1-25 運命
(この魔族たちは、僕のことを四百年前の“帰らずの勇者”だと思ってるのか)
「人違いだよ。僕の名前はサイラスだけど、そんな四百年前の勇者とはなんの関係もない」
「……いいえ。あのとき、燃え尽きて廃墟となった城のなかで、我が主さまの奴隷たちは言っていたのです。四百年後にふたたび主さまがこの地にあらわれると。それまで、勇者の三種の神器を守らなければならないと」
サイラスの腕にしがみつきながら、ラツィが頬を染め、うっとりと金色の瞳で見つめてくる。サイラスは思わず目をそらした。
(近い。顔が近い。すごくいい匂いがする)
「……それに、わたくしが我が主さまの顔を忘れるはずがありません」
「サイラスくん! 魔族の言うことなんて信用してはダメです」
サイラスの背後でラツィをにらみつけながら、エミルが抗議の声を上げる。確かに、エミルの言うことはもっともだ。相手が絶世の美少女だったとしても。魔族の言葉を簡単に信じていいのだろうか?
(いや、美少女だからこそ危険なのか?)
「……ならば、我が主さまのスキルで、確かめればいいではないですか? わたくしたちが主さまに仇なす者かどうか、四百年前と同じように。主さまには相手の嘘がわかるのですから」
「スキル? 僕にそんな力が……」
ラツィにそう言われても、サイラスにはなんのことだかわからなかった。だが、とにかくまっすぐにラツィの金色の瞳を見つめてみた。
またしても、サイラスの頭のなかに人工的な女性の声が響く――。
『休眠していたユニークスキル《女王の瞳》を有効化します。自分よりレベルの低いものを短時間、操ることができます。また、相手が嘘をついているかどうか判別することもできます。スキルの有効時間は使用者のレベルに比例します……』
(また、頭のなかで声が……。でも、嘘を見抜けるスキル? 試してみるか)
『ユニークスキル《女王の瞳》を発動します……』
「おまえたちは、僕たちを騙して罠にかけるつもりなのか?」
「……わたくしたちが、我が主さまを罠にかけるはずがありません。四百年もの間、我が主さまが戻られる日だけを楽しみにずっと待っていたのですから」
不服そうに唇を尖らせるラツィの顔を見ていると、不思議なことにサイラスには魔族の少女の言葉に嘘がないことがわかった。
「うん、確かにおまえは嘘をついてない。なぜだかわからないけど、それだけはわかる」
ラツィは腕を抱く力をぎゅっと強めて、薔薇のような笑顔を見せた。
「……マルバンが用意した、人族が人族に仕えるときに着るという、この衣装はいかがですか? 我が主さまがお望みなら、今宵はしとねをともにして夜伽の相手をしてもかまいません。わたくしの身も心も主さまのもの。ラツィは我が主さまのしもべなのですから」
「ええええ!?」
(しとね!? 夜伽!? なにを言い出すんだこの子は!?)
すこし離れて控えていたマルバンが、感じ入ったように何度もうなずいた。
「さすがは姫さま。しもべとして、見上げたお心がけであります」
(いや、そこは止めてよ!)
「もう、サイラスくんから離れてください。離れてぇぇぇぇ!」
エミルが赤い顔をして、ラツィをサイラスから引き剥がそうとする。ラツィは抵抗して、サイラスの腕にさらに強く張り付いた。
「……さっきから、おまえはいったいなんなのですか? 我が主さまの新しい奴隷ですか? わたくしの邪魔をしないでください」
「わたしは奴隷なんかじゃありません! わたしはサイラスくんの……えっと……その、はう。なんなのでしょう? ですが、あなたはサイラスくんから離れてください!」
(確かに。僕とエミルの関係って、なんなんだろ……?)
「……いいえ、我が主さまとわたくしが、ふたたびこの地でめぐり逢えたのは運命なのですから。死がふたりを分かつまで、もう離れません……」
「ええっ!」
うろたえるサイラスの前で、美少女ふたりの言い争いがヒートアップしていく。
「ただ、待ち伏せしていただけじゃないですか!」
「……待ち伏せではありません。今日、この場所に我が主さまがあらわれるような気がして、朝から待っていたのです」
「それを待ち伏せって言うんです!」
「……だから、運命だと言っているのです!」
(運命ではないと思うけど……)
ラツィはエミルよりも小柄で華奢なのに、エミルがラツィの細い腰をつかんで全力で引っ張ってもびくともしない。ラツィは不敵な笑みを浮かべている。
「……くくくっ、やはり、おまえごときの力では、わたくしと主さまの絆を裂くことなどできないようですね」
「もうっ、いいかげん、離れてください!」
(なんだろう、このカオスな状況……)
エミルに身体を引っ張られながら、ラツィは自分の肩の黄金のフクロウ――パールのようすがおかしいことに気がついた。
「……パール?」
パールは目を見開いて、サイラスのことを凝視していた。警戒するかのように身体が細くなり、小刻みに揺れている。震えているのだ。くちばしが、かちかちと小さな音を立てる。
パールの小さな身体から、殺気がほとばしった。そして、ラツィを守るかのように、ゆっくりと金色の羽を広げていった――。
「記憶喪失勇者」1-25を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
さいらすと申します。
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※『勇者レギウス ~最弱勇者と最強従者~』という小説も書いています。
※本編の800年前のお話です。
※リンクはあとがきの下にあります!
挿絵をChatGPTに描いてもらいました!
※この小説は執筆に一部、AIを使用しています。
・自身で執筆した文章をAIに改変させているが、再度全て自分で編集・改稿
・自身で執筆した文章の誤字・脱字チェック




