1-53 手合わせ
「勇者だ! 勇者だ!」
猫人族の子供たちがサイラスの周りに群がってきた。盾や服が引っ張られる。ラツィやエミル、ルナやマルバンも子供たちに取り囲まれていた。とくにラツィは大人気でもみくちゃになっている。パールも乱暴に持ち上げられたり、羽を引っ張られたりしていた。
「大丈夫か? ラツィ」
「……ふふふ、我が主さま。もふもふがいっぱいです」
ラツィは、マレス族の子供たちに囲まれて、うっとりしていた。さっき「一匹ほしい」と言っていたのは、わりと本気だったのかもしれない。
ルナの背中には、三人の子供がよじ登っていた。
「おい、私に登るな。……こら、髪を引っ張るんじゃない」
口では叱りながらも、ルナは子供たちが落ちないように、そっと腕で支えている。
「ほらほら、みんな、そこをどいてボクを通して」
「わぁぁあ、カレラだ!」
凛とした若い女性の声に、子供たちが道を作るように、さっと左右に割れた。
サイラスの前にあらわれたのは、長い黒髪に黒い瞳の背の高い女性だった。サイラスよりもすこしだけ低い、百七十センチくらいだろうか。髪と同じ色の猫耳とふさふさした尻尾で、人族ではないことがわかる。
日に焼けた小麦色の健康的な肌。胸元の開いた白い道着から、豊かな谷間が目に飛び込んできて、思わずサイラスは目をそむけた。
「サイラスくん……」
背中に、エミルの小さな声が刺さった。
(み、見てないよ! なにも見てない!)
「勇者の剣を岩から引き抜いたのはキミかい? つまりキミが勇者ってことだね。ボクはカレラ。この里で剣聖を目指して剣の修行をしてるんだ」
「カレラと勇者が手合わせだ! 手合わせだ!」
カレラと名乗った猫人族の女性は、手に長い木刀を持っていた。周りの子供たちが歓声を上げ、走りまわる。
「カレラはめちゃくちゃ強いんだぞー。勇者なんかやっつけちゃえ!」
カレラは子供たちに大人気だった。きっとこの里の実力者なのだろう。ほどなくして、子供たちの間から、もうひとり背の高い大人のマレス族がサイラスの前にやってきた。こちらは落ち着いた雰囲気のたくましい初老の男性だ。
「お初にお目にかかります勇者さま。私はこの里の長で第十三代剣聖シエラゴと申します。こちらは私の弟子のカレラ。私たちは、ずっとあなたさまがいらっしゃるのをお待ちしておりました」
剣聖シエラゴもカレラと同じ黒髪だが、ところどころに白髪が混じっている。どことなくカレラと雰囲気が似ているような気がした。
「サイラスです」
サイラスも名乗り、ぺこりと一礼する。シエラゴの横に、カレラが音も立てずに移動した。ふさふさの尻尾を揺らして、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。
(猫人族って嬉しいと尻尾が揺れるのか。猫耳なのに犬みたいだな)
「ボクは勇者があらわれるのをずっと楽しみにしてたんだ。ねぇ、せっかくだから手合わせしようよ?」
子供たちにはやし立てられて、カレラもその気になったのか、サイラスに手合わせを申し込む。
「えぇ!? 手合わせですか」
「すみません、勇者さま。私からもお願いします。カレラと手合わせをしてはいただけませんでしょうか? 勇者さまの強さが見られれば里の者たちも喜びます」
剣聖シエラゴが頭を下げた。
「……くくくっ、我が主さま。身のほど知らずな獣人族の女など、真っぷたつにしてくださいませ」
「にゃは、そっちの赤い髪の子、可愛い顔して言うことが過激だねぇ。でも、ボク、そういうの嫌いじゃないよ」
「……獣人族風情に好かれても、嬉しくありません」
「にゃはは、つれないなぁ。じゃあ、ボクが勝ったら仲良くしてよね。先手必勝、一刀両断ってね!」
「物騒なことを言うなよ、ラツィ……わかりました。手合わせしましょう」
サイラスは仲間たちの顔を見まわした。エミルは曇った顔をし、マルバンは興味津々で、ラツィは不敵な表情。ルナは無表情だったが、いつでもサイラスの前に飛び出せるように身構えている。
(ルナ、出番はないから大丈夫だよ)
カレラがどれだけ強いのかわからなかったが、強敵なら、きっとスキルも発動するだろうし、いきなりやられるということはないだろう。
サイラスは覚悟を決めた。
「記憶喪失勇者」1-53を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




