1-42 新たなスキル
詳しい事情はサイラスにはわからなかったが、ラツィたちは魔族から追われているらしい。捕まればひどい目に遭わされるようだ。
それなのに、ラツィは自分を差し出すと言い出した。
(ラツィは魔族だけど、人間の女の子たちのために自分を犠牲にしようとしてる……)
サイラスの真紅の瞳が、そんなラツィの顔を優しく見つめた。
「ラツィ。大丈夫だ、心配するな。おまえがそれを望むなら、僕はおまえの勇者になってみせる。おまえをあんな奴にはわたさないし、ふたりは必ず、僕が助ける!」
「……あ、主さま?」
エミルを魔族から助けたときも、サイラスは勇者になると宣言した。そうすると、なぜだか身体の奥から力が湧いてきた。今回もそうだ。ふたりを絶対に助けると覚悟を決めたとたん、力がみなぎってくる。
(よし、イチかバチかだ。やるしかない!)
サイラスは目をつむり、頭のなかでデルギフトの触手からエミルとソフィアを解放するところをイメージした。
『ユニークスキル《乙女の祈り(アンドロメダ)》を確認。ユニークスキル《光の勇者》を発動します……』
『休眠していたユニークスキル《超高速機動》を有効化します。ユニークスキル《超高速機動》を発動します……』
『新たなユニークスキル《神の槌》を作成しました。自身が投げた物体を自由にコントロールできます。また、投げた物体は必ず自身の手に戻ってきます。ユニークスキル《神の槌》を発動します……』
サイラスの身体が、ぼんやりと白い光に包まれる。
「はっ!」
サイラスはデルギフトに向かって盾を投げるのと同時に走り出した。そのあまりの速さに、サイラスの動きを目で追えた者はいなかった。
サイラスの投げた盾は、エミルを捕らえた触手を根元から断ち切り、魔族の背後で弧を描いて反対側のソフィアを吊るした触手も断ち切って、走ってきたサイラスの腕に戻った。
そして、サイラスは盾でデルギフトの腹を裂き、落ちてきたエミルを盾を持った右腕で受け止め、魔族の後ろをまわり、ソフィアを左腕で受け止めて、元いた場所まで駆け戻ってきた。
その場にいた者には、突然、デルギフトの頭の両側の触手が切れて紫色の血が噴き出し、ほぼ同時に腹が裂けて、緑色の魔族は笑みを浮かべたまま、ゆっくりと後ろに倒れ、黒い灰と化して崩れ去ったように見えた。
サイラスのそばにはエミルとソフィアが、なにが起こったのか理解できずに呆然と立ち尽くしていた。
「あれ? わたし、サイラスくん? なんで? あれ?」
「貴方が……わたしを助けてくれたのですか?」
サイラスはふたりを安心させるように、笑顔を向けた。
「ああ、うん。ふたりとも無事でよかったよ。でも、ごめん。ちょっと油断したかもしれない。怖い思いをさせて、ごめん」
「いいえ。サイラスくんなら、きっと助けてくださると信じてました。……ありがとうございます。サイラスくん……」
エミルがすこし涙ぐみながらも白い頬を赤く染めて、サイラスの手を取った。
(なんとか、うまくいってよかった)
(でも、もし、あのときデルギフトが最初からふたりを殺す気だったなら、エミルもソフィアさんもいまごろは……)
サイラスは背筋が凍った。
(仲間を守れないんじゃ、どんなスキルを持ってたって意味がない)
サイラスは奥歯をぐっと噛みしめた。
「やったね、ご主人さまぁぁああっ!」
そこに、いつの間にか髪を水色に変えたセフィが、ひまわりのような笑顔で飛び込んできた。サイラスに思いっきり抱きつくと、豊かな胸をぎゅうぎゅうと押しつけてくる。
「もうっ、セフィちゃん! でも、なぜだかセフィちゃんのことは怒れませんね」
エミルがふわりと優しい笑みを浮かべた。
「戦利品があったでありますよ、ご主人さま!」
マルバンがサイラスに駆け寄り、サイラスの拳よりもふたまわりも大きな魔晶石を差し出す。デルギフトの体内から出てきたものだろう。両手で受け取ると、ずしりと重かった。
「うっわぁぁ、すっごい魔晶石。そんなのはじめて見たよー」
セフィが笑顔で目をぱちくりとさせる。
(これだけ大きな魔晶石なら、けっこうな値段で売れるのかな?)
「それにしても、さすがは我らのご主人さまであります。魔界で数々の魔将を葬ってきた、あの凶悪な千人殺しのデルギフトを瞬殺してしまうとは。そのうえ、我のような者の生命まで救っていただいて、本当にありがとうであります。ご主人さま……」
魔族の執事は自分の手の甲を目に当て、よよよと泣きだした。セフィはそんなマルバンの頭をよしよしとなでている。
「そんなの当たり前だよ。もうみんな仲間じゃないか」
サイラスはマルバンに抱きつくセフィを見て、思わず微笑んだ。
(それにしても、おかしな仲間が増えちゃったもんだな)




