2-12 眠れない夜
テーブルを端に寄せ、宿の女性が敷いてくれた布団にそれぞれが入った。サイラスの隣にはマルバン、その隣にルナ、ラツィ、カレラ、エミルという順で横に並んでいる。ルナは寝なくても問題ないのだが、一応、横になった。
布団に入っても、ラツィはすぐには眠れなかった。
セフィが酔って、サイラスにくっついたときのことを思い出す。セフィのしたことでも、ラツィには記憶も感触も残っていた。思い出すだけで顔が熱くなる。
それに、あの女から聞いた話が、頭から離れない。
いかになにも知らないラツィでも、子供はどこからか大きな鳥が運んでくるものだ、などと信じているわけではなかった。
魔族のなかには人族の女をさらって子供を孕ませる種族がいることも知っていたし、そのときに人族の女のお腹が大きくなるのも見たことがあった。
でも、どうやったらお腹が大きくなるのかは知らなかったし、考えたこともなかった。そもそも、自分が子供を生むなんて、想像したことさえなかったのだ。
あの猫人族の女は、勇者の子供がほしいと言った。主さまは人族で、自分は魔族。自分にも主さまの子供が生めるのだろうか?
最初はとんでもないことのように思えた。あの女の言うことが本当なら、それは死ぬほど恥ずかしいし、すこし怖くもある。
でも……いままでまったく意識したこともなかったのに、なぜだか急に興味が湧いてきた。
主さまの子供を、自分が生む――。
それはとても幸せなことなんじゃないだろうか?
だが、ラツィはそのことを考えると、あまりにも心臓がドキドキしすぎて息まで苦しくなってきたので、考えるのをやめることにした。
(主さま……)
ラツィはサイラスの顔を思い浮かべた。それだけで甘い喜びが、ラツィの小さな身体を満たしていく。こんな感覚は、長く生きているラツィにも初めてのことだった。
感じたことのない幸せな気分のまま、ラツィは眠りについた。
◆
「ねぇ、エミル。まだ起きてるかな?」
カレラが、エミルの背中を優しくつついた。
「はい、起きています」
エミルが、カレラのほうに顔を向ける。
「今日はずいぶんと大胆だったね~」
にゃはは、とカレラが笑う。
「いえ、あれはその……あの……はう」
暗くて見えなかったが、エミルの顔が真っ赤になったのがわかった。
「いや、ボクは応援してるんだよ。もっとエミルは積極的になっていいと思う。そうしたらサイラスなんてイチコロだよ。エミルは可愛いし」
「わ、わたしなんて、サイラスくんの足手まといですし……それにサイラスくんは魔王を倒したら、ガリウス王家の王女さまと結婚して、次の国王になるような方ですから……身分がぜんぜん違うと言いますか……」
カレラは手を伸ばし、エミルの頭を優しくなでた。
「そんなこと気にしてたのか。サイラスが国王になりたがるなんて思えないけどね~。もし国王になりたかったんなら、四百年前になってたでしょ。魔王を倒したのに、ならなかったんだから」
「でも、そのときはベガリアの王女さまが亡くなられて、ショックを受けていらっしゃったでしょうし……」
「大丈夫。サイラスはエミルのことが好きだと思うな。ボクにはそう見える」
「えっ……!?」
「だから、もっと積極的にいけばいいんだよ。魔族のお姫さまに負けないようにね」
それだけ言うと、カレラは静かに寝息を立てていた。
「もっと、積極的に……」
エミルはサイラスの頬にキスしたことを思い出して、そっと唇を指でなぞった。そこだけがまだ熱を持っているような気がする。唇にサイラスの体温が蘇る。
サイラスは自分のことをどう思っているのだろう。カレラが言うように好意を抱いてくれているなら嬉しい。
サイラスのそばにいると、胸が高鳴る。
積極的にとカレラは言うけれど、異性に対してこんな気持ちになったのは初めてで、エミルはどうしたらいいのかわからなかった。
信じられないくらいに美しくて、積極的なラツィとセフィも気がかりだった。でもやはり、一番気になっているのはサイラスとの身分の違いだ。
ただ、それはいま考えても仕方のないことだ。
(サイラスくんが、わたしのことを好きになってくれますように。魔王を倒しても、王女さまと結婚なんてしませんように)
そう女神に祈って、エミルは目を閉じた。




