1-60 仲間
剣聖の里を発ったサイラスたちは、ウリエル川のせせらぎを右手に聞きながら、ラグーツを目指し、朝の光のなかを北に向かっていた。
先頭をゆくサイラスが、仲間たちを振り返った。右隣には、いつも通りエミルがいる。サイラスの後ろにはルナが続き、その右腕に水色の髪の少女――セフィがちゃっかりぶら下がってニコニコしていた。ルナの後ろはマルバンで、その肩には黄金のフクロウ、パールがとまっている。
そこまではいつもと変わらない光景だった。だが――。
マルバンの隣を、新しく仲間に加わったカレラが、腰まで伸びた黒髪を揺らし、何食わぬ顔で歩いている。
(そういえば)
サイラスは、足を緩めた。
(カレラに、みんなのこと、まだちゃんと紹介してなかったな)
昨日からいろいろとあって、すっかり忘れていた。せっかく仲間になってくれたのに、これではあんまりだ。
「カレラ。いまさらだけど、みんなのこと、紹介してなかったよね」
「言われてみればそうだねぇ。なんとなくで、いっしょにいちゃったよ」
カレラが黒い猫耳をぴくりと立てて、にゃははと笑った。
「僕の隣にいるのがエミル。エミルの村で目が覚めてから、ずっといっしょに旅をしてるんだ。料理がすっごく上手で、いつも僕たちのご飯を作ってくれてる」
「よ、よろしくお願いします、カレラさん」
「カレラでいいってば。エミルは料理が得意なんだね。それじゃあ、すぐにでもサイラスのお嫁に行けちゃうねぇ」
「はうっ、そんな……」
エミルが頬を染めてうつむく。
「それで、僕の後ろにいるのがルナ。四百年もの間、勇者の盾をずっと守りつづけてくれてた、特別な魔導人形なんだ」
「それが私の使命だったからな。よろしく頼む、カレラ」
ルナが胸を張って、得意げに空色の瞳を輝かせた。
「四百年!? すっごいねぇ。気が遠くなりそうだよ」
「でも、四百年も経ってるのに、肌がつるつるだね。ちょっと触ってもいい?」
「断る」
「にゃはは、即答。ケチ~」
「黒い服を着てるのがマルバン。肩のフクロウはパール。あと、ルナにぶら下がってるのがセフィ」
「よろしくであります、カレラ殿」
マルバンが胸に手を当てて、優雅にお辞儀をした。
「マルバンとは昨日も今朝も、話したね。それにしても、人の言葉を真似する鳥がいるってのは聞いたことあるけど……ちゃんとしゃべる鳥がいるなんてねぇ。ボク、朝からびっくりしっぱなしだよ」
「ふん。私を、そこらの鳥といっしょにするな」
パールがくるりと頭を回して、顔を後ろにそむけた。その仕草に、カレラはますます感心したように尻尾を揺らす。
「じゃあ、パールはなでてもいい?」
「断る」
「にゃっ、こっちも即答だ」
カレラは耳をぺたんと倒したが、尻尾はなぜか楽しそうに揺れていた。
「それにしても、この子……」
カレラが、ルナの腕にぶら下がるセフィを覗き込む。水色の髪の少女は、こてんと首をかしげて、ひまわりのような笑顔を返した。
「すっごい可愛いねぇ! ほっぺもちもちだよ。……あれ? そういえば、朝ごはんのときにテーブルに突っ伏してた赤い髪の子は、どこにいったの?」
その瞬間。
セフィの水色の髪が、根元から、すうっとにじむように赤く染まっていった。ふたつに結われたツインテールが、燃えるような赤に変わる。あどけなかった顔つきが引き締まり、金色の瞳に強い光が宿った。
「……わたくしのことでしょうか?」
「にゃっ!?」
カレラが、目をまんまるに見開いた。
「あ、赤い髪の子が、出てきた!? ど、どうなってるの!?」
「……わたくしとセフィは双子。ひとつの身体を分け合っているのです」
ラツィは赤い唇の端を歪めて、ゆったりと答えた。
「……我が主さまの奴隷のひとりに加えるなら、隠していても仕方がありません。先に教えておいてあげましょう。――わたくしとセフィ、そしてマルバンとパールは、魔族です」
その一言で。
カレラの毛が逆立ち、黒い瞳の瞳孔がすっと細くなった。
「――ッ」
ふわり、と猫のように身をひるがえし、カレラは後ろへ大きく飛びすさる。同時に背負っていた太刀を下ろし、鞘を投げ捨てて、細く長い刀を抜き放っていた。
「《獣神分身》」
カレラの身体が、三つに分かれる。本体とふたつの分身が、いますぐにでもラツィへ飛びかかれるように刃を構えた。
「サイラス……」
その声は、低く、静かだった。
「どうして、勇者のパーティに、魔族がいるのさ」




