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人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。  作者: 天野 肇
6食目 風邪ひき勇者と、脅威のお粥グランプリ

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1

「──ぶぇっくしょんッッッ‼︎」


 盛大なくしゃみが宿屋の一室に響いた。

 頭が……割れそうに痛い……。

 鼻水は洪水のごとく、喉奥は熱を持ち腫れ上がっている。

 毛布の中で震えながら、俺は枕元の冷えた水のビンを手探りで掴んだ。


 新たな神精霊との契約を果たす航路の旅。その終盤、海の死神──キングクラーケンとの戦いは、まさに死闘だった。


 甲板から海に投げ出され、救い上げられ、蘇生され、久々に生死の境を彷徨(さまよ)った。

 そのツケが一気に来たのか、王都に戻った瞬間、俺は盛大にダウン。ベッドの上で熱にうなされながら、ぼんやりと天井を眺める日が三日ほど続き今に至る。


 仲間たちは交代で見舞いに来てくれたが、中でも神官だけはやけに静かで、視線を合わせる前に逸らし、薬草を煎じて俺に飲ませると足早に出ていく。


 理由は──なんとなくだけど、クラーケン戦のあれかな、と思う。


 あの時、俺が神官を庇って海に引きずり込まれた。


 彼女は今もそれを気にしてるんだろう。自分のせいで俺が倒れたと思っている……そんな気がする。


 何をそんな、と言いたいが、この頭では気の利いた言葉が思いつかない。熱でぼんやりした頭じゃ、うまく聞ける自信もない。


 あんなに取り乱して泣きじゃくった神官を見るのは初めてだった。


 銀色のまつ毛を涙で濡らしたあの顔が、頭の片隅に焼きついて離れない。ベッドに横になっていると、余計に胸の奥がざわついた。


「なあ……神官さ、最近元気ないよな」


 昼頃、戦士が見舞いに来たとき、俺は布団の中から声を出した。


「戦士、頼む。神官をうまく元気づけてやってくれないか」


 こういう時は、いつだって天真爛漫(てんしんらんまん)な戦士が適任だ。

 人任せは気が引けるが、戦士ならきっとうまく立ち回ってくれるだろう。そういう安心感がある。


 俺が声をかけると、戦士は目を見張って嬉しそうに胸を叩いた。


「任せてください勇者さん!」


 見えないはずの尻尾がブンブン振れてる。

 よし……これで安心だ。そう思って目を閉じ、一眠りした──その後だった。


 俺の目の前には、小ぶりな土鍋が五つ。


 部屋の中はいつの間にか出汁と生姜の香りで満たされ、テーブルに並べられたその圧に、弱った体が強張(こわば)る。

 

 いやいやいやいや、なんだこれ。

 どうしてこうなった──!

 部屋に戻ってきた戦士がお盆の上のそれらをテーブルに移しながら説明した。


「みんなで話し合ったんです! 勇者さんを元気づけるには、やっぱり“食”だろうって! それで、“誰の料理が一番勇者さんを元気にできるか”ってことで──第一回、お粥グランプリ、開催です!」


 お……おおお粥グランプリ?

 戦士君……ちょっと待って、元気付けるの俺じゃなくて、神官の方……。


「いやあ、たまにはこういうのも面白いかなって思って、食堂借りたんですけど盛り上がっちゃいました! 神官も参加してくれました! 良い気分転換になるかと思って!」


 うわああ〜そういう方向できたかあ。


 気分転換はいいけど、これ、こんな、どうすればいいんだ。


 合同で一つの料理を作らず、別々に作って食わせようとするあたり、暇を持て余したパーティメンバーの悪ノリ具合が窺(うかが)える。


 なんだこの唐突なイベント。病人には荷が重いぞ。


「量も少なめに作ったんで、どうぞご堪能あれです!」

「ご堪能って……あ、あー、戦士ちょっと、戦士──ちょ……ああああ」


 行ってしまった……。

 

 しばらく固まったあと、ほこほこと蓋の穴から湯気を昇らせる土鍋の群れに向き直る。


 まじか……。

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