1-31 祠
セフィが表に出ている間、ラツィはぼんやりと双子の妹のことを考えていた。
ひとつの身体をふたりで共有するようになる前、妹のセフィはとても無口な少女だった。
なのに、いまでは明るくて、よくしゃべる。悪いことだとは思わない。ただ、話し方が幼くなって、まるで別人のようになってしまったのが、ラツィにはすこしだけ寂しかった。
以前のセフィはほとんどしゃべらず、感情を表に出すこともなかった。それでも、ラツィには妹の考えていることがなんでもわかった。言いたいことも、してほしいことも、セフィがなにも言わなくても、顔を見ただけで理解できたのだ。
本来なら、ひとりの存在だったはずの双子にしかわからない特別な感覚だったのかもしれない。セフィのほうも、ラツィの考えていることはお見通しのようだった。ふたりは誰から見ても本当に仲のよい姉妹で、セフィはいつもラツィの後ろをついてまわっていた。
ラツィとセフィは双子だったが、戦闘力に関してだけは圧倒的にラツィのほうが上だった。ラツィはアルージュの第四魔将、セフィは第二十四魔将。だから、八百年前にアルージュの魔王が勇者レギウスに倒されてからは、ずっとラツィがセフィを守ってきた。
自分の生命に代えても妹を守る。父である亡き魔王に、ラツィはそう誓った。誓ったのに――守りきれなかった。
セフィの明るい声を聞くたびに、ラツィは以前のおとなしかったセフィを思い出し、最愛の妹を守れなかった自分を責めた。苦い記憶がぐるぐると蘇り、心を苛む。
(守ってあげられなくて、ごめんね。ごめんね……わたくしは、セフィのたったひとりの姉さまなのに……)
そんなときは、セフィに伝わらないように、ラツィは心を閉ざし、妹が見つけられない場所に暗い気持ちを隠す。
身体が別々だったころには、隠したくても隠すことのできなかった自分の気持ちが、同じ身体を共有してからは隠せるようになるなんて。ラツィは皮肉を感じるのだった。
◇
真夏と変わらないような眩しい太陽が南の空に昇り、容赦ない日差しが地上に降り注ぎはじめたころ、川沿いの広場のような草原に小さな白い祠が見えてきた。人が二、三人やっと入れるくらいの、石で造られた簡素なものだ。
「あれかな? あれかな? ご主人さまの盾があるところ。セフィ、先にいって見てきてもいいかな? いいかな?」
「いや、なにがあるかわからないから、みんなで行こう」
(セフィは好奇心旺盛だな。でも、ここは慎重にいかないと)
いまにも走り出してしまいそうなセフィの肩に、サイラスは優しく手を置いた。セフィは金色の瞳をきらきらさせて、弾けるような笑顔をサイラスに向ける。
(ラツィと同じ顔なのに、この笑顔を見てると別人に見えるのが不思議だ)
「サイラスくん! 祠の前、誰かいらっしゃいます。ふたり? もしかしたら、ベガリア辺境伯の騎士さまでしょうか?」
エミルの声で、サイラスも目を凝らした。確かに祠の前にふたり。祠のなかにもうひとりいるようだ。武装している。だが、近くに馬もいないし、装備も騎士にしては貧弱に見える。
「冒険者みたいだな。でも、冒険者がこんなところになんの用なんだろう?」
「おおかた、勇者の盾を見つけて、どこかで売ろうとでも思ったのでありましょう」
マルバンが優雅な仕草で前髪をかき上げながら言った。
「勇者さまの盾を売るなんて……そんなことをしたら、罰が当たってしまいます」
エミルが眉を寄せると、セフィもこくこくとうなずいた。
「ご主人さまの盾を売るなんて、セフィが許さないよ!」
(マルバンの推理が正しいとしたら、ちょっと面倒なことになるかもしれないな)
「とりあえず、近くまで行ってみよう。できれば人とは戦いたくないな」
エミルを助けるために魔族と戦ったサイラスだったが、人間が相手となると話は別だった。大怪我をさせたり、殺してしまったりしたら、きっと後悔する。
(でも、魔族だから倒してもいいとか、人間だからダメとか、そういう話でもないよな)
「ねー、ねー、ご主人さま。早くいこーよー」
セフィに腕を引っ張られて、サイラスは我に返った。
サイラスたちが祠に近づくと、わあーという声がして、先ほどの冒険者風の三人組が祠から離れていった。なにかから逃げているようだった。
(なんだ? なにかあったのか?)




