1-61 カレラVSラツィ
「カ、カレラ、待って! ちゃんと説明するから――」
サイラスが慌てて口を開く。
だが、それよりも早く。
「……問答無用、ということですね」
ラツィの頭上の空気が、ぐにゃりと歪んだ。
「いでよ、《灼熱の騎士》」
あらわれたのは、四体の白いユニコーンの胸像。
額から伸びるドリル状の長い角。口から、鼻から、たてがみから、紅蓮の炎を噴き出しながら、それらは空中にゆらりと浮かんでいた。
「やるんだね……!」
カレラと二体の分身が、嵐のような速さでラツィに斬りかかる。
――刹那。
二メートルを超える三体のユニコーンの巨像が、ハンマーのように真上から振り下ろされた。二体の分身が、轟音とともに地面ごと叩き潰され、煙のように弾け飛ぶ。
「きゃぁあっ!!」
エミルが悲鳴を上げた。しかし、中央の本体だけは、かろうじて後ろへ跳んで、一撃を避けていた。けれど、すぐさま三体のユニコーンが着地したカレラを取り囲む。そして、四体目の刀のように長い角が――真上から、まっすぐに女剣士の額へ狙いをつけた。
ぴたり、と。
その鋭い角の先が、カレラの前髪に触れる寸前で止まった。
「……本気でかかってこなければ、わたくしには届きません」
ラツィが、金色の瞳を細めてカレラを見る。
「あ~あ、降参、降参。ボクの負けだよ」
カレラは、ふっと息を吐いて、刀を地面に置いた。
「カレラ!」
サイラスが慌てて駆け寄る。
「カ、カレラさん、大丈夫ですか!?」
エミルも青い顔で、サイラスの後ろから覗き込んだ。
「ごめん、ほんとにごめん! ちゃんと先に説明しておけばよかった。ラツィたちは、悪い魔族じゃないんだ。人を殺したりもしない。それに、いまの魔王とも関係ないんだよ」
ところが、カレラは、けろりとした顔で猫耳をかいた。
「うん、知ってるよ」
「え?」
「シエラゴ叔父さんも気がついてたと思う。昨日、食事のときに水色の髪の子が突然、赤色の髪に変わったしね。里でずっとようすを見てたけど、ラツィも、マルバンも、子供たちに懐かれてたし、邪悪な存在だったら、子供たちが近寄るわけないもん」
にゃは、とカレラは笑う。
「でも、魔族は魔族だからさ。一応、試させてもらったんだけど、いや~強いね~。悔しいけど、本当に悪い魔族だったら、いまので容赦なくボクは殺されてたね」
「……くくくっ、わたくしを試すなど、四百年早いのです」
ラツィは薔薇の色の小さな唇を歪めて笑った。
「あと、エミル。カレラでいいってば」
「は、はう……カ、カレラ……」
「あらためてご紹介するであります」
マルバンが、うやうやしく前に進み出た。
「こちらは、魔王国アルージュの魔王アノンさまの忘れ形見。ラツィさまと、セフィさまであらせられます」
「忘れ形見ってことは、魔王の娘ってことだよね……それじゃあ、ふたりは魔族のお姫さまなんだ!」
カレラはもう先ほどの戦いを忘れたように、喜んで手を叩く。ラツィはまんざらでもない顔で、メイド服の胸を反らした。
「じゃあ、これからは『お姫さま』って呼んだほうがいい?」
「……当然です。ひざまずいて呼びなさい」
「にゃはは、それはやだ」
「でもさ」
ふいに、カレラの声が真剣になった。
「これから先は、絶対に、よその人に魔族だってバレちゃダメだよ。このトロワール大公国でも、これから行くエルフの森でもね。人族は、魔族をすっごく怖がってるからさ。バレたら、ボクたちみんな、ただじゃすまないよ」
「ああ。それについては、もうひとつ釘を刺しておかなければならんな」
ルナが、マルバンをじろりとにらんだ。
「すでにサイラスは、刺客に生命を狙われている。これ以上、危険を増やさないために、サイラスが勇者であることも、むやみに口外するな」
「承知したであります……」
マルバンが申し訳なさそうに頭をかいた。
(そういえば、あのとき。マルバンが、ソフィアさんに僕のことを勇者だって、ぜんぶしゃべっちゃったんだった……)
堂々と胸を張って答えるマルバンの姿が、まぶたの裏に蘇る。
ベガリア辺境伯ソフィアは、勇者の盾の紛失をリーンまで知らせにいくと言っていた。
(ソフィアさん、もうリーンに着いたかな)
北へ向かう街道の先――その空の下に待つ、まだ見ぬ大公国の首都と金髪をショートカットにした少女を思って、サイラスは微笑んだ。
「記憶喪失勇者」1-61を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
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挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




