食堂か、野営の時は買い貯めた保存食や現地調達で、武闘家がだいたいの料理担当している。


 俺も時々作るけど、なにが怖いって他の連中の料理はほぼ食べたことがない未知数ということだ。


 未知は怖い。でも、寝込んでから既に何食か抜いていて、悔しいことに腹は減っている。


 まあ……仲間の好意(好意でいいのか)や食材を無駄にするのも、だしなあ……。


 仕方ない……。


「……やるか」


 俺は布団から身を起こし、匙《さじ》を握った。

 まずは左端。戦士が作ったという鍋。


 怖々と蓋を開ければ、言われた通りちょっぴりの量のお粥。

 鼻を啜ると生姜とほんのりエビ出汁の香り。

 ……意外と……見た目も……。

 

 少し躊躇《ためら》い、匙で軽くすくってひと口。


「……わるくない……」


 というか。ちゃんとうまい。

 意外と、というか、かなりうまい。

 塩加減もいいし、なんというか、活力がみなぎりそうな味だ。


 戦士、わりとやるじゃないか……。

 料理できたのか。


 出て行った扉の方を見ながらもう一口、ん……なんか、カリカリするものが口に入った。


 ん、ん? なんだ、これ。根菜じゃあないよな、噛むたび甘辛いエビのような味が染み出す。

 うまい、けどこれなんだ。

 舌でなぞるもよくわからない。


 佃煮《つくだに》……か?


 気になって、匙の先で鍋底をさらう。

 どろおッと浮き上がる、小さな殻のような物体。

 覗き込むと、そこには……茶色く揚《あ》がった高たんぱくフレーク。


「ひ――」


 王都の市場で見かけたことがある。一部の層に人気のオーガニックで体に優しい健康食材。

 虫由来のやつ。


「うおああああああああああああああああああああああああああッ――‼︎」


 絶叫と共にベッドから転がり落ちる。


 せ、戦士ィィィィィ――ッ!

 お、おま、なに――なに仕込んで、いや、これ絶対悪気ないやつ! 入れたら元気出るよね、喜ぶよねとすら思ってそう。屈託のない笑みで鍋を掻き回している姿が目に浮かぶ。

 いや、それにしたって戦士ッ――――‼︎


 総評:圏外。味はいいが、ちょっと後でお話ししようか。


 一発目からサイコパスな鍋に当たって俺はすでに撃沈寸前。

 

 流石に連続で運試しはしたくない。

 今すぐに口直しがしたい――! 今すぐに――!


 俺は戦士の鍋の蓋を戻し、武闘家の作った鍋を引き寄せる。


 中身は――細かく刻まれた根菜と小口切りのネギ、ほぐされてトロトロになった鶏肉入りの卵粥。


 ――ああ、これだ。

 迷いなく匙で掬って口に運ぶ。


 体の芯がほっこり温まる。胃にやさしく溶ける。正解に限りなく近い味。


 素朴だが、これでいい。これがいい。

 新鮮な卵のコクが全ての食材を等しく優しく抱擁する……。


 まさに風邪の時に欲しいが詰まった一品。


 武闘家は体術を極める南方武族の族長で、子供は八人いて面倒を見るのも料理を振る舞うのも好きだと聞いた。

 ああ……これは……胃袋からグッと掴まれる。

 俺が女の人だったら嫁ぎたくなるわ……。

 

 総評:暫定一位。味見た目文句なし。安心安全の武闘家クオリティ。



 続いて……魔法使いの鍋。

 蓋を開けるとそこは、色彩の花畑。

 野菜で作られた星と花。

 飾り切りのうさぎが舞っている。

 すごい……、鍋の中で一つの芸術が完成している。

 一つ一つの作業が職人並みだ。魔法使い、こんなに手先が器用だったのか――。

 これは崩すのがもったいない、と思い端の方に匙を入れる。

 当然、口にしたそれが塩味を運んでくるものだと思った。


 「っぐ……⁉︎」


 ……どういうことだ。

 来ると思っていた味の予想が直角に方向転換した。

 こ……れ、は――。

 あ。あ――っ。


 あま、い。


 というかゲロ甘――‼︎

 スイーツの類かってほどに甘い、嘘だろと言いたくなるほどに甘い。

 米、具材、汁、全てが――。

 どういう工程でこうなった! 調味料間違えたとかそういう次元じゃないよこれ⁉︎


 総評:見た目SS。すごいけど、味見した……?


 残すところ鍋は二つ。どっちを取るか、指先が汗ばむ。


 弓使いの鍋。神官の鍋。いや結局どっちも食べないとならないのだけれど。最後に残すならよりダメージの少ない方がいい


 弓使いと神官だったら、圧倒的に神官の方がまともなものを作りそうだ。弓使いには悪いが……。俺の体力ゲージも満タンじゃないわけだし。


 意を決して弓使いの鍋を開け放つ。

 ボッと解放される真っ赤な湯気。

 この匂いは……トマト? 薬草をすり潰したような香りもする。

 鮮やかな赤一色のお粥が、匙に纏わりつきどろりと光る。


 鍋の縁に貼られたメモ紙には、弓使いの乱筆でこう書かれていた。


『体を良く温めて! by 弓使い』


 なるほど……トマトベースの薬草粥か、弓使いにしては無難なチョイス――……。


 なわけがなかった。

 口にした瞬間。頭のてっぺんまで尋常じゃない辛味が達し爆発した。

 舌がしびれて味覚が消滅するレベル。


 口の中で火の精霊たちが激しいサンバを踊っている。

 まさかと思い、倒れそうになりながら鍋の底を掘る。


 世界で最も辛いとされるレッド・エンペルドラゴンペッパーの実が米に混じって姿を現す。

 

「……弓使いィィィィィィ――‼︎」


 喉の奥が燃え、声にならない悲鳴が漏れる。


 総評:論外。表に出ろ。



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