1-59 カレラの旅立ち
日が昇ってすぐに、サイラスたちは里を出発することにした。
カレラの旅立ちを、大人も子供も里中の人が見送りに来ている。そのなかから、剣聖シエラゴが進み出て、サイラスに話しかけてきた。
「おお、勇者さま。カレラのことをよろしく頼みます。ところで、出発の前に私とも手合わせをお願いできないでしょうか? 昨日のカレラとの手合わせを拝見させていただいて、年甲斐もなく、私も勇者さまと戦ってみたくなってしまったのですよ」
「えぇっ! シエラゴさんとですか!」
(シエラゴさん、確かランク9だったよね……)
「はい、勇者さまと戦える機会なんて、なかなかあることではありませんから」
「手合わせだ! 手合わせだ! シエラゴさまと勇者が手合わせだ!」
カレラのときと同じように集まっていた子供たちがはやし立てはじめる。
「……くくくっ、弟子の敵討ちのつもりでしょうが、剣聖とやらにも我が主さまの強さを思い知らせてやりましょう」
ラツィが薔薇のように赤い唇を歪めて笑った。
(もう断れるような雰囲気じゃないな)
仕方なく、サイラスはシエラゴと手合わせをすることにした。勇者の剣が刺さっていた岩のある広場のほうに歩いていく。その後ろをぞろぞろと子供たちがついてきた。
サイラスは、カレラと手合わせをした場所まで来ると右手で剣を抜き、盾を構えた。すこし離れたところに立つシエラゴは素手のままで武器を持っていない。誰かが刀を渡しにくるのだろうと思って、サイラスは待っていた。
「それでは、はじめっ!」
ふたりの真ん中に歩いてきたカレラが、突然、大きな声で開始の合図をした。
(えぇっ! もうはじめるの!?)
『ユニークスキル《電脳の悪魔》を発動します……』
サイラスは戸惑っていたが、スキルが自動で発動した。サイラスの頭にシエラゴの動きが浮かぶ。しかし、残像が多すぎる――。
半透明の残像が浮かんでは消え、浮かんでは消えするために、サイラスにはどこからシエラゴが攻めてくるのか、わからなかった。
(動きが、速すぎるのか!?)
気がついたとき、サイラスはいつの間にか近づいていたシエラゴに剣を両方の手のひらで挟まれて、そのまま地面に投げられていた。
(えっ!?)
「そこまでっ!」
カレラの合図で手合わせは終わった。
あっけに取られたままのサイラスに、微笑みながらシエラゴが言った。
「昨日、手合わせを拝見したときに、勇者さまが先読みのスキルを使っていたようでしたので、どうやって戦えばいいか、ずっと考えていたのですよ。うまくスキルを防げたようでよかったです」
(スキルを妨害なんてできるのか!?……さすがはランク9の剣士だな)
実力差を思い知らされて、落ち込むサイラスのところにエミルが駆け寄ってきた。
「サイラスくん! お怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫。見事に投げられただけだから」
◇
「行ってこいカレラ。そして、勇者さまの剣として、みごと魔王を打ち倒し、この里に戻ってこい。そのときこそ、おまえが剣聖の名を受け継ぐのだ」
カレラの前に立った剣聖シエラゴが、愛弟子の白い道着の肩を優しく叩く。手合わせのために中断していたカレラの見送りが再開され、里中の人が顔を見せた。
「カレラ~、いってらっしゃーい!」
子供たちが、わっとカレラの周りに集まってくる。
大勢に見送られ、カレラは満面の笑みで手を振った。
「にゃはは! それじゃあ、ちょっとそこまで魔王を倒しにいってくるよ!」
◆
その天井の高い部屋は、四方を本棚に囲まれていた。天井まで届く備えつけの本棚には、ぎっしりと分厚い本が並んでいる。
この世界では、紙で作られた本はとても高価で、庶民には手で触れることさえ許されないような貴重品だ。それがこの部屋だけで数百冊はある。その蔵書の量は、王都にある王立図書館にも匹敵するのではないかと思われるほどだった。
部屋の中央に置かれた大きな机も、最高級の木材の一枚板を使い、一流の職人が時間をかけて丁寧に仕上げた見事な代物だった。
そのなにもかもが豪華で贅をつくした部屋に、痩せぎすで神経質そうな顔をした初老の男が、ひとりで腰かけていた。見たこともないような上等な生地の衣装が、男の高い地位を物語っている。
節くれだった男の手には、淡く紫色に光るドラゴンの石像が握られていた。通信用の魔道具だと知らなければ、この薄暗い部屋で男がぶつぶつと独り言を話しているかのように見えたことだろう。
「……そうか、もう剣も手に入れていたか。思ったよりも早かったな」
男は石像に向かって低い声でつぶやく。
「……ああ、偽勇者が鎧を手に入れるまでは泳がせておけ……やはり風の森に向かったか。あそこはとくにやっかいな場所だからな……そうだ……奴が三種の神器をリーンまで運んだら……そこで始末するんだ……二度と失敗は許さん。任せたぞ」
男は光を失った魔道具を机に置くと、満足そうにニヤリと笑った。高級そうなグラスに、凝ったボトルに入った年代物のワインを注ぐ。
「まさかこんな形で三種の神器が見つかるとはな。女神の悪戯か……」
ワインをひと口飲み、男は独りごちた。
「それにしても、神器を回収して運んでくる係としては最高の仕事ぶりだったじゃないか。だが、そこでお前の役目は終わりだ……そのまま、ふたたび闇のなかに消えてしまえ、帰らずの勇者サイラスよ」
男はグラスを傾け、ワインの残りを飲み干した。
「勇者が死ねば、次の勇者が選ばれるのだ……」
「記憶喪失勇者」1-59を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




