1-65 魔族の執事
(剣聖シエラゴよりも強い勇者候補がいるのか。それなら、僕を殺して、その人を勇者にしようって考える奴がいてもおかしくはないな……)
それでも、魔王を倒すことを優先するなら、強い人間が多いことに越したことはない。ただ、王になるということは、ある種の人間にとってはそれほどまでに魅力的なことなのだろう。
(僕はまったく興味ないけどね)
四百年前の自分も、きっと玉座には興味がなかったのだろう。理由はわからないけれど、魔王を倒しても王にはならずに四百年後のこの時代にふたたびあらわれることを選んだのだから。
サイラスは四百年前の自分がどんな人間だったのか、興味が湧いてきた。風の森で昔の仲間だったエルフの賢者フルリーヌに会えたら、聞いてみたいと思った。
◇
「ご主人さま、すこしよろしいでありますか? ふたりだけでお話したいことがありまして……」
カレラが離れていった後、今度はマルバンがサイラスのそばにやってきた。ふたりで内密に話したいなんて言ってくるのは、初めてのことだ。
「ああ、いいよ。話って?」
「ちょっと向こうまで、いっしょに来てほしいのであります」
「うん、わかった」
ふたりは連れ立って、森のほうに向かって歩き出した。
「サイラスくん、どこに行かれるんですか?」
近くで横になっていたエミルが起き上がって、不安そうに声をかけてくる。
「いえいえ、なに。男同士、連れションというやつでありますよ」
マルバンが恭しくお辞儀する。エミルは心配そうな顔をしてサイラスを見たが、それ以上はなにも言わなかった。
川から離れ、街道を横切って、焚き火が見えなくなる場所まで来た。辺りは真っ暗だ。月明かりだけでは、お互いの顔もよく見えない。
「それで、マルバン。話っていうのは?」
立ち止まると、マルバンは、おもむろにその場で土下座した。
「マルバン!?」
「ご主人さま、姫さまを助けてほしいのであります」
マルバンの額が地面についていた。
「魔族である我が、人族の勇者である貴方さまに、こんなことをお願いするのはお門違いだとわかっているのであります。わかっているのでありますが、何卒、姫さまをあの怪物、ベタクロフの魔の手から救っていただきたいのであります」
マルバンは地面につけた顔だけを上げ、下からサイラスを見上げた。
「三年前、魔王国アルージュは、八百年にもわたる戦乱を制した第一魔将ベタクロフによって支配されたのであります。それまで姫さまたちと我とパールは魔王城で平和に暮らしていたのでありますが、城を追われ、奴の追っ手から逃げまわる生活になったのであります。そして、一年ほど前、我の油断から姫さまたちは、あの異常者に囚われてしまったのであります。我のせいで……セフィさまは……」
マルバンの声が震えた。地面についた両手が土をつかむ。
「パールのスキルで姫さまの居場所や見張りについて調べ、我のスキルでトンネルを掘り、半年前になんとか魔王城の地下に囚われていた姫さまを助け出すことができたのであります。ですが、奴はいまでも執拗に姫さまのことを狙っていて、ついに第三魔将まで送り込んできたのであります」
サイラスはマルバンに立ち上がるように促したが、黒服の執事はそのままの姿勢を崩さない。
「我はなにも価値のあるものを持っておりません。大した報酬を貴方さまにお支払いすることはできないのであります。ですが、姫さまの生命を助けていただけるのなら、あのベタクロフを殺していただけるのなら、我の生命を貴方さまに差し上げるのであります。こう見えても我も魔将でありますから、我の首をはねれば、それなりの大きさの魔晶石が残るでしょう。どうか、それを受け取ってほしいのであります」
マルバンはふたたび額を地面にこすりつけた。
「なんでそこまでするんだ?」
「それが亡くなった我が主に対する、我の最後の務めでありますから……」
サイラスはひざまずいて、マルバンの肩に手を置いた。
「わかったよ、マルバン。もう立ってくれ。そのベタクロフとかいう奴は僕が必ず倒す。ラツィたちのことも守る。約束するよ」
「ご主人さま! ありがとうであります。ありがとうであります……」
マルバンの声が涙ににじんだ。
「そのお言葉を聞いて、このマルバン、心置きなく亡き主のもとへ向かうことができるであります……それでなのでありますが……あの、ご主人さま……申し上げにくいのでありますが、我の首をはねるのは、その……ベタクロフを倒してからで、お願いできますでしょうか? ご主人さまを疑うわけではないのでありますが、奴が死ぬところをこの目で見届けたいと思っているでありまして……」
マルバンは土下座の姿勢のまま、恐る恐るサイラスの顔をうかがった。
「あのね、マルバン」
サイラスは、静かだが力のこもった声で言った。
「首なんかはねないし、おまえの魔晶石はいらないよ。おまえが死んだら、ラツィとセフィが悲しむだろ。それに僕だって、おまえのことはもう大切な仲間だと思ってる。別のことで僕の役に立ってくれ」
「……ご、ご主人……さま…………」
マルバンを立ち上がらせようと、サイラスがマルバンの手を取った。まだ涙を流している魔族の執事の肩を抱いて、サイラスは仲間たちが眠っている野営地へと戻っていった。
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さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
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挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




