2-25 転生者
サイラスとエミルは慌てて、お互いに顔をそむけた。座ったまますこしだけ距離を開ける。
「あれれ? ご主人さまもエミルも、お顔がまっかだよ? 焚き火にあたりすぎたのかな? かな?」
「い、いや、そんなことないよ。じ、じゃあ、僕は休ませてもらおうかな」
「わ、わたしも、もう寝ます……」
ふたりは他の仲間たちが眠っているほうに歩いていき、サイラスはマルバンの隣に、エミルはカレラの隣で横になって毛布にくるまった。
サイラスは寝転がると、目をつむって、さきほどのことを思い返した。
(あれって、やっぱり、そういうことなのかな。それとも、魔王が復活したって聞いて、僕のことを元気づけようとしてくれただけなのかな……)
すこし離れたところから届く、セフィの無邪気な笑い声を聞きながら、サイラスは悶々としつつも、やがて眠りのなかに落ちていった。
◆
ベガリス城の中庭は高い壁に囲まれていたが、初夏の太陽の光が明るく差し込んでいた。
地面は緑の芝生で覆われ、壁際に設けられた花壇には色とりどりの花が咲き誇っている。
中庭の中央に植えられた五メートルほどの木の根元に、サイラスはひとり、なにをするでもなく、うつむいて腰かけていた。
そんなサイラスに向かって、入り口からひとりの少女が歩み寄ってくる。サイラスの前に立ち、一礼して話しかけてきた。
「お父さまのことは本当に残念でした。最後までこのベガリアを守ろうとしていただいたこと、心から感謝しております」
柔らかな春の日差しのような声が、上から降ってきた。
「!?」
サイラスはその声に聞き覚えがあった。いや、忘れもしない。忘れるわけがない。その声の主を、サイラスは長い間探し求めていたのだから。
少年は慌てて、少女の顔を見上げた。
「きっ、キミは……!!」
純白の豪奢なドレスをまとった美しい少女だった。気品のある顔立ちに、深い緑色の大きな瞳が輝いている。腰まで覆う、豊かな栗色の髪が目を惹いた。
「初めまして、勇者さま。わたしはエミリア。エミリア・アルセフィーナ・ベガリス。この国の王女です」
少女がサイラスに微笑みかける。
(まさか、こんなところで……)
ずっとずっと探して、探しつづけて。もう二度と会えないんじゃないかと、あきらめかけていたのに。
少女の顔を見つめるサイラスの瞳から、涙があふれ出した。
「勇者さま!? ごめんなさい、わたし余計なことを申し上げました」
エミリアは驚いてひざまずき、細く白い腕でサイラスの頭を自分の胸に抱き寄せた。
「……違うんだ。父さんのことで泣いたわけじゃない。父さんだって、あのスキルに目覚めた日から覚悟はしていたはずだから」
「じゃあ、どうしてそんなに悲しい顔をされているのですか?」
「別に悲しがってるわけじゃない。でも、なぜだか……なぜだか涙が止まらないんだ……」
サイラスは涙のわけをごまかそうとした。
「でも、なにか悩みがあるなら聞かせてください。誰かに話せば、すこしは楽になるかもしれませんよ?」
エミリアは抱き寄せていたサイラスの頭をゆっくりと放し、ふわりと微笑んだ。
「…………」
サイラスは、エミリアの春の花のような笑顔に見惚れてしまった。
(彼女は彼女であって、彼女ではない……それでも)
あきらめたように、サイラスはぽつりぽつりと自分のことを話しはじめた。
「……父さんの遺体が竜王の背中に載せられて国に戻ってきたとき、母さんはすがりついて泣いてたよ。父さんは、まるで生きてるみたいで、あのスキルを使って死んだっていうのに穏やかな死に顔だった。ただ眠ってるみたいだった」
エミリアはサイラスの隣に腰かけ、静かに若い勇者の話を聞いた。
「あんなに悲しそうな母さんの姿は初めて見た。でも、俺は泣けなかった。……俺はなんにも感じなかったんだ」
サイラスは泣いているとも、笑っているとも、わからないような顔になった。
「子供のころから感情がないって、屋敷の使用人たちにも不気味がられてて……あのとき俺を振り返った母さんの目が忘れられない。でも、そんなことはずっと前からわかってたんだ。母さんが、俺のことを怖がってるなんてことは……」
「そんな……」
「俺が涙を流すなんて、この身体になってから初めてだ」
サイラスはエミリアの顔を見た。
「なあ、俺の秘密を聞いてくれるかい?」
エミリアの宝石のような深い緑色の瞳が、サイラスを優しく見つめ返してくる。
話しても到底信じてもらえるとは思えなかった。普通なら頭がおかしいと思われるに違いない。
もし万が一、彼女がサイラスの話を信じてくれたとしても、不気味に思われるのがオチだ。ずっとずっと探しつづけて、やっと見つけることのできた、この少女にまで。
エミリアはサイラスを見て「初めまして」と言った。だがサイラスには、エミリアが自分の探していた少女だという確信があった。
それでも、不思議となんでも受け入れてもらえるような気がして。サイラスはいままで誰にも話したことのない秘密を、打ち明けようとしていた。
「……こんなことを言っても信じてもらえないだろうけど、俺には前世の記憶があるんだ。転生って、聞いたことあるかい?」
「記憶喪失勇者」2-25を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




