2-13 エミルの夢
エミルは夢を見ていた。
どこかから、小鳥のさえずりが聞こえてくる。そこは綺麗な芝生に覆われた、美しい庭園だった。
高い壁に囲まれた円形のその場所は、初夏の日差しに明るく照らされていた。壁際には色とりどりの花が咲き、真ん中に五メートルほどの木が青々と葉を茂らせている。
暖かな日差しを避けるように、木の根元の日陰に少年がひとり座っていた。エミルは、いつものように少年の隣に腰かけた。
少年はエミルのほうを見ない。エミルが隣に座っている少年の髪をなでると、まるでそれが合図だったかのように、少年はエミルの太ももにゆっくりと頭を乗せてきた。
最初はびっくりしたエミルだったが、毎日ここで少年と会ううちに、膝枕はふたりの日課になっていた。
この無愛想な少年が、ぽつりぽつりとエミルに話す内容は、どれも信じられないようなものばかりだった。エミルの常識を――この世界の常識を遥かに超えた話だったからだ。
それでも、エミルにはこの少年が嘘をついているとは思えなかった。少年の心は、擦り切れていた。
長い長い間、ずっと誰にも頼ることができず、自分の苦悩を打ち明けられる人すらおらず、たったひとりで戦ってきたのだ。
ひとりで、すべてを背負い込んできたのだ。
エミルは少年の孤独を癒やしてあげたいと思った。理解はしてあげられなくても、信じてあげたいと思った。
エミルは、お返しに自分の退屈な日常の話を少年にした。不思議なことだが、それはお城での生活の話だった。夢のなかの自分は、どうやらどこかの国のお姫さまらしい。
贅沢なことだとエミルは思ったが、自分はその生活にうんざりしているようだ。少年は笑顔を作るのが苦手で、エミルに笑いかけたりはしなかったが、エミルの話を聞いて喜んでくれているのはわかった。
エミルは、話を聞いてもらえるだけで嬉しかった。不器用だが、本当は心の優しい少年なのだ。この中庭で少年と話すようになって、エミルの孤独も癒やされていた。
「ねえ、勇者くん。ちょっと笑ってみて」
「……こうか?」
「ぜんぜん笑えてない。口の端が引きつってるだけよ」
「……笑い方を、忘れたんだ」
「じゃあ、わたしの誕生日パーティーまでに練習しておいてね。約束よ」
◇
ある日、エミルは自分にはなんのスキルもなくて、それがコンプレックスなのだと少年に打ち明けた。少年はいつもと同じ無表情で、エミルの瞳を見つめ返した。
「スキルがほしいのか?」
エミルは恥ずかしそうに目をそらし、ためらいがちにうなずいた。
「まだ発動したことがないだけかもしれないけど、キミのなかにもいくつかスキルは眠っているよ」
「本当に!?」
エミルの宝石のような緑色の瞳が、きらきらと輝いた。まっすぐにエミルを見すえて、少年は無表情のまま続ける。
「……このスキルは使わないほうがいいな。こっちなら……《乙女の祈り(アンドロメダ)》か。じゃあ、俺がそのスキルをちょっとだけ強くして、いつでも発動できるようにしてあげようか?」
「そんなことができるの!?」
「ああ。俺には人のスキルを強化したり、眠っているスキルを引き出したりする力がある。キミのスキルは発動すると、短時間だけ味方のスキルを強化できるみたいだな。でも、キミ自身には効果がないし、実感がないかもしれない……」
少年はなにかを考えるように、右の拳を自分の顎にあてた。
「そうだ、俺のなかにも、そのスキルと対になるスキルを作ろう。そうだな……《光の勇者》なんてどうだろう? キミのスキルに反応して効果を発揮するんだ。俺のスキルが発動したら、キミのスキルも発動していることがわかるから」
少年はいつになく饒舌だった。誕生日パーティーに向けて練習した、不器用な作り笑いまで見せてくる。
「そのスキルがあれば、勇者くんのことも強くできる? 勇者くんの役に立てる?」
「ああ、そうだよ。キミが応援してくれるなら、俺は強くなる。だから――ずっと俺のそばにいてくれ、エミリア」
◆
「……エミリア?」
エミルは目を覚ました。隣ではカレラが静かな寝息を立てている。窓の外はまだ暗かった。
(不思議な夢を見ました。男の子の顔は思い出せませんけど、ちょっとだけ、サイラスくんに似ていたような気がします……)
エミルは幸せな夢の続きを見ようと、もう一度、目をつむった。
「記憶喪失勇者」2-13を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
エミリアのイメージ画像をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




