1-50 どうりで暑いわけだ
「いつの間に着替えたんですか! 色仕掛けなんて、卑怯です!」
「……くくくっ」
エミルもサイラスの左手を両手で握り、負けじと潤んだ深い緑の瞳を向けてくる。ラツィとは百八十度違う、癒やし系の美しさがそこにはあった。
(ふたりとも見てるだけなら、すごく可愛いんだけどなぁ……)
「……このわたくしの身も心もすべてが主さまのもの。さあ、主さま、今宵はわたくしのことを主さまの好きにしてくださってもかまいません」
「わっ、わたしだって、はう。その……さ、サイラスくんとなら、別に……そういうことだって……男の人とふたりっきりで同じ部屋に泊まるなら、いつでもそうなる覚悟をしておくようにと、村を出るときに母さまがおっしゃっていましたし……すこしくらいなら……」
「ふっ、ふたりともなにを言ってるの!?」
真っ赤な顔になったサイラスは、気持ちを落ち着かせるように目をつむり、深呼吸をした。
(ここでどっちかを選んだりしたら、取り返しのつかないことになりそう……)
◇
「……なんで、わたくしがこの小娘と同じベッドで寝なければならないのですか!」
「わたしだって嫌です!」
「主としての命令だよ。しもべは主の言うことを聞くんでしょ? エミルも嫁入り前の娘が男と同じベッドで寝ちゃダメだよ。僕がトリマンさんに叱られちゃう。嫌なら僕は外で寝るからね」
「……うぅぅぅぅ!」「むぅぅぅぅ……!」
黒いネグリジェを着たラツィと水色の寝巻きを着たエミルが、同じベッドで窮屈そうに並んで寝ている。サイラスはひとりでベッドに入り、目を閉じた。
(女の子たちには悪いけど、どっちかを選ぶなんてことはできないし、狭いベッドで我慢してもらおう。これがベストな解決策だよね)
サイラスはなんだかんだで疲れていたのか、目を閉じるとすぐに深い眠りに落ちていった。
◇
翌朝。サイラスはベッドのなかが暑くて目を覚ました。両腕がなぜだか重たい。
「むにゃ、サイラスくん。もっとおかわりありますよ……いっぱい食べてくださいね」
声のしたほうに恐る恐る顔を向けると、そこにはサイラスの左腕を枕にして眠っているエミルの可愛らしい寝顔があった。
驚いたサイラスが反対側を見ると、まるで当然とでも言うかのようにラツィが右腕にしがみついたまま、幸せそうな顔をして眠っている。
サイラスが知らない間に、ふたりはサイラスのベッドに忍び込み、三人でひとつの狭いベッドのなか、ぎゅうぎゅうになって寝ていたようだ。
(どうりで暑いわけだ……)
思わず見惚れてしまう美少女ふたりにくっつかれて眠るなんて、男だったら誰もが羨む状況だったが、サイラスは深くて長いため息をついた。
(ふたりとも気持ちよさそうに寝てるし、まあいいか)
エミルとラツィの寝顔を交互に見ながら、サイラスはあらためてこれまでの旅を思い返した。
辺境伯ソフィアの警告どおり、刺客に実際に襲われ、これまで半信半疑だったサイラスも自分が四百年前の“帰らずの勇者”だということを認めざるを得なくなっていた。
ルナの話によれば四百年前、自分は大切な人を守ることができなかったらしい。サイラスにその記憶はなかったが、胸の奥が痛むのも、誰かを助けたいという強い衝動が湧いてくるのも、四百年前のことが原因なのかもしれない。
(今度こそは、みんなを守り抜く。もう二度と誰かを失ったりしない)
仲間を守るためにも、自分はもっと強くならなければならない。そう心に誓い、サイラスは自分の隣で寝ている、ふたりの少女を優しく起こすのだった。
「……ん……サイラスくん……?」
薄く目を開けたエミルが、自分が枕にしているものに気づいて、固まった。
「はう!? ど、どうして、わたし、サイラスくんの腕を……!」
「……朝から騒がしいですね、飯炊き女」
反対側で、ラツィが片目だけを開けた。サイラスの右腕は、しっかりと抱え込んだままだ。
「あ、あなたこそ! ふたりで同じベッドで寝るようにって、サイラスくんに言われたじゃないですか!」
「……ええ。ですから、ちゃんと同じベッドで寝ていますよ。我が主さまと」
「そういう意味じゃありません!」
朝から始まった口喧嘩を両耳で聞きながら、サイラスは天井を見上げた。
(やっぱり、外でマルバンたちと寝ればよかった……)
「記憶喪失勇者」1-50を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




