1-9 わたしをもらって
「えっ! コロネさんが! なんで、そんな!?」
エミルはうつむいて、もじもじと両手をこすり合わせる。さっき、コロネがなにか言おうとしていたことと関係があるのだろうか? それとも自分といっしょに寝るのが嫌で、あんなに泣いていたのだろうか?
(なら、なんで部屋から出ていこうとした僕を引き止めたの?)
サイラスはひどく混乱していた。
やがて、エミルは覚悟したように顔を上げ、まっすぐサイラスに視線を向けてきた。横一文字に結ばれた唇は、ぷるぷると震えている。
「母さまは……勇者さまに、わたしをもらっていただいて、ふたりでこの村から出るようにと……」
「えっ! もらって!?」
サイラスは口から心臓が飛び出るほど驚いて、エミルの顔を見つめる。頬が赤くなるのを感じて、明後日のほうを向いた。
(ふたりでこの村から出る!?)
「でも……それはできないんです。ごめんなさい……」
一瞬、エミルは悲しげな顔をしたが、ふわりと優しく微笑んで、サイラスを見つめた。それは、なにかを決意したかのような笑顔だった。
「実は、父さまと母さまは、わたしの本当の両親ではないんです」
エミルの言葉にサイラスは真顔に戻って、自分の隣に腰かける少女のほうに顔を向けた。
「わたしは十年前に父を亡くして、すこししてから母が再婚したんです。……でも、その義父がひどい人で……わたしが十歳になったころから、その……いやらしい目で見られるようになって……母がいないときに襲われそうになったんです……」
サイラスは、エミルから目をそらした。だから男が苦手なんだなと納得しつつ、自分は彼女をいやらしい目で見ていなかっただろうかと、これまでの行いを思い返す。
(反省しろ、自分……)
「……その、未遂だったんですけど、でも、母から……わたしから誘ったみたいな言われ方をして、家にはいられなくなって……子供のいなかった父さまと母さまに引き取られることになったんです。父さまは、わたしの母の兄でもありましたので……」
エミルは指先が白くなるほど、両方の手をぎゅっと握りしめた。
「わたしは父さまと母さまには、とても感謝しているんです。実の子供のように大切に育ててくださって……お料理も教えてくださいました。だから、わたしにはこの村を出ることはできないんです」
エミルは宝石のような深い緑色の大きな瞳でサイラスを見つめ、冗談めかすように微笑んだ。
「それに、まだ、男の人はすこし、怖いですし……」
「……そうだよね。ごめん」
「あっ、ち、違うんです!」
エミルが慌てて、ぱたぱたと手を動かした。
「勇者さまは……怖くないんです。びっくりしただけなんです……さっきは」
そのようすを見て、サイラスはくすりと笑ってしまった。
(嫌われてはいないみたいだな……)
「ベッドはエミルが使って。僕は床で寝るから」
「そ、そんな……勇者さまを床で寝かせるなんて、できません」
「もともとエミルの部屋なんだし。それに僕、さっきまでずっと寝てたから、ちっとも眠くないんだ」
「でも……」
「じゃあ、明日の朝ごはんを、ちょっとだけ大盛りにしてくれたら、それで貸し借りなしってことで」
エミルはしばらく迷っていたが、やがて、くすっと小さく笑ってうなずいた。
サイラスは床に腰を下ろし、柱に背中を預けた。
サイラスと話して落ち着いたのか、エミルはベッドに入ると、すぐに静かな寝息を立てはじめた。
部屋のなかは暖かかった。初夏くらいの気温だろうか? さっきまでは気がつかなかったが、女の子の部屋特有の花のような甘い香りがする。
(エミルの匂いかな? どうして懐かしいと感じるんだろ……)
サイラスは目をつむり、ぼんやりとエミルのことを考えていた。今日、初めて会ったはずなのに、ずっと昔から知っているような気がする少女。
(ふたりで、この村から出るように、か。もうエミルには振られちゃったけど、なんでコロネさんはそんなことを言ったんだろう?)
『勇者さまに、わたしをもらっていただいて』
エミルの言葉を思い出し、サイラスは耳まで熱くなった。
(だから、もうエミルには振られたんだって!)
サイラスは、頭のなかのエミルの言葉を振り払う。
(明日からどうしようかな……)
サイラスはなんとなく、自分がこの世界ではない、どこか遠いところから来たような気がしていた。
いったい自分は何者なのだろうか? などと考えながら、サイラスはゆっくりと深い眠りに落ちていった。
「記憶喪失勇者」1-9を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




