1-55 獣神流
男たちが家のなかから木のテーブルや椅子を持ち出して、広場に並べはじめる。中央に組まれたやぐらのような材木の近くの特等席に、サイラス一行は剣聖シエラゴとカレラに招かれ、腰かけた。
サイラスはてきぱきと宴の準備を進めるマレス族たちを眺めた。男も女も大人も子供も働き者だ。力仕事を手伝おうかと考えたが、慣れない自分はかえって足手まといになってしまうだろう。
「この剣聖の里は、四百年前に勇者サイラスとともに戦った剣聖パナメラが、勇者の剣を持ち帰り、それを守る者たちを育てるために作ったといわれています」
サイラスの前に座った剣聖シエラゴが、落ち着いた声で里のいわれを話しはじめた。シエラゴの隣にはカレラが座り、サイラスの隣にはラツィとマルバンが座っている。ルナはサイラスの背後に当然のように立っていた。
「ルナも座ったら?」
「サイラスを守るのが私の役目だ。それに座る必要もない」
サイラスが苦笑する。
(ルナは頑固だな)
「元々、パナメラは神聖アルジュナ皇国のクルセイダー、キュリアン・マクナナスに幼いころに拾われ、剣を教えられたといわれています。なので、我々が使う剣はクルセイダーたちと同じ、ファルカ族の打った片刃の太刀です。ただし、クルセイダーたちが二刀流で二本の太刀を十字に構えるのに対して、我々は一本の太刀のみを両手で構えます」
「なぜ、クルセイダーに習ったのに、そこは違ったのでしょうか?」
「我々マレス族は、人族よりも反射神経がよく、力も強かったからといわれています。元々、クルセイダーたちの剣技は防御に重きを置いたものですが、我々の種族の特徴を最大限に活かすには、速さに特化した剣技のほうが向いているのです。それがパナメラから伝わる我らの剣技“獣神流”なのですよ」
「獣神流――初手の一撃で必ず相手を倒す剣技。その技を極めた高弟の剣は目に見えないほどの速さだといわれているでありますね」
物知りな魔族の執事が両腕を組んで、シエラゴにうなずいた。
「ああ、さっきのカレラの攻撃、あんまり速いから驚いたよ。スキルが間に合わなかった」
「にゃははぁ、でもすぐにあっさりかわされちゃったけどねぇ」
もうちょっと通用すると思ったんだけどなぁ、とカレラはちょっと恥ずかしそうにテーブルに顔を突っ伏した。
「……ふん。我が主さまに、おまえごときの剣が通用すると思うなど、おこがましいことです」
ラツィが満面の笑みで胸を張る。
(いちいち煽らなくてもいいのに)
「まあ、もちろん勇者さまにかなうなどとは思っておりませんでしたが、カレラの剣術士ランクは6。まだ十七歳の若さにしては、かなりの高ランクで有望な剣士であることは間違いないのですよ」
「そういえば、ソフィアさんもランクがとか言ってたけど、ランクってなんですか?」
「剣術士や神聖術士などは、実力をわかりやすく表すために1から10のランクに分けられているのです。1と2が下級、3と4が中級、5と6が上級。それ以上は王級とか帝級などと呼ばれていますが、普通の人間が厳しい修行に耐えたとしても、ランク5になることすら稀です。そこから先は生まれ持っての才能がなければ到達できません」
(カレラってああ見えて、すごい剣の才能の持ち主なんだな)
「ソフィア殿の神聖術士ランクはおそらく5。カレラ殿の剣術士ランクは6。ということは、ご主人さまの神聖術士ランクは6以上、剣術士ランクは7以上かもしれないでありますな。さすがは我らのご主人さまであります」
マルバンが声を出して笑う。ラツィもまんざらでもない顔だ。シエラゴは優しく笑って、ふたりのドヤ顔を受け流した。
「ランクは実際には、どうやって決まるものなんですか?」
「残念ながら、ここではできないのですが、大きな街の神殿や冒険者ギルドで、神聖術士に魔道具で鑑定してもらい、認定されるのです。まあ、彼らは魔道具とは呼ばず聖具と呼ぶようですが、ランクの鑑定と認定も神聖術士の重要な仕事なのですよ」
『休眠していたスキル《ランク判定》を有効化します。スキル《ランク判定》を発動します。剣聖シエラゴの剣術士ランクは9です……』
サイラスの頭のなかで、そんな声が聞こえた。
(ランク9!?)
サイラスは目の前のシエラゴの穏やかな笑顔を見つめた。まったく強そうには見えない。どこにでもいそうな、人のいいおじさんにしか見えないのだが……。
「おや、どうかされましたか?」
「い、いえ! なんでもないです」
(手合わせの相手がシエラゴさんじゃなくて、本当によかった)
ランクがひとつ違うことで、どれだけ強さに差があるのかはわからない。だが少なくとも、ランクが下の者が上の者に勝つのは相当難しいのだろう。サイラスは身震いした。
いつの間にか辺りは日が落ち、暗くなってきていた。広場の中央に組まれた材木に火がつけられた。
「さあ、お料理の準備もできましたよ!」
エミルが両手にお皿を抱えてテーブルにやってくる。猫人族の女性たちも次々にやってきて、食べ物や飲み物が振る舞われた。
宴が始まった。




