2-5 赤毛
フードつきの外套は、地味な色合いのものが二着だけ残っていた。サイラスとルナが袖を通してみると、どちらも丈がすこし長かったが、選ぶ余地はない。一着金貨一枚。剣を腰に吊るすための剣帯と革製の鞘も、セットで金貨一枚だった。
「動きにくいな」
ルナは不満そうに袖をつまんだが、目立たないためだと言うと、しぶしぶうなずいた。
「エミルも、なにか一着選んでよ。着替え、あんまり持ってないでしょ」
「はう。わ、わたしなんかに、そんな……お金がもったいないです」
「もったいなくないよ。旅はまだまだ続くんだから」
エミルはしばらく棚の前でもじもじしていたが、店主に勧められて、ようやく淡い色の質素なワンピースを一着選び、店の奥で着替えさせてもらった。銀貨五枚。
「……馬子にも衣装、というやつですね」
「そ、それ、褒めてないですよね!?」
エミルが頬をふくらませると、ラツィはぷいっと顔をそむけた。
マルバンの上着とシャツは修理を頼もうと思ったのだが、店主は血だらけの上着を見るなり、ひっと小さく悲鳴を上げた。
「ご心配なく。これは我の血であります。傷はもう、すっかりふさがっているのであります」
魔族の執事がにこやかに補足したが、店主の顔色はかえって悪くなった。結局、修理はあきらめて新しく買うことにした。マルバンはもう一着同じ黒いシャツを持っていたのでそれに着替え、既製品の黒い上着を銀貨五枚で選んだ。
「ラツィはなにか買わなくていいの?」
「……わたくしは、いまの衣装だけで大丈夫です。着替えも持っています」
そう言って、ラツィは棚の既製品をちらりと見た。
「……それに、誰が着るともわからないような服が、わたくしの身体に合うはずがありません」
(やっぱり、あのメイド服が気に入ってるのか。確かにオーダーメイドじゃないと再現できなさそうだもんな……)
店を出ると、さっそくサイラスはマントを外して外套を羽織ってみた。フードをかぶれば、確かに顔は目立たなくなりそうだ。
「サイラスくん、すごく似合ってます!」
「……我が主さまには、もっと高級なもののほうがふさわしいとわたくしは思いますが。それしか手に入らないのであれば、仕方ありません」
(似合ってるのか、似合ってないのか……?)
「この外套があったら、トリマンさんからもらったマントは必要なくなっちゃうな」
「じゃあ、ボクがそれもらうよ」
サイラスはマントをカレラに手わたした。袖も裾も短い白い道着に黒い革のショートパンツ、その上にマントという妙な格好になったが、カレラ本人は気にしていないようだ。
「わたしまで新品の服を買っていただいて、ありがとうございます。大事にします」
エミルが嬉しそうにサイラスに微笑んだ。
(うん、新しい服もエミルによく似合うな。買ってあげてよかった)
店を出るころには、広場の屋台に火が入りはじめていた。肉の焼ける匂いが、湯気の匂いに混じって漂ってくる。
(そういえば、朝から歩き通しで、昼はパンをかじっただけだったな)
ふと隣を見ると、ラツィの燃えるような赤い髪が、みるみるうちに凍えるような水色に変わっていた。
「ねー、ねー、ご主人さま。あれ、あれ! すっごくいい匂いがするよ!」
セフィが屋台の串焼きを指差して、ぴょんぴょんと跳ねる。
「にゃはは、セフィは鼻がいいねぇ。あの店の串焼き、ボクも前に食べたことあるけど、けっこう美味しいよ」
「よし、みんなの分も買おう。今日はお金があるからね」
サイラスが人数分の串焼きを買って配ると、セフィは真っ先にかぶりついた。
「ん~っ、おいしい! ご主人さまも食べる? 食べる?」
「僕の分もあるから、大丈夫だよ」
「セフィさま。歩きながら食べるのは、お行儀がよくないのであります」
「えー、でもでも、歩いて食べたらおいしいよー」
「セフィちゃん、口のまわりにタレがついてますよ」
エミルがくすくす笑いながら、セフィの口元を布でふいてあげる。
串焼きをたいらげて、宿屋街のほうへ歩き出したときだった。広場の向こう、冒険者ギルドの黒い建物の前に、赤い髪が見えた。
さっきの受付嬢だ。閉店の札を扉にかけながら、通りを行き交う人々を、きょろきょろと見まわしている。
(まさか、僕を探してる……?)
サイラスは慌てて、買ったばかりのフードを深くかぶった。
「ん? どうしたのサイラス」
「いや……なんでもない。早く宿を探そう」
(さっそく、外套が役に立ってしまった)
「記憶喪失勇者」2-5を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
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挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




