2-8 大浴場
「すごいお風呂です。こんなお風呂には入ったことがありません」
入口で受け取った布ですこし恥ずかしそうに身体の前を隠しながら、エミルが露天風呂に入ってきた。物珍しそうにきょろきょろと見まわしている。
「わたしの村の公衆浴場は蒸し風呂で、もっともっと狭い小屋のなかで焼いた石に水をかけて、汗を流すだけだったんです。お湯につかるお風呂なんて初めてです」
エミルの後ろから、身体を隠すこともせずに、ラツィとルナも入ってきた。ラツィはリボンを外し、いつものツインテールではなく髪を下ろしている。
「私もニーナの記憶にはあったが、風呂というものに実際に入るのは初めてだ。ただ汚れた身体を洗うだけの場所だと認識していたが、なかなか面白いものだな」
「……まったく浴槽にも入ったことがないなんて、どんな暮らしをしていたのですか。それに魔導人形はお湯につかっても平気なのですか? 後で錆びたりしても知りませんよ」
ラツィは壁に背をつけてお湯につかりながら、小さな赤い唇から舌を出した。
「心配には及ばない。ニーナは私に金属製のパーツをいっさい使っていないのだ。もちろん木製のパーツもだ。それに加えて、私の防水は完璧だ」
ルナも浴槽に入りながら、不敵な笑みを返した。
「……へえ、おまえの製作者のあの小娘はちゃんと先のことを考えていたのですね。人族は見かけによらないというか、意外と優秀だったのですね」
ラツィは白くて細い手足をお湯のなかで伸ばし、隣に腰かけた魔導人形を悪戯っぽく見つめた。製作者のニーナをほめられて、ルナはまんざらでもない顔をしている。
エミルも恐る恐るお湯につかった。目の前のお湯を手のひらで、すくってはこぼし、すくってはこぼしている。
「きゃあっ!」
突然、エミルの悲鳴が浴場に響いた。
ラツィがいつの間にかエミルの後ろにまわり、両手でエミルの胸をつかんで下から持ち上げたのだ。エミルの豊かな胸は、ラツィの小さな手のひらには収まりきらなかった。柔らかなふくらみにラツィの細い指が沈み込む。
「な、なにをするんですかっ、もう!」
エミルは浴槽のなかで立ち上がって、ラツィから逃れた。
「……セフィよりはすこし小さいですけれど、おまえもけっこう大きいのですね」
つまらなそうな顔で、ラツィは自分の控えめな胸に両手をあてがい、むにっ、と持ち上げながらエミルを見上げた。ルナも自分の胸に手をあてて、ラツィとエミルの胸を見比べている。
「き、急にびっくりするじゃないですか。そ、それに大きさなんて重要じゃないと思います」
エミルは真っ赤になりながらも、ラツィの裸身を前にして思わず息をのんだ。
(なんて綺麗な肌なんでしょう)
雪のように白い肌というのは、こういう肌のことを言うのだろう。エミルも色白なほうだったが、比べものにならない。やはりラツィは魔族なのだ。そこには女の自分が見惚れてしまうほどの、人間とはまったく違う妖しい美しさがあった。
(こんなの、サイラスくんが見たら……)
サイラスの顔が頭に浮かび、エミルはすこし不安になった。
「……もうひとり、胸だけ大きな獣人族は、どこに行きましたか?」
「そういえば、いないな。部屋に鍵をかけて、一番後ろを歩いていたと思ったが」
「……猫は、水が嫌いなのでしょうか?」
ラツィたちがカレラの噂をしていた、まさにそのとき――男湯のほうでも事件が勃発しようとしていた。
◆
「先日、ご主人さまは我のスキルに興味を持っておられたでありますね。夕げの際にでもお見せするであります。もったいぶるほど大したスキルではないのでありますが」
「うん、それは楽しみだな。じゃあ、そろそろ出ようか。すこし長く入りすぎちゃったみたいだ。のぼせちゃいそうだよ」
サイラスは浴槽から立ち上がり、出口に向かって歩き出した。
しかし、次の瞬間、目に飛び込んできたものの前で、金縛りにあったかのように固まった。
大浴場の引き戸を開けて立っていたのは、生まれたままの姿のカレラだった。大きくて張りのある小麦色の双丘と、きゅっと引き締まったウエスト。鍛え抜かれた肉体でありながら、女性らしい曲線にはしっかりと肉がついていて、健康的な色気があふれている。
(え? なんで? ここ、男湯だよね?)
「にゃは、サイラス。背中を流してあげるよ」
カレラが手に持った布を動かすと、ぷるん、と豊かな胸が揺れた。サイラスは思わず目をそむけた。
「な、なに言ってるんだよ、カレラ。男湯に入ってきたなんて、みんなに知られたら変な誤解されるから。すぐに出てってよ」
しかし、サイラスの警告は遅すぎた。
――ドカンッ!
背後で大きな音が響き、崩れた壁がボチャボチャと湯船に落ちてきた。
振り返ると、左側の壁に大きな穴が空いている。湯気と土煙のなかから、巨大な一角馬の胸像と一糸まとわぬ裸身のラツィがあらわれた。
「……このバカ猫! 抜け駆けは許しませんよ。我が主さまの背中はわたくしがお流しします」
(壁壊した!? スキルで壁壊しちゃったよ、この人!)
濃い湯気のなかだったが、ラツィの真っ白な肌と、そのふくらみかけの丘の上に色づく薔薇色の頂がはっきりと見えた。
目の前には、豊かな裸体を惜しげもなく露わにした猫人族の美女。すぐ後ろには、白磁の肌を晒した魔族の美少女。
さらにラツィの後ろ、大きな穴の向こうには、裸身を隠すことも忘れて驚いたように立ちすくんでいるエミルの姿が見えた。
(あれ?)
「サイラス!」「……主さまっ!」「ご主人さまっ!」「サイラスくんっ!」
頭に血が上りすぎたのか、目の前が真っ暗になり、サイラスはその場に倒れて気を失った。
「記憶喪失勇者」2-8を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




