1-56 宴
川のすぐそばだからか、猫人族の村だからか、料理は魚料理が中心だった。テーブルの上に大小の焼き魚が並び、スープの具も野菜と魚だ。森で獲ったものなのか、小さな鳥を串に刺して焼いたものや木の実もある。塩で味つけしただけの素材の味を生かした、シンプルな料理が多いようだ。
(こんなこと言ったら悪いけど、エミルの料理のほうが美味しいな)
美人なうえに料理も上手い。エミルが旅についてきてくれたことに、サイラスは心のなかで感謝した。
「サイラスくん、お味はいかがですか?」
「うん、美味しいよ」
「よかったです。わたしもお魚のさばき方を教えてもらったんですよ。この辺りのお魚は、ルルドの村では見かけないものばかりで」
エミルは嬉しそうに笑いながら、サイラスの皿に焼き魚を追加した。
ふと、隣を見るとラツィはセフィに変わっていて、小さな口で大きな魚を頭から頬張っている。
「にゃはは、そんなに慌てなくても、焼き魚は逃げないから大丈夫だよ」
カレラが笑う。
「ご主人さま、ご主人さま。お魚っておいしいね~」
(意外とセフィは食いしん坊なんだな)
その後もセフィは、ばくばくとすごい勢いで料理を平らげていた。ラツィのときとは食べる量がまるで違う。ひとつの身体を共有しているはずなのだが、食べた分の“カロリー”はいったいどこに行くのだろう。
(発育がいいのはそのせいとか?)
「それで、カレラ殿は剣聖殿のお嬢さまなのでありますかな?」
「お嬢さまって。にゃは、ボクは叔父さんの姪って言うのかな? ボクの父さんの弟がシエラゴ叔父さんなんだ」
(さすがマルバン。なんにでも興味を持つな)
広場中央の“キャンプファイヤー”のような大きな火の周りで、猫人族の子供たちが輪を作って踊っている。それを見つめながら、カレラは続けた。
「ボクの父さんは先代の剣聖だったんだけど、叔父さんと真剣勝負して負けて、ボクがまだ小さいころにこの里を出ていっちゃったんだ。負けたからといって、里を出なきゃいけないって決まりはないんだけど、外の世界で修行し直すって言ってね。でも、それっきりずっと帰ってこないんだ。いったいどこでなにをしているやら」
カレラがサイラスのほうに顔を向けて、にゃはっと寂しそうに笑った。
「……カレラ殿のお父上は、きっとどこかで元気にしていらっしゃるでありましょう」
マルバンが優しい声で言った。
「うん。ありがとう、マルバン。そうだといいな」
カレラの猫耳がすこしだけ垂れた。ふさふさの尻尾も、さっきまでとは違って、おとなしく地面に向かって垂れている。
(猫人族って、感情が耳と尻尾に出るんだな。わかりやすいというか、隠せなくて大変そうだ)
「僕が勇者の剣をここから持ち出してしまったら、この里はどうなるんですか?」
幸せそうな里の住人の姿を見て、サイラスはすこし不安になった。
「大丈夫。たぶん、なにも変わらないと思うよ。この里の者にとって、勇者の剣を守るって使命はもちろん大切なんだけど、それがなくなったとしても、獣神流の剣士を育てるって使命は残ってるから。この里からけっこういろいろな国に獣神流の剣士が派遣されてるんだよ」
カレラの猫耳が元に戻り、尻尾も揺れはじめた。切り替えが速い。
「サイラスは優しいな。里の心配をするとは」
サイラスの両肩に手を置いて、ルナが言った。
「そりゃ、剣をもらっていくわけだから、心配くらいするよ」
サイラスは里に迷惑がかからないとわかって安心した。
「それで、次は鎧を探しにいくんだろう? ねぇサイラスぅ。勇者の魔王討伐の旅、ボクも連れていってくれないかな?」
「えええ!?」
「この先は旧ガヤルド王国領だから、リリアの奈落も近いし、最近はこの辺でも魔獣が増えてる。戦力は多くても困らないだろう? ボクは勇者と旅したパナメラさまに憧れてるんだ。ね、いいだろう? ボクも勇者の剣になりたいんだ。そのために、いままで修行してきたようなもんなんだから」
カレラはテーブルに身を乗り出し、両手でサイラスの手をつかんだ。白い道着の間から、こぼれそうな谷間が目に入る。サイラスは赤くなった顔をそむけた。
「ねー、ねー、ご主人さま。カレラも連れていこーよー」
セフィが口の周りを魚の油で光らせたまま、サイラスの袖を引っ張った。
「……主さま、連れていくなら、こんなに育ったのではなく、もっと小さいのにしましょう」
セフィから変わったラツィは、澄ました表情で口のまわりをふいている。相変わらず、このふたりの切り替わりは一瞬すぎて混乱する。
「だからペットじゃないって」
ラツィがちらりとカレラの胸元に目をやった。
(育ってるって、そこ!?)
サイラスの背後に立つルナが、カレラをまっすぐに見た。
「剣が増えるのは心強いな。盾は、私ひとりで充分だが」
マルバンの隣に腰かけていたエミルは、サイラスたちのやりとりをぼんやりと見ていた。
剣術士のカレラは勇者の剣。神聖術が使えるルナは勇者の盾。魔族のラツィだって強力なスキルを持っている。それに比べて自分は、戦闘ではまったくの役立たずだ……。
それどころか何度も魔族に捕まっては、サイラスに助けられている。
自分がまた敵にさらわれたりしたら、きっとサイラスは危険をかえりみずに助けにきてくれるだろう。でも、それではただ足を引っ張っているだけだ……。
サイラスはこれから魔王を倒すために旅をするというのに、戦えもしない自分はなんのためにサイラスのそばにいるのだろう。
四百年前、サイラスの仲間だったニーナは魔族にさらわれ、それを助けにいっている間にサイラスの最愛の人――ベガリアの王女が殺されてしまったという。エミルはすこしだけ、ニーナの気持ちがわかったような気がして、胸が締めつけられた。
それに……勇者は魔王を倒したら、ガリウス王家の王女と結婚して次の国王になるのだ。勇者に助けられた村娘が勇者を好きになるのは、よくある話だ。でも、おとぎ話の結末で勇者と結ばれるのはお姫さまに決まっている。
(サイラスくんは伝説の勇者、わたしはなんの取り柄もないただの村娘。やっぱりサイラスくんとわたしでは、身分も住む世界もぜんぜん違いますよね……)
サイラスの名前を心のなかでつぶやく。ただそれだけで、胸の奥の温もりが熱へと変わる。
エミルは長い睫毛を伏せ、周りに聞こえないように小さくため息をついた。
「記憶喪失勇者」1-56を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




