1-36 辺境伯
エミルの用意した夕食を終えると、各々、焚き火の周りで横になった。
ルナにはもちろん、食事も睡眠も必要ない。食事の最中から、ルナは焚き火の明かりに照らされるサイラスの横顔を見つめていた。
ルナには、製作者のニーナ・エリカ・シスレートの記憶があった。
四百年前、彼女はサイラスが魔王討伐の旅に出るときに、こっそりその荷物に隠れてついていった。サイラス十五歳、ニーナ十三歳であった。
ふたりは領地が隣同士で、お互いの両親の仲もよく、年が近かったことから、子供のころはよく遊んだ。そして、サイラスは気がつかなかったが、ニーナは小さなころから、ずっとサイラスに恋をしていたのだ。
ルナはサイラスの顔を見ると、胸が高鳴った。もちろん、心臓はないのだが、ニーナのサイラスに対する気持ちが蘇ってくるのだ。
それと同時に、深い罪の意識も感じていた。
自分がついていかなければ――自分が魔族にさらわれたりしなければ、“エミリア”は……サイラスの想い人だったベガリアの王女は、死ぬことはなかったのだ……。
ニーナは元々、天才だった。神聖術士としての才能だけでなく、シスレート公国で盛んだった魔導人形製作においても、幼いころから抜きん出た才能を発揮していた。
サイラスが消え、ニーナは国に戻り、その一生を捧げてルナを造った。ニーナは生涯独身だった。そして、四百年が経ったいまでも、ルナを超えるような魔導人形は造られていない。
ルナは思った。この感情の高ぶりは、自分のものではない。ニーナに組み込まれたものだ。
だが、ニーナの想いを無駄にはしたくなかった。“サイラスを守りたい”という、ニーナの願い。それを叶えてあげたいと思う。だから、
(サイラスは私が守る。私はそのために造られた盾なのだから)
ルナは自らの製作者ニーナ――母に誓うのだった。
◆
サイラスたちが勇者の盾を手に入れた次の日の朝。小さな川沿いを急ぐ、五騎の騎士たちの姿があった。
先頭は、紺色のローブを着込み、透けるように美しい金髪をショートカットにした少女だ。後ろからプレートメイルの上に紺色のサーコートを羽織った騎士たちが続く。
ほどなくして、騎士たちは崩壊した祠の前までやってきた。
「こ、これはどうしたことでしょうか、ソフィアさま?」
ソフィアと呼ばれたローブ姿の少女が馬から降り、祠に近づいていく。天井がなくなって瓦礫だらけになったなかを覗いた。
「天井が落ちて、勇者の盾が失われています……魔導人形もありません」
「なっ、なんですと!」
騎士たちに動揺が走った。それぞれが急いで馬を降り、祠のなかを調べはじめる。小柄な騎士のひとりが少女に近づいてきた。目つきは鋭いが、女性のようだ。
「やはり、ルルドの村で魔族を倒したという者の仕業でしょうか?」
「それはわかりません。ただ、ガリウス王家の者ではない勇者があらわれた可能性があります。魔族がなんらかの方法を使って、とも考えられますが……」
勇者の三種の神器は、次の勇者があらわれるまで、王城で大切に保管されてきた。ところが四百年前、魔王を討伐した勇者サイラスは帰ってこず、神器も戻らなかった。
当時、大規模な捜索が行われたが、結局、なにも見つからず、神器は勇者とともに消えたと結論づけられた。
時は流れ、いまから五十年ほど前。森で迷った木こりが、木立を抜けた先で偶然この祠を発見した。古い絵画や書物の記述から、見つかった盾は本物の神器だと王都の学者たちによって認定された。
回収のために騎士たちが派遣されたが、誰も盾を動かすことができなかった。仕方なく、ベガリア辺境伯の配下の騎士たちが定期的に祠を巡回するようになった。
祠の見回りは簡単だが、退屈な仕事だった。盾を動かすことは誰にも不可能なのだから、盾が消えるなんてことはあるはずがなかった。今日、この日までは――。
紺色のローブを着た金髪の少女――ベガリア辺境伯ソフィア・ニーナ・シスレートは、崩壊した祠を見つめて考えていた。
西のルルドの村で、記憶喪失の少年が複数の魔族をひとりで倒したという話を村人たちから聞いたときは、正直、信じられなかった。
だが、大勢の村人が口裏を合わせて、そんな嘘をつくことにどんな利益があるというのだろうか? むしろ、領主の自分に虚偽を告げることがどれだけ危険なことか、まともな大人ならわからないはずがない。
魔族があらわれたという森の奥では、魔界からこちらに来るときにできる“魔宮”が見つかった。魔族が存在していたということは疑いようもない事実だった。ソフィアは騎士たちを派遣して、魔宮の最深部にある魔術陣を破壊させていた。
そして、胸騒ぎを覚えて城には戻らず、騎士たちを連れてこの祠にやってきた。
予感は的中した――。
「ラルフはすぐに戻って、鷹をズリクに飛ばしてください。勇者の盾が消えたことを父上に知らせてほしい。わたしはこのままリーンに向かい、大公閣下にこのことを報告します。キーラはわたしと来てください。他の者はこの付近を捜索してから城に戻ってください」
ソフィアはふたたび馬にまたがると、すぐに駆け出した。キーラと呼ばれた銀髪の女騎士もそれにつき従う。
魔王の復活が近いことは誰もが知っている。自分の知らないところで、なにかが動きはじめているのかもしれない。
ソフィアは金色の髪を風になびかせながら、紅玉のような真紅の瞳で、まっすぐに遠くの空をにらみつけた。
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さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




