1-45 姉さま
ラツィが表に出ている間、セフィはぼんやりと最愛の姉のことを考えていた。
姉は子供のころからずっと、喧嘩の弱い自分をいじめっ子たちから守ってくれた。
魔王の娘とはいえ、魔界では強さだけがすべて。城の外に出れば、弱いセフィに意地悪をする魔族も多かった。
父はふたりに優しかったが、自分の身は自分で守れるようになれ、というのが父の教えでもあった。
姉は小さなころから本当に強かった。だからといって弱いものいじめをするようなこともない。ラツィが力を振るうのはセフィを守るときだけだ。セフィはラツィが喧嘩に負けるところを見たことがなかった。
そんな誰よりも強い姉に、セフィは心から憧れていた。ふたりはいつでもいっしょだった。
父である魔王が勇者レギウスに倒されてからは、姉は父に代わって妹を守るのが自分の使命だと、より強く思うようになった。
セフィは幼いころのことはよく覚えている。だが、ラツィと自分がベタクロフに捕まってしまったころから、姉の身体を共有するようになる前までの記憶がなかった。
自分の肉体を失ったとき、セフィは一番つらかった時期の記憶を封印し、それと同時に無意識に精神を幼児退行させていた。そうすることで、肉体と同じように脆弱だったセフィの精神だけは守られたのだ。
だから、セフィは、いつの間にかラツィの身体のなかに入ってしまったと思っていた。ラツィに聞いても、姉は寂しそうに微笑むだけで、なにも教えてはくれなかった。それでも、大好きな姉とずっといっしょにいられるのだから、セフィとしてはまったく問題なかった。
ふたりがひとつの身体になった後、ラツィは周りにセフィの存在を隠した。セフィが死んだことにしたのだ。だから、あいつに捕まっている間は、いまのようにセフィが表に出てくるようなことはなかった。
ラツィのなかに隠れていても、セフィは姉とすべての感覚を共有していた。だが、鎖につながれて、あいつの部屋に連れていかれるときには、ラツィはセフィの感覚をすべて閉じた。
その間、セフィにはなにも見えず、なにも聞こえず、外からの感覚はなにもなかった。けれど、姉が感じている悔しさ、怒り、悲しみ、怨嗟、そういった感情がまざまざと伝わってきて、セフィはラツィのなかで震えて泣いた。
姉が自分を守ろうとしてくれていることは、よくわかっていた。昔からラツィはずっとそうだった。いつもセフィのことを一番大切に思ってくれているのだ。
(セフィがもっと強かったら、姉さまを守ってあげられたのに……)
セフィには、ラツィが無理をして大丈夫なふりをしているのがわかっていた。姉があいつにひどいことをされていると知っていたけれど、気づいていないふりをした。
(姉さま。セフィは、ここにいるよ。ひとりじゃないよ)
ふたりがあいつに捕まってから、どれだけの月日が過ぎたのかセフィにはわからなかった。音もない暗闇のなかで姉を助けられない己の無力さを痛いほど感じつづけ、セフィが絶望しかけたころ、マルバンたちが命がけで魔王城に潜入し、ふたりを救い出してくれたのだった。
セフィは、ラツィがあの地獄のような責め苦から解放されて、心から安堵した。
人界で姉は、四百年前に自分たちを助けてくれた勇者を探すと言い出した。無茶な話だった。四百年前の勇者が本当にあらわれるかどうかもわからないのだ。
仮に見つけられたとしても、人族の勇者が魔族のために戦ってくれるとは限らない。だから、ラツィは勇者を見つけたら魔王退治に協力して恩を売り、ついでにあいつのことも倒してもらうのだと言った。
でも、四百年前に出会った勇者は強すぎて、ラツィたちの助けをまったく必要としない可能性もあった。
そこでマルバンが備えとして考案したのが、“色仕掛け作戦”だった。ラツィの魅力で勇者を虜にして、言うことを聞かせ、あいつを倒してもらおうという作戦だ。
そのためにラツィは、人族の街の仕立屋で“セクシー”なメイド服まで作った。
勇者はパールのスキルであっさり見つかった。
作戦が始まるとなれば、セフィも協力しようと思った。
昔のセフィは引っ込み思案で、いつも姉の後ろに隠れていた。知らない人と仲良くするなんてありえなかった。
だが、もうそんなことを言ってはいられない。姉の目的を果たすために、勇者と仲良くなるために、自分の性格を変えるのだ。セフィは生まれて初めて、父やラツィやマルバン以外の存在と仲良くなろうとしていた。
けれど、それは思っていたよりも嫌なことではなかった。むしろ、セフィはもっとサイラスと仲良くなりたいと思うようになっていた。サイラスの顔を見るとドキドキするし、身体にくっつくと安心して幸せな気持ちになった。
そして、セフィは姉も自分と同じ気持ちだということに気がついた。ラツィもサイラスにドキドキしているのだ。
セフィは生まれて初めて感じたこの感覚を、大好きな姉も同じように感じていることがとても嬉しかった。
(ずっといっしょだよ、姉さま。もしまた、生まれ変わっても、セフィは姉さまの妹になる。ぜったいに、ぜったいだよ。いっしょに勇者を“めろめろ”にして、あいつを倒してもらおうね。姉さま)
「記憶喪失勇者」1-45を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
もし、この小説を読んで、すこしでも面白いと思っていただけたら
【☆☆☆☆☆】をタップして、★をいただけると嬉しいです!
ブックマークで応援していただけると、とてもとても嬉しいです!!
あなた様の応援が、何よりの原動力です。よろしくお願いいたします!!
※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
ラツィとセフィの子供の頃のイメージ画像をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




