1-33 新米冒険者
冒険者風の三人組が、こちらに向かって歩いてくる。ひとりは戦士なのか、右手に剣を持ち、革鎧を着込んでいる。その後ろから、赤いローブの魔術師風の女と、灰色の地味な聖職者風の男がついてくる。
「……剣術士と精霊術士と神聖術士ってところですか。新米冒険者ですね。すこし脅してもいいですか? 我が主さま」
いつの間にか、セフィの水色の髪が燃えるような赤に変わっていた。ラツィは、薔薇のように赤い小さな唇を舌でちろりと舐めている。
(脅すって。目が本気なんだけど)
「ラツィとマルバンは手を出さないでくれ」
ラツィの派手なスキルを見せて、魔族だとバレるのは避けたかった。どうやったら相手と争わずに盾をあきらめてもらえるだろうか。サイラスは両手の盾を見ながら考えはじめた。
「ヘロヘロ、大丈夫なの? 相手のほうが人数多いわよ」
「ヘロヘロって呼ぶな! 俺は勇者ヘロレスだ! 問題ない、やつらは武器を持ってないじゃないか。ついに勇者の盾を見つけたんだ。手に入れて、本物の勇者に俺はなる!」
「なにが、勇者よ。盾が光ったくらいで、びびって逃げ出したくせに」
「うるさいぞ、フラフラ! 相手に聞こえるだろ!」
「フラフラって呼ばないで! わたしはフラン! ヨレヨレもなんとか言ってよ!」
「ひどいなあ、フランは。ちゃんとヨレウスって呼んでくれよ」
(なんだ、あの三人組。揉めてるのか?)
冒険者らしき三人組がなにやら話し合った後、戦士風の若者が前に出てきて、剣をこちらに向けた。
「どうやら、おまえたちは痛い目に遭わないとわからないみたいだな。素直に盾をわたせば、怪我をしないですんだのに!」
「あの冒険者たちの足元にその盾を投げろ」
ルナがサイラスに耳打ちした。
「えっ!?」
「大丈夫だ。早く投げろ」
(大丈夫って? まあ、ルナがそう言うなら……)
サイラスは、ルナの言う通りに“フリスビー”の要領で、大きな丸い盾を冒険者のほうに思いっきり投げた。
「てりゃっ!」
「……なにをするのですか!? 主さま」
「サイラスくん!?」
驚く仲間たちの前で、勇者の盾は綺麗な弧を描いて冒険者たちに向かって飛んでいった。そして、そのすこし手前に落ち、跳ねて、戦士風の青年の顎に直撃した。
「うごっ!」
戦士は吹っ飛び、後ろのふたりを巻き添えにして倒れ、その上に盾が落ちてきて乗っかった。
三人組は動かなくなった。
(うわっ、狙ってなかったのに、当たっちゃった……)
「あの方たち、ご無事でしょうか?」
「さすがは我らのご主人さま。完璧な攻撃でありますね」
「……」
エミルが心配そうにサイラスの顔を見る。マルバンは優雅にうなずいている。ラツィはあきれ顔だ。
「まさか、ルナ。これを狙ってたの?」
「いいや。勇者の盾は選ばれた者にしか持ち上げることができない。それをあいつらにもわかってもらおうと思った」
サイラスたちは、倒れた冒険者たちのほうに歩いていった。どうやら盾の重さで動けなくなったようだ。戦士は顎の骨が砕け、口から血を流して白目をむいている。
「早く、この盾をどかしてえぇぇぇ! 重たくて、死んじゃうぅぅぅ!」
戦士の下で、赤いローブの女がわめいていた。
「僕にはすごく軽く感じるんだけど。これが盾に選ばれたってことなのかな」
サイラスは冒険者たちの上から盾をどかしてやった。ルナが気絶している戦士の顎を包むように両手をかざすと、その手から白い優しい光があふれ出す。
「神聖術です!」
「……まさか、魔導人形が神聖術を使えるなんて」
エミルが思わず声を上げた。ラツィもこれには驚いたようだった。
(ルナって、すごいんだな)
「あ、ありがとうございましたっ! ……ほら、ヘロヘロ、あんたもちゃんとお礼!」
「へ、ヘロヘロって呼ぶな……」
勇者の盾をあきらめた冒険者たちは、ぺこぺこしながら目を覚ました戦士を抱えて、逃げるようにその場を去っていった。
邪魔者がいなくなったのを見計らって、目を輝かせたマルバンがルナに詰め寄った。
「しゃべるだけでも充分に特別でありますのに。あなたはいったい、誰に造られたのでありますか、ルナ?」
「…………」
しばしの沈黙の後、ルナは自らのことを語りはじめた。
「私を造ったのは、四百年前に勇者サイラスとともに旅をした三人の仲間のひとり、ニーナ・エリカ・シスレート。彼女は勇者サイラスの幼なじみであり、シスレート公国の姫――」
「……ああ、あのちっこい神聖術士の娘ですね。一番、主さまの役に立たなそうだった」
(ラツィ、もうすこし言い方があるんじゃないかな……)
言葉を遮られたルナが青い瞳を細めて、ラツィをにらみつける。ラツィは小さな赤い唇を歪めて、笑顔を返した。




