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人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。  作者: 天野 肇
5食目 キングクラーケン・バーベキュー、漂流サバイバル仕込み

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5


 肌を叩く雨の感触で、ゆっくりと現実に戻った。


「……息してる! 神官、もう一度!」


 裏返った魔法使いの声。

 神官の両手が俺の胸に当てられ、蘇生の光が脈動する。


「……っ、かは……ぁっ!」


 肺に熱が流れ込み、喉奥から塩辛さが競り上がる。


 ぼやける視界。水浸しの甲板。キングクラーケンの遺した触手の残骸。俺を覗き込む仲間たちは、皆一様に引きつった顔をしていた。


「みん、な……、」


 掠れた声をようやく出すと、泣きじゃくりながら神官が胸に縋ってきた。


「ごめんなさい……っ、私を庇って……私のせいで……っ!」


「引き上げた時には、勇者が息してなくて……! 神官がずっと蘇生を続けていたけど、全然反応なくて、っ……! もう、どれだけ心配したと思ってんのよ!」


「こんの馬鹿‼︎ 本当にくたばるかと思っただろ‼︎」


「勇者さん……! 良かった、ほんとうに、ほんとうにッ」


 珍しく涙ぐむ戦士に肩を強く掴まれ、弓使いに頭を叩かれる。武闘家は安堵のため息をつき、魔法使いは袖で目元を拭った。


「……おかえりなさい、勇者さん。おかえりなさい。おかえりなさい……‼︎」


 震える声で何度も、確かめるように繰り返す神官。雨と涙が頬を伝い、もう区別もつかない。


 そんならしくない彼女を元気づけたい一心で、冷えた手に手を重ねる。


「ただいま」


 短く返すと、神官は泣き腫らした碧い瞳を細めて微笑んだ。





 翌日。

 雲ひとつない快晴。


 俺は船縁に肘をかけ、ゆるゆるとストレッチをしながら皆を見回す。


 戦士は槍の先を布で磨き、弓使いは弦の張りを確かめ、魔法使いは遠くを眺めながら鼻歌、武闘家は壊れた甲板の修理を手伝っている。


 神官は薬草の袋を仕分けながら、時々こちらをちらりと見る。目が合うと、慌てて視線を逸らす。耳まで赤い。

 何も言わない。俺も、何も言わない。


 そこで腹の虫がくう、と鳴る。

 みんなが一斉にこちらを見る。そこで咳払いをひとつ。


「あー……その。一つ提案が。王都に着いたら、みんなでイカ料理食べないか」


 重い沈黙。


「それはダジャレですか?」

「何言ってんの」

「イカに殺されかけたくせに」

「当分見たくないです……」

「やめとけ」


「いや、夢で食べたキングクラーケン……案外うまくて」


 などと口にすれば、四方から拳骨、ツッコミ、手刀、ため息が飛んできた。

 最後の戦士のデコピンが地味に痛い。


「だったら、代わりに……王都に戻ったら、温かいものを。できれば、みんなで」


 神官が手を止め、わずかに目を逸らして応える。


「それなら、考えてあげなくもないです」


 ああ。

 やっと、あるべき場所に戻れた気がした。

 俺は頷いて、背筋を伸ばす。


 空は高く、船はゆっくりと進んでいた。

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